スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

地元で評価され続ける秘訣とは?今こそ問われる時代への対応力。

福井県/旭木材工業株式会社
代表取締役社長 上野 勝久さん

はじまりは製材業から、福井県の若狭町で70年以上になる旭木材工業株式会社。地域密着型の工務店として地元の方々の信頼を集め、現在4代目になる上野勝久さんが代表取締役社長を務めています。妻のきよのさんもその業務をサポートされてきましたが、10年ほど前から他社で経験を積まれた息子の貴浩さんも参画。コロナ禍では改めて自社の営業の在り方を見直し、一度は落ちた業績もとり戻すことに成功されました。

#ウッドショック #コロナ禍の学び #地域密着型工務店 #顧客プレミアム



年間1棟という年もあったコロナ禍で学んだこと

「コロナになって1年目は、もう何をしたらいいかわかりませんでした」とふり返る旭木材工業のみなさん。実際に、年間で契約が1棟という時期もあったといいます。そこから、2022年は新築が5~6棟、ご予算1000万円強のリフォームを3軒ほど手がけるまでに復活を遂げました。

「たぶん、コロナがなかったらしなかったことはいっぱいあったんじゃないかと思います。コロナのお陰とは言いませんけど、コロナで逆にいろんなことを見直しました。アナログも大事ですが、デジタルのツールを使って情報を提供する大切さに気がついたのもひとつです」

地元での知名度も高い歴史ある工務店だけに、ご紹介は全体の6割ほどを占めます。もともと知っていて相談に来られるお客さまが多いため、これまでは問い合わせに対してまず資料を送るというより、直接うかがってお話をすることがほとんどだったとか。

「僕が入社した10年前には、しっかりした会社案内みたいなものもありませんでした。見開き1枚のものがあるくらい」とふり返るのは、専務の上野貴浩さん。

「でもこのコロナ禍、これまでのようにどんどんお客さまのお宅へうかがってお話をするというのが、すごくしづらくなったんです。ハウスメーカーと違って地元に根づいている分、『コロナ禍なのに旭木材工業は絶対に家へ来るんだ』なんて評判が立ってもよくないので……」

そこで営業のやり方がわからなくなり、一時は営業がまったく止まってしまったのだそうです。だからこそ必要性を感じたのが、ぱっと見てすぐにわかる会社資料や、WEBでの情報発信でした。

「それまでの営業スタイルが本当にアナログだったので、目で見てわかるデジタル化された資料が必要でした。その施策のひとつがホームページをリニューアルしたことであり、SNSでインスタグラムを始めたことです」

以前もホームページはあったものの、そのコンセプトは大きく変わり、情報量も倍増することになりました。たとえば以前のホームページは、地元密着型の工務店として親しみのわく温かい雰囲気でまとめられていましたが、家のデザインイメージがふくらむような施工事例の写真掲載が圧倒的に少なかったのです。

「アットホームな会社というのは、お会いしたり、お話をすればわかるのかなと。それよりも、その入り口としては『この工務店にはお洒落な家をつくってもらえそうだな』というのがわかる施工事例や、家づくりの商品コンセプトが伝わる内容にする必要がありました」

そこでホームページのデザインを一新。まだまだこれからさらに改良していく予定だといいますが、旭木材工業ならではのこだわりや施工事例が満載の魅力的なページとなりました。

以前よりも印象的な施工事例写真を増やし、手がけている家の雰囲気が伝わるものに(クリックすると別タブで画像を開きます)

さらにインスタグラムをスタートさせたのは、「ホームページよりも頻度を上げて写真がアップできるから」。ホームページは常に何かしら更新していないと会社が動いている感じがしないといった問題も、インスタグラムのほうで新しい写真を随時アップしていくことで解消できたのです。

こうしてホームページやインスタグラムで新規顧客の入り口をつくり、お問い合わせが来たときには新たに作成した資料や会社案内を送る体制も整いました。



ただ家を見せるのではなくライフスタイルで魅せる

実はコロナ禍に入る直前、創業以来工務店と並行して続けてきた製材業は、もう終わりにしようと考えていたそうです。

「コロナの前から、製材を手がける人間も年齢が上がっていて、新たに雇っていちから勉強してもらうのも大変だなというのがあったので、もう工務店一本でいこうかと言っていたんです。そうしたらコロナでウッドショックがきて、自社で製材したほうが早いとなって。2022年は昔つくっていたいろいろな材料も、うちでできるものはつくろうと、原点に戻って一生懸命つくっていました」

「みんな、もう一回国産材を使おうというふうになってきましたよね。私は、もともと木材は単価が安いから林業も発展しないのだと個人的には考えているので」と上野社長。「今が正常とは言わないですが、木材の価値が上がったお陰で林業も少しは活性化したんじゃないかなと思っています」

製材業からはじまっていることも含めて、「旭木材工業の強みは何か」を改めて考えたというこのコロナ禍。2週間に一度は、電話番を残した他のスタッフ全員で、昼食をとりながら社内会議をするようになりました。

「それまでは、社内会議ってしていなかったんです。全員が自分の持っている現場をそれぞれ終わらせていく形だったのですが、改めて『うちってどんな会社なんだろう』ということをみんなで考えることを始めました。お客さまに聞かれたときに、社員全員が同じことを言えないといけないよね、と」

また、アウトプットと同時にインプットにも時間をかけたといいます。たとえば家のデザインなども、より提案の幅が広がるような勉強に余念がありませんでした。そうしたことを突き詰めていく中で、施工事例の写真の撮り方にも変化が。

