スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

顧客獲得のカギは、自社の家づくりを伝える“言葉”。

新潟県/株式会社暮らしの工房
代表 岡沢 公成さん

今回は、LIXILメンバーズコンテスト2021の新築部門で大賞を受賞した株式会社暮らしの工房の岡沢公成さんにお話をうかがいます。「自分の中でステップアップするためにも、第三者の評価を受けるコンテストにチャレンジするのは重要だと思う」という岡沢さん。造園家の荻野寿也さんとタッグを組み、効果的に庭を配した受賞作について、また日々の営業で大切にしていることも教えていただきました。

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PRにするより自分の自信になったことが大きい受賞

これまでにも多くの賞を受賞されてきた暮らしの工房ですが、現在は岡沢さんお一人で営業されています。「今はけっこう手が足りない状況ではあるんですけれど」と、人員に関しては少し葛藤もあるよう。それでも「今のところは、自分のやりたいことだけをお客さまにご提案することが、依頼されたお客さまにとっても一番良いことだと思っているので。それが崩れないような体制をつくりたいですね」とおっしゃいます。

会社の規模を大きくしていくのを目標にするのではなく、自社の家づくりをよりブラッシュアップしていくことに注力されているだけあって、今回の受賞でも審査員の先生方から「工務店の設計力向上を象徴するような総合的な設計力」を高く評価されました。

タイトルは、『風景と暮らす池畔の家』。道路の向かい側に大きな池があり、その先には稜線が連なる豊かな環境も印象的な岡沢さんのご自邸です。

※LIXILメンバーズコンテスト2021 新築部門 大賞受賞作品はこちら

全開口できる大きなサッシを配したことによって、ゆたかな窓外の景色を上手に家の中にとり込んだ受賞作『風景と暮らす池畔の家』(クリックすると別タブで画像を開きます)

「自宅だったので、自分の思いだけでつくれる部分がありました。ただ、その自分の思いだけでつくったものが評価されたというのは、自信につながったと思います。そういうのも、審査員の方、自分じゃない第三者に見ていただけるメリットですよね」

コンテストは、顧客に向けたPRの材料にするというより、第三者の目で評価を受けることによって得る学びや、自分に自信をつけるためのものだという岡沢さん。

「設計に関しても、なんでもない小さなスペースまでしっかり見てもらえて。そこは自分の中でも意識してつくったところだったので、評価されたのはすごく良かったです。自分の中でこうしたいとか、これが良いとか、意図を持ってつくっているものって、あまりお客さまに伝えることもなく、サラッとやっちゃうんですけど。そんなところもプロの視点で拾っていただけたのはすごく自信になりました」

お施主さまの評価はもちろん大切ですが、プロの視点で客観的に見てもらうことにも大きな意義が。コンテストは自分の信じる道を再確認するいい機会になっているようです。

左右に子ども部屋をおいた2階の和室空間には、池に続く軸線上に窓を配して。樹脂窓の収まりを工夫してすっきり仕上げた点など、こまかな部分にも審査員からの評価が集まった(クリックすると別タブで画像を開きます)

実はほとんどがSNSやホームページからのお問い合わせ

暮らしの工房では、今回の受賞を何か具体的な営業に結びつけたりはされていないということですが、受賞作品を掲載した冊子などはお客さまにお渡ししたりして活用していただいているようです。

「あんまり、そういうアピールをするのは苦手なところがあるので……」と笑う岡沢さん。「受賞を全面的に出してアピールするよりも、お客さまにはいつもの仕事をちゃんと見ていただいて。来られたときに、積み上げてきた実績としてそうしたものもお伝えしています」とのこと。

暮らしの工房のホームページをのぞくと、まさにそんな誠実なお人柄が感じられるつくり。端正な実例写真はそれぞれに洗練されていて見ごたえがありますが、そこに添えられた言葉にも一言一言深みがあって、家づくりのコンセプトがしっかりしているのがわかります。

「ちゃんと言葉で伝えることをしないと、私が良いと思っている家をつくることができないなと思っていて。設計って、そこを言葉にして説明して納得してもらうっていうのが難しいんですよね。でも、なんとかそれを自分の中でかみ砕いて、やっている設計とか、そこに込めた思いとか、考え方を言語化しようといつも考えています」

