スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

地域での存在感をアップ!ブランディングを軸にしたPR戦略。

滋賀県/有限会社ネヌケン
代表取締役 根縫 徹也さん

今回お話をうかがったのは、LIXILメンバーズコンテスト2021のリフォーム部門で大賞を受賞した有限会社ネヌケンの根縫徹也さんです。「受賞してから声をかけていただくことが増えましたね。この賞は業界で見ている方が多いので」とのこと。地域でも一目をおかれている工務店が大事にしていたのは、自分たちのこだわりがしっかり伝わるブランディングの徹底でした。

■ご活用ツール:#LIXILメンバーズコンテスト



東京の設計事務所との新たな縁も生まれた受賞

LIXILメンバーズコンテスト2021リフォーム部門の大賞受賞作「日野町の古民家」では、江戸期の礎石建て古民家を改修。既存の建物が持つ美しいフォルムを残しながら断熱補強なども実施し、土間仕様のキッチンや囲炉裏を囲む洗練された現代の住空間をつくり上げた有限会社ネヌケン。琵琶湖の豊かな水を育む森林を大事にする滋賀県民としての意識から、地元の県産材を使った家づくりにも積極的に取り組んでいる工務店です。

「滋賀県では県民税の中にも森林税というものがあり、子どもの頃から山を守っていくことの大切さを学校の授業でも学んでいます。滋賀県から補助金が出るということもありますが、まずは一緒に山を守っていきましょうというお話をさせてもらって、県産材を使うことに共感していただくことが多いですね」

県産材は扱いが難しく、扱える業者が少ないことからコストがかかる側面があるものの、吸湿性に優れ、木の香りも輸入材よりはるかに良いという利点があるといいます。また、地域のものを地域で消費する地産地消の意味も。

「40年、50年という長い間、地元の春夏秋冬を経験して育った木を使うことで、環境に対しての耐性があったり、木のくせが出にくかったりするのではないかということも期待して使っています」

大工一家だったお祖父さまの後を受け継ぎ、工務店を営まれたお父さま、そして今は根縫徹也さんが継ぎ、また新たな風を吹き込まれているネヌケン。今回の大賞受賞を機に、これまでつき合いのなかった会社から業務提携の声がかかることも増えたのだとか。

「東京の設計事務所から、工務店を探しているという依頼などが増えていますね。うちは自社だけでつくるのが6割くらいで、4割ほどは設計事務所や建築家の方とお仕事をさせてもらっているのですが、そこでの信頼度は今回の受賞でだいぶ高くなったと思います」

ネヌケンの人員は、営業や設計、現場監督まで担う男性が3名と、広報専属の女性が1名、ショールームのアドバイザーが2名の計7名で、新築を年に2~3軒とリフォームの依頼を受けている形。施工は外注ですが、ほぼ100%ネヌケンの工事を請け負っている職人なので、その関係性を維持していくためにも、ある程度外部からの依頼が継続してあることには大きな意味があるようです。

※LIXILメンバーズコンテスト2021 リフォーム部門 大賞受賞作品はこちら

大賞受賞作「日野町の古民家」は、既存の建物のフォルムが非常に美しく、その美点を損なわないよう、同時に現代の生活にも合うようまとめた点が高く評価された (クリックすると別タブで画像を開きます)

代々受け継がれた家を活かす古民家リフォーム

昨今のウッドショックの影響についてもうかがいました。

「基本的には新築がメインですが、去年は木材価格の高騰で改修リフォームのほうが多くなりました。ただ、ありがたいことに、僕らはこれまでもずっと県産材を使っているので、取引先の製材所も優先的に当社へ供給してくれています」

ネヌケンが得意とするのは、リフォームの中でも「古民家再生」。そこには、祖父の代から90年以上受け継いできた職人技への思いもあります。

「祖父が昔建てた家を、今僕が直していることも結構多いんです。古民家リフォームでは、古いものをできるだけ残しながら仕上げる難しさがありますが、うちの職人や現場監督はその経験を積んでくれているので、その場その場で対応できるという自負があります」

