スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

8年連続第1位!その躍進を支えた独自視点とは。

石川県/株式会社さくらホームグループ
株式会社AXSデザイン
代表取締役社長 多江 義教さん

石川県に本社を構えるさくらホームグループ。その建築部門を担う株式会社AXSデザインは、ここ8年連続で石川県内の新築住宅着工棟数第1位に輝いています。もともと不動産業を営んでいたところから建築分野に新規参入し、ここまで成長したのには、業界の常識にとらわれない独自の視点がありました。その考え方の根幹にあったものや、これから目指していく展望について、代表取締役社長の多江義教さんにお話をうかがいます。

#新規事業参入 #常識を疑う #ビジネスチャンス #DX化



創業当初から属人化によらないDX化を推進

さくらホームグループは創業28年、北陸3県で住まいと暮らしの総合サービスを広く展開していますが、その中で建築を手がける株式会社AXSデザインが生まれたのは2005年のこと。それまでは、主に売買仲介をメインとしている不動産会社でした。

「不動産ではある程度、県内トップクラスと言えるレベルまできたかなというところでした。そこで次を考えたときに、やはり相乗効果が期待できる建築には着手しておいたほうがいいだろうということで、建築会社をつくったんです」

そう語るのは、現在、株式会社AXSデザインの代表取締役社長を務める多江義教さん。当時はさくらホームの専務取締役として、新規事業を担うAXSデザインの立ち上げにも携わりました。

「そもそも建築の経営なんてしたことがないから、やれるのかなというのは正直ありましたね」と笑う多江さんですが、新規事業立ち上げのためにいろいろな研修に参加したとき、とても印象的なことがあったそうです。

勢いのある某建築会社を見学したときのこと。「うちのやり方はすごいよ」と紹介されたのは、その会社の玄関にたくさん並んでいたポストでした。図面や書類などはそのポストへ入れておくと、依頼している地元の施工会社の職人さんたちが自分のタイミングで勝手にそれを取りにくるのだといいます。

それを聞いて多江さんは、「毎回こうして取りに来ないといけないなんて、これは本当に効率的なのだろうか?」と疑問に思ったとか。

「さくらホームでは、社員がまだ4~5人だった創業当初、サイボウズofficeの1が出た頃から使い始めて、DX化や業務の平準化にはわりと早い段階から着手していました。もともと属人化をできるだけ避けて、安定できる企業体を目指していこうという取り組みをしていたので、『そんな地図や図面なんて、WEBにアップしておけばいいんじゃないの?』という感覚だったんですよね」

起業時からデジタルに落とし込むことを重視していたさくらホーム。それは、経営していく上で必然だったところもありました。

「インセンティブが強いと、結局そのスーパー営業マンが束ねて辞めていってしまったりして、なかなか大きくなれないという問題があったんです。だからむしろ、素人が入ってもすぐに営業できるような平準化の仕組みづくりに力を入れようと。そこではやはりデジタルをうまく取り入れることが大切で、情報共有するのに非常に便利だったという経緯があります」

そんな背景から、紹介された会社のアナログなやり方を見て、「これなら、うちが建築分野に参入しても勝てるんじゃないか」とチャレンジできたといいます。

「本当は、やったことがない建築の分野に参入するのには不安がありました。でも、このレベルなら、自分たちのやり方を磨いて効率を上げていけば戦っていけるんじゃないだろうか、勝てる理由もあるなと感じたんです」



“素人目線”だったからこそ生まれたヒット企画

今ふり返ってみると、「ものが売れない時代ということもあり、知らないことの強みみたいなものが非常に出やすい市況だったのかも知れない」と多江さん。

「あの時代は特にそうだったと思うんですけど、既成概念や既存のやり方、成功体験を持っていると、非常に改革が厳しかったんですね。新規参入した僕らにはその成功体験がなかったので、今やれることを建築に取り入れていけば何とかやれるのかなという感覚があった。だからこそ生まれてきた商品もあります」

たとえば、さくらホームのヒット商品のひとつである短期回収型の不動産投資向け賃貸アパート「D-BOX」。余計なものを極力省いてしっかりコストを抑えながらも、シンプルな中に惹きつける魅力を兼ね備えたデザイナーズアパートの提案です。