ホームページのほか、公式インスタグラムも開設。写真は岡沢さんがご自身で撮られて載せているそう。お客さまが来られるきっかけは、「インスタグラムが一番多いかもしれない」といいます。

「個人のフェイスブックアカウントもあるのですが、インスタグラムにはオフィシャルなものだけ上げています。家の事例だったり、そのときそのときに行ったお客さまの家で暮らしのワンシーンが撮れたら、それを出したり。家とか暮らしに特化しながら、出すものには統一感があるようにしていますね」

最近では、都心からの移住を計画されているお客さまからの問い合わせも増えています。新潟県への移住に興味を持った方が、ネットで検索してヒットした中から、「素敵だな」と思ってたどり着くインスタグラムページになっているのでしょう。

大々的にPRするというよりも、ていねいに思いをまとめた心惹かれるコンテンツをおいておくことで、それを見つけて共感された方が向こうからやってくる。おひとりでされていることもあり、広告宣伝コストをほとんどかけずに、年間3~5棟ほどのご依頼を受けている今の状態は、ちょうどいいサイクルだといいます。

「お問い合わせされた方には必ずメルマガ登録をしてもらいます。定期的にこちらの家づくりのことや、今建築中の家の状況だったり、制度のことだったりを発信して、そこで勉強していただきます。それでタイミングをみて来ていただく流れなので、来られるときにはもう8割くらいの方は具体的な依頼目的ということが多いですね」

「そして初回の面談時に、用意しているスライドをお見せしながら『どんな家をつくるべきか』というお話を2時間くらいかけてするんです。そこでは、家にはどれくらいの性能が必要で、うちはどれくらいか、標準的にはこれくらいだというお話もしています」

ホームページの“暮らしの工房のやらない宣言”には、「プランは安易に出しません」と明記されています。プランまでは無料で行なっていますが、そのときまでには家づくりに対する思いを共有し、予算などもある程度クリアになっている状態に。それでも先に進むとおっしゃるお施主さまとの間には、強固な信頼関係が構築されています。



庭も含めてトータルで暮らしを考えることを大切に

“暮らしの工房のやらない宣言”には、「庭のない家は、設計しません」もあります。受賞作でも、住空間への庭のとり込み方が注目されました。

今回、自邸だからこそ大胆にチャレンジできたことをうかがうと、「一つは庭の考え方です。造園家の荻野さんと一緒にやれたことは大きいですね」と岡沢さん。コストとともにやりとりも煩雑になるため、お施主さまに造園家とのコラボを提案することはなかなかハードルが高いようですが、今回の受賞がいいモデルケースになったのではないでしょうか。

「お客さまには、最初から『庭がなければ暮らしは良くならないよね』というお話をします。もちろん庭だけではなく、家具もそうですし、トータルで暮らしというものを考えなきゃいけない。そういうお話を常々しているので、設計を進めていくなかでも自然と庭を入れ込んでいるというのはありますね」

庭をつくるというと、どうしても気になってくるのがコスト面です。そこでは、こんな考え方も。

「庭まではコストがまわらないという人も、今はわりと多いですけれども。そういうときは『最初に計画だけしておけば、あとで自分たちでもできるから』というお話をしています。暮らしながら、日々の楽しみのひとつとして庭をつくり込んでもらう。そのために、ここにはどんな木を植えようとかいったプランを、こちらで初めから書いておくんです」

受賞作では玄関のアプローチに円形テラスを設け、庭を通って家に入る効果的な演出が。北側にはあえて陰になる庭を設け、夏場に気持ち好く過ごせる場所を生み出した。(クリックすると別タブで画像を開きます)

ご予算は、「以前は2500万円くらいからやっていたんですけど、今は3000万円くらいから。平均的には3500万円くらい」。ウッドショックや建材の高騰によって、価格を上げざるを得ない部分もありました。