「うちのお客さまの7~8割は、土地を持っている方。このあたりでは子育てを終えた団塊世代が次の代のために家を考えることが多いですね。代々守り続けてきた古民家をただ解体してしまうのではなく、残したいと考えたとき、ハウスメーカーや大手ビルダーに頼めるものなのか、どこに頼んだらいいのかわからないということがあるようです」

ネヌケンの古民家再生は、現代の暮らしを快適に送れるよう性能値を上げていくことにも力を入れています。その上で、古い良いものを後世に残していくための指針も。

「うちはほかと違うとよく言われるのですが、どこが違うのか聞いたら、やっぱり『使っている材料を活かしている』と。たとえば、新しい木をわざわざ黒く塗って古材のように見せることはしません。新たにつくる木は白木のままにして、古い木はその色合いを残しながら使います。100年、150年経ったものを直すと、何回も直されている経緯がわかるんですよ。よく法隆寺や東大寺でも、年数がわかるような形で残っていたりします。一般住宅でもそんなふうに直した経緯がわかる直し方をしていきましょうというお話を、お施主さまにもしています」

受賞作では、大屋根の葦を差し替える作業などをお施主さまに手伝っていただいていたのも印象的でしたが、新築でもリフォームでも、お施主さまには家づくりの一部に参加していただく工程を入れています。

「家族でひとつの夢を持てるのが家づくり。家族一人ひとりはそれぞれの夢があるけど、奥さまもこういうキッチンがいいとか、趣味部屋がほしいとか、子どもたちもこんな自分の部屋が欲しいとかいう話ができるじゃないですか。そうやって家族が協力しあって家づくりをしてくださいということを、いつも最初に言います」

「そうすると、それなら自分たちでもやろうかという話になってくるので、珪藻土を塗装したり、できるところをやっていただく。自分たちで家をつくった感覚になるし、愛着にもなります。あとでメンテナンスも自分たちでできたりするんです。そうすると、クレームも少なくなる (笑)。僕が携わって20年になりますが、ここ10年くらいこういった取り組みをしていて、実際にクレームはなくなっているんです」



配布チラシの内容はブランディングを重視

ネヌケンの新築坪単価はおよそ80万円。「理想としてはもう少し上げたいところもある」ということですが、近隣の工務店と比べても高価格帯になっています。近くにライバルはいるか聞くと、「いないですね」とひと言。

「ただ、つくり方を真似してくるところは多いですね。でも、別にいいかなと。そういうところが増えてくることで、かえって『家づくりはやっぱりネヌケンが標準だね』となる。むしろ良いことだと思っているんです」

「うちでは、『家を売る』という言葉は絶対に使いません。家はつくるもの。『創る』という字を使います。思いを共有していくのが僕らの仕事なので、お客さまにも『家を買う』という言い方はしないでほしいと伝えているんです」

そんなネヌケンのブランディング戦略は、近隣に配布しているチラシの内容にも現れていました。

「友の会にも作成ツールがありますが、チラシはかなり前から独自につくっています。ブランドを大事にしたいというのがあるので、いろんな形にせず、入れる写真だけを変えて。若い人たちには『親が勧める地元の工務店なんて田舎くさい』とか思われがちなので、チラシでデザインを見せることも重要です」

新築のメイン購買層である若い層に、デザインが良いのはもちろん、性能も良く安心できる工務店だと感じてもらえるように。いろいろフォーマットを変えたりせずに、同じ印象で新しい実例写真が見せられるつくりを意識していることが、ネヌケンのブランドを印象づけることにつながっています。

「性能なども、要は大手ハウスメーカーと同じですよというのを見せたいと思っています。家は見えるところはわかるんですが、特に性能的な部分は細かいところがなかなか伝わりにくいところがあるので、そのあたりもチラシでわかりやすくご紹介しています」

新築のメインターゲットは若い子育て世代。国産材にこだわった木のぬくもりがあふれる住空間には定評がある

お施主さまとの出会いにつながるカフェをオープン

お打ち合わせができるショールームを兼ねたカフェ「N cafe」の運営をされているのも、ネヌケンのブランディング戦略では特筆すべきところでしょう。

「ショールームやモデルハウスをつくっても、月に数回しか使わないんじゃもったいない。それだったら地域の人に気軽に使ってもらえる場所にしようと。N cafeは、基本的に会社の名前を一切出さずに運営しています。工務店やショールーム、モデルハウスへ行くとどうしても、もうここで家を建てないといけない感じがあったり、営業に疲れたりするから嫌だというのがある。それをなくしたかったんです」