「うちには技術がなかったので、もともとは非常に素人的な発想でした。設計さんに言わせれば、D-BOXもまさに“素人”的な商品。我々はいかにオーナーさんの収益性が合うようにしていくかを模索して、四角い家をつくったんです。なるべく四角いほうが、コストも下がることがわかってきたので」

「共同住宅は申請も大変だというところから、“長屋” のアパートにたどり着きました。そして木造が一番まずいのは音だというところで、メゾネットという形にするのが非常に理にかなっていたんです。そんな素人だからこそできた発想で、いまだにずっとロングセラーで出ているんですよ。当時は他社にもなかった形態でしたが、僕らがつくって大ヒットしてからは、どんどん大手まで長屋をつくるようになっています(笑)」

「そんな家が売れるわけがない」と言われてしまうような“素人目線”から生まれた企画がヒットするという構図は、ほかでも聞かれるところではないでしょうか。素人だからこそ思い切った企画ができる、そうした突破力もときには必要なのかも知れませんね。

短期回収が可能な不動産投資物件として設計段階から最適化され、住みやすさと設備機能にもこだわったデザイナーズアパート「D-BOX」

DX化への反発も次第に慣れてくるもの

建築の事業を始めてからは、すぐに組織内のコミュニケーションを円滑にするグループウェアのシステムを取り入れて、WEB上でファイルのやりとりをするようにしたというAXSデザイン。今でこそグループウェアの活用も一般的になっていますが、もう十数年前のことです。

「グループウェアで情報共有すれば、業者さんも24時間好きなときにネット経由で地図や図面をとりにくることができます。もちろん、当時は建築業界に特化したシステムはなかったので、サイボウズのソフト『サイボウズOffice』を自分たち用にカスタマイズして使っていました」

しかしDX化は、社員や取引先の協力なくしては成り立ちません。そのあたりからの反発はなかったのでしょうか。

「確かにあの時代は『そんなもの、大工さんがインターネットなんてやるわけがないだろう』などと言われたりしました。でも、まさにそれが既成概念で。僕らは大工さんというのがどんな人物かあまり知らないわけですよ。みんな子どももいるし、このパソコン時代に、家にインターネットくらい引いてあるだろう、みたいな感覚でやっちゃうんです」

「そこもやっぱり、素人だから良かったのかも」とふり返る多江さん。「もちろん最初の抵抗は結構ありましたよ。でも、一年経った忘年会では、『もうこれがないと仕事できない!』とみなさん言っていました」とのこと。

「何でもそうですけど、慣れたら楽なんですよ。運用して慣れるまでが、みんな新しいことになかなか取りついてくれないし、辛抱してくれないんですよね。でも、その使い方さえ慣れてしまえば、こんなに便利なものはないだろうと喜ばれます。そんな経験はたくさんしてきました」

DX化は、営業や集客の面でも功を奏したといいます。それに気づいたきっかけは、人気の食べ物に行列をつくって並ぶ人々の姿だったそう。

「当時、不景気で、物が売れない時代と言われる中、東京などへ行くと行列ができているんですよね。ある意味、良いものさえあれば、売れない時代でも売れるんだろうと。あれを見たときに、売りに行くんじゃなくて向こうから来て、並んででも買ってもらえるなんて、なんて幸せな商売だろうと感じたんです」

「我々も、どちらかといえば売るのは苦手なので、できたら買いに来てもらえるような家づくりをしたいと思いました。そこで戦える武器が、やはりデジタルだったんです。いかに効率を高めてコストをコントロールしていくかというところで、非常に使える武器でした」

先ほどのヒット商品「D-BOX」も、デジタルの力による業務の効率化によってできる限りコストを下げ、良いデザインのものを低価格で販売できたことが大きかったといいます。「利回りがいい商品でしたからね」と多江さん。実際にこちらから売りに歩かなくても、全国から問い合わせがきたというのは、まさにその思惑通りでした。

ただし、そこには今後に向けた課題もあるようです。

「これまではそうしてコストが安いから売れるという世界でやってきましたが、今はそこで行き詰まっているところもあります。これからはやっぱり、より価値の高いものを売っていかないと厳しいと感じているので、そこに向けた方向転換を今一生懸命やっているところですよ」