「ウッドショックの対策としては、基本的に『小さくつくりましょう』というお話が、私の中でできることですね」

小さくつくる。それは、ウッドショックよりも前から岡沢さんが信条とされてきたことです。ホームページにも、外の空間を生かしながら自然素材を使ってシンプルに家づくりをすることの大切さが書かれています。「ムダに大きさを求め、敷地いっぱいに家を建て、窓もカーテンも開けることができない家、つくり手の都合で多用される表面だけをマネた素材でつくられた住まいでは、やすらぎを与える場はもちろん、らしさのある住まいにはほど遠い家づくりになってしまうのです」。

庭の計画にも力を入れるからこそ、本当に心地好い家づくりが実現できる。小さくつくる家はウッドショック対策にもつながり、これからの家づくりで考えるべき視点とも言えそうです。



いろいろな機会による人とのつながりも大きな財産

意外なことに、「紹介はほとんどない」という岡沢さん。

「あっても、あまりうまくいかないですね。結局、家を建てるって、建てる人が決めてもらわないといけないと思っていて。紹介されたからというのではなく、自分が納得していらっしゃる方に依頼をいただきたいんです。それがお互いにとっても良いことというか。同じ方向をむいて家づくりができることが、一番重要なのかなと思っています」

ご紹介よりもSNSなどから、それぞれのお施主さまがご自身の目で選んでたどりつくというのは、自社の個性をしっかり打ち出せている工務店ならではなのかも知れません。

お客さまで土地をお持ちの方は7割くらい。土地探しをされている方には、相談にのることもあります。

「3つほど持ってこられて、『一番良くないと思ってるんだけど』と出されたものが、私の中で一番良かったりします。たとえば、隣に公園があって、土地の制約で半分以上の面積の家が建てられないという土地なども、建てられない部分をほかの用途に利用しながら建てれば全然いけるよってものだったりするんです」

そういった発想の転換は、受賞作にも表れていました。雪深い新潟の家づくりには、いろいろ制約もありますが、むしろそれを楽しもうというアイデアです。

「土地柄、雪のための制約などはかなりあるのですが、それが建築にとってひとつの手がかりにもなります。他の地域だと標準的ではないことをやらなければならないというのも、それを道筋にして、雪の中でも楽しく暮らせる方法をいつも模索していますね」

リビングは30cmほど掘り込んで床のレベルを下げ、外の景色との連続性が感じられるようになっているが、大雪が降ったあとは雪の中に入り込む感覚も体験できる(クリックすると別タブで画像を開きます)

そうしたアイデアの源には、学びも不可欠。岡沢さんは現在、母校でも教壇に立たれていますが、ご自身も独立されるまでには何度か建築家の伊礼智さんが開くデザイン教室に行かれていたそうです。

「伊礼先生の教室には、独立前に勤めていたときに2度、独立してから1年後の2015年にもう一度、3年通いました。伊礼さんに学べたことはとても大きいです。それから、そこに全国から集まった同じ価値観を持つ仲間とのつながりができたのも、自分の設計人生の中ですごく大きなことだったなと思っています」

デザイン教室で出会った同志のみなさんと、今でも交流しているという岡沢さん。お互いの建築を見せあったりして、いろいろなものを見ることができる貴重な機会になっているといいます。

「とにかくいろんな方に会って、いろんな建築を見るというのは、結構重要なことかなと思います。コンテストをきっかけにつながりができるのも、すごくいいですよね」

今回のLIXILメンバーズコンテスト2021はオンラインでの開催でしたが、同じ新築部門でプレゼンをされていたにわとやの森田健吾さんとは、その後直接お会いして交流を深め、意見交換をしていろいろと学ぶところも多かったようです。

お客さまの層としては、40代、50代のお客さまが多いという暮らしの工房。

「20代くらいで、まだ暮らし方や価値観が定まっていない方、ちょっとふわふわしていたりする人たちには、うちの家づくりの話をしながら、まだ建てるタイミングではないと思うというお話をすることもあります」

そんなスタンスも、小規模ながら周囲の工務店とは一線を画す存在になっている所以でしょう。顧客もますます多様化していくこれからの時代、これもまたひとつの在り方と言えそうです。

■ご活用ツール:LIXILメンバーズコンテスト 詳しくはこちら