国の事業再生構築補助金を受け、小さな倉庫をリノベーションして2021年10月に生まれたN cafe。もともとは、国道一号線沿いだったこともあり、屋外広告看板を設置しようと考えていたところから一転。自分たちのコンセプトが見せられる場所をつくろうと考えたのがきっかけでした。ネヌケンのセンスと技がつまった外装や内装はもちろん、ライフスタイルが感じられるセンスあふれるインテリアから、コーヒーの豆やカフェメニューにもこだわって、近所でも評判の居心地のいい空間をつくっています。

ネヌケンの家づくりやライフスタイル提案のコンセプトがふんだんに盛り込まれたN cafeを、ショールームと兼ねて運営。地域の方にカフェとしても気兼ねなく使っていただける場所に

ただし、カフェのみの経営では赤字を度外視。ここでの収支は完全にネヌケンの広告という位置づけなのだそう。

「敢えての赤字です。ネヌケンの広告としての費用対効果では十分プラスになるので。カフェでやっていくなら、カフェとしてこだわるほうが儲かります。でもうちは、このカフェを儲ける場所とは思っていないんですよ。ここでの儲けは、『人が来ること』なんです」

N cafeではさまざまな教室も開かれています。料理教室の先生に貸しているほか、ネヌケン独自で月に一度のワークショップも開催。ワークショップはライフスタイル全般、バラエティに富んだ内容です。それとは別に、「家づくりセミナー」や「家づくり相談会」も。足を運ぶたびに、いろんな告知が目に触れるしかけです。

「ネヌケン主催のワークショップは営業的な意味もあるので、お一人さま1000円という格安の料金設定で、子育て層に興味を持ってもらえそうなものを企画しています。料理教室だったり、この間は赤ちゃんのマッサージ教室も行いました。うちで家を建ててもらったお客さんは半額の500円で参加できるようにして、OB顧客サービスも兼ねています。その場合は連れてこられたお友だちも半額です」

N cafeでは、お料理教室やDIYの教室など毎回バラエティに富んだワークショップを開催している

カフェでの告知のほか、公式インスタグラムからの応募で毎回満員になっているワークショップ。こうしたネヌケンの広告戦略は、女性をターゲットにしているのもポイントです。

「やっぱり、女性が決めることが多いじゃないですか。キッチンにしても、色やデザインにしても。最終的にご主人が最終的な決定権を持っているものの、そこまでのプロセスってかなりの割合で女性が決めているんです」

「奥さまがカフェで過ごす中で、『こういう感じがいいな』と感じてもらっていると、実際に家づくりをしようとなったときには、もう頭の中でネヌケンのブランディングが完了している状態なんです。そうやってうちに来られるお客さまだと、やっぱり家の性能的な部分だとか、ひのきや杉の国産材を使ったネヌケンの家づくりに軸を合わせながら進められます。うちに合うお客さまが来てくれるので、ヒアリングをせずに済むことが多いんですよ」

カフェを体感して、すでにプレゼンテーションを受けている状態での来店。そうしてお客さまが最初に家づくりをしたいと来られてから、設計を始める契約に至るまで、2か月ほどでスムーズにいくことが多いといいます。

実は、Good Living友の会にはコンテストに応募するために入会したという根縫さん。最後に、その感想についてもうかがってみました。

「入ってみると、思った以上に使えるものがありますね。僕よりも女性スタッフのほうがツールをチェックしていて、『これが今度のイベントに使えそうだ』とか、配布物やグッズなど、いろいろ提案してくれているところです」

「セミナーも気になりますね。今度、WEB研修に参加したいと思っています。思っていた以上に社員たちがのっていて、いつも告知を見ていますよ。ほかの工務店の事例紹介も見て、『ここに一度視察に行きたい』といった話もしています」

コンテストへの参加、友の会への入会から社員のみなさんも刺激されて、社内改革のきっかけになっているそう。ここからまた、友の会のツールをさまざま活用して自社のブランド力アップにつなげていただければと思います。