コロナ禍、ウッドショックと、資材の価格高騰も問題視されている昨今。そこへの対策も兼ねて、また新たなチャレンジをしているようです。

「今まではあまり注文住宅らしい営業をしてこなかったし、営業マンと呼べる人間もいなかったのですが、少しずつ人を入れて、これから注文住宅に力を入れていこうというところです。まだまだやらなきゃいけないことは山積みですよ。うちが最初に手をつけたのは工事の品質で、その次に設計の在り方に手をつけて、最後に残ったのが企画とかプランニング、営業なんです。そこに今ようやく手をつけ始めた……そんな状態なんですよ、うちは」

そう謙遜される多江さんですが、AXSデザインの最高年間住宅着工棟数は449棟(2019年北陸3県合計)。社員数人だったところから、今や北陸地方でも名の知れた企業へと成長しています。



休暇をしっかりとれる社員に優しい会社へ

社を上げての新たなチャレンジを遂行していくためには、優秀な人材が欠かせません。属人化によらないシステムをつくるのとはまた別のベクトルで、さくらホームグループが良い人材を引き寄せる“社員に優しい会社づくり”に力を入れているのは、企業母体の大小に関わらず注目したい点です。

「これからは、社員の働き方はより良くしていきたいですね」と語る多江さん。その具体的なイメージとは?

「もっと給料も上げたいし、働き方に対してももっと柔軟な体制をつくっていきたい。もちろん休みも、とりあえず年に一回2週間くらいのバカンスはとれるような会社にしたいですね。いきなりヨーロッパ並みに1か月のバカンス!というのは難しくても、そこは真剣に考えているんです」

「そうすると、やっぱり効率だけでやっていくのは結構大変なんですね。付加価値の高いものが受けられる会社になっていく必要がある。限られた棟数でもいいんです。一年に50棟なら50棟と決めて、しっかり売って、余力で戦っていけるような会社をつくっていきたいと思って。今、実際にそこに向けて動いているところです」

これまでは分譲住宅メインで躍進してきたAXSデザインですが、これからは注文住宅にも力を注いでさらに企業としてステップアップしようというところだといいます。

「うちはグループ会社だけではなく、他社の分譲も結構受けていて、建売でビジネスが成り立っている部分もあります。アパート商品であるD-BOXも定期的に入っていて、大型でわりと大きな利益もとれる。そういったもので利益は出してきましたが、それだけではその理想の会社像にはなっていかないんです」

「分譲もかなり乱立していますから、まだまだ分譲寄りに世の中は動くと思いますが、それでも非常にその争いも厳しくなってくると思います。その中でも私たちは差別化みたいなことの対策をしっかりしてきたつもりですけど、そればかりやっていたのでは思うような理想のスタイルにはならない。粗利がしっかりとれるような注文住宅を確立していく必要があるんです」

「すでに効率を上げて絞れるところはすべて絞ったんです。」と語る多江さん。そこをさらに絞ろうとするよりも、商品により価値をつけて利益率を上げていくという次のフェーズに入っていかないと未来はない―その決意は固いようです。

残業は月平均5時間以内に減らし、有給取得率も75%前後まできているというAXSデザイン。今年11月から、まずは週休3日制も含めた14種類の働き方を選択できる体制(ワークスタイル14)を導入する予定で、引き続き、年に一回は2週間のバカンスが取れる会社を目指していくそう。実際にそうした魅力から入社を希望する社員も増えているといいます。

しかしそこは素人目線を大事にする会社。中途社員は未経験者が多いのだそうです。

「スーパースキルを持った人間を、お金を出してなんとか雇いたいという発想はほとんどないんですよ。それよりは、社内のシステム化によってみんながちゃんと動けて、それでも問題があればシステムも進化させながら、いい仕事の仕方がどんどん蓄積されていくようなものを目指しています。素人でも間違いを起こしにくいとか、いち早く戦力になるような。そこで戦っていければいいのかなと思っています」

そんなさくらホームグループを支えるデジタルシステムは、実は公開販売も開始されています。次回のインタビューでは、そちらにもスポットを当ててご紹介する予定。どうぞお見逃しなく!