「以前は、施工した家に家具などを何も置かずに建物だけを撮っていたんです。空間だけはわかるんですけど、それだけでは写真から伝わりにくい。見学会のときも以前は何もない状態だったのですが、今はお施主さまにもご協力いただいて家具などを置くようになりました。家具や雑貨があって、緑があるだけで、お洒落で可愛いんですよね。色づけみたいなものです」

何も置いていない建物だけの写真より、家具を置いたり、観葉植物のグリーンが入ったりすることで、おしゃれなライフスタイルのイメージが膨らむ(クリックすると別タブで画像を開きます)

ただ家のデザインを見せるだけではなく、そこに家具や緑を配したときに醸し出されるライフスタイルごと魅せていく。インスタグラムに写真1枚を掲載するだけでも、大きな違いが出てくるポイントのようです。



連絡もれが起きる顧客管理を劇的に変えたツール

このコロナ禍、デジタル面の強化によって新規顧客のための入り口をしっかりしたものにすることができましたが、一方でやはり大事にすべきなのがOB顧客。ご紹介につながるだけではなく、アフターメンテナンスからリフォームのご依頼につながることもあるからです。

もともとご紹介でのご依頼が多い旭木材工業もそれは同じ。200~300にもなるOB顧客リストを、以前はエクセルで管理されていたそうです。「でも、エクセルでデータをつくっていると漏れがあるんですよね」と、担当されていた奥様のきよのさん。お引き渡しのあと、すべてのOB顧客に対して定期的なアフターメンテナンスのご案内をしている旭木材工業ですが、ときどきその連絡漏れが起きていたといいます。

そこで2018年から導入されたのが、顧客管理システム「顧客プレミアム」。見込みのお客さまからOB顧客まで、物件情報の管理とともに、それぞれのお客さまにご連絡するタイミングも漏れなくアラートで教えてくれるソフトです。

「お引渡し日を入力しておくと、誰々さまが何日ですとしっかり通知してくれるので、アフターメンテナンスに行った方と行っていない方がいるなんてことも起きません。連絡漏れがあったりすれば、『旭木材工業は不親切だ』という悪評にもつながるかも知れませんからね。このソフトのお陰で、連絡漏れがないという自信にもつながっています」

「実際に、それによって受注がいくつ増えたという話ではないのですが、お客さまからも『旭木材工業はアフターメンテナンスにきちんと来てくれるよ』という声が上がっているので、やはりこういったことはお客さまの安心度にもつながる大切なことだなと感じています」

一人ひとりのお客さまを大事にしていくことは、これからの時代にますます必要になっていきそうです。上野社長は、昔のお客さまと今のお客さまの違いも強く感じられているといいます。

「田舎なので、昔は60~70坪の家がたくさんありました。でも今は、平均すると30坪ほど。家づくりも、それぞれのお客さまの生活スタイルも変わっています」

ただ、それがそのまま売り上げの減退につながっているということではないそう。

「単価も変わりましたが、今のほうが昔よりもしっかり利益をとっていると思いますね。昔はもっと大雑把で、粗利も多かった。今では事務で全部、1棟1棟の業務をすべて出して計算しています。だからしっかり計算が合って、ちゃんと利益になっているんです」

時代に即して、営業スタイルも、売る家も、そのご予算の算出の仕方も、日々進化している旭木材工業。これもまた、このコロナ禍を乗り越え、さらなる社の存続を可能にしている理由なのでしょう。



ハウスメーカーと一線を画す地元で愛される工務店に

旭木材工業のホームページにある「お家のご紹介」ページでは、施工事例それぞれに「アイビー」「ガーベラ」といった花の名前がついています。

「お施主様のイニシャルにしようとすると、同じ方がいるでしょう? それも区別しようとすると、○○町のM様などになってしまって、特定されやすくなってしまうので。お花の名前なら支障がないし、お客さまに『アイビーの家みたいなのが良いです』と話していただけるようなイメージでつけています」

基本は30分ほどですぐ行ける範囲のエリアで展開している、地元密着型だからこその気遣い。合番ではもっと無機質な雰囲気になってしまうところに、親しみもわいて、お客さまとのやりとりもしやすくなる良い工夫です。

施工実例には花の名前をつけて、電話やメールでご相談を受ける際も認識しやすいように工夫している(クリックすると別タブで画像を開きます)

OB顧客には定期的なアフターメンテナンスのお知らせを送っている旭木材工業ですが、新しいお客さまにはそれとはまた別のDMを随時お渡ししています。さらに、その中でも近々ご成約につながりそうなお客さまには、暮らしの情報誌「レ・マドリ」を同封されているのだとか。

「2013年頃から、2か月に1度くらいの頻度で『レ・マドリ』を使っていますね。見学会のDMや、季節柄のひと言をコラム的にのせたDMを作ってお渡しするときに同封しています。完成見学会で来場された方にアンケートをとっているのですが、その内容によって、2~3年先を計画している方とか、今すぐ建てたいと考えている方を社員みんなで判断して、誰に送ろうかと1年に1回くらい見直しているんです」

「レ・マドリ」は基本的に手渡しされているそうですが、その際にはこんな会話も。

「『レ・マドリ』の最後にプレゼントページがあるのですが、それを結構見逃しているお客さまが多いので。『結構当たる率が高いから、送ってくださいね』と伝えています。実際に当たった方はまたメールで教えてくださったりして、『よかったですね』と話が弾んだりするんですよ。お客さまも結構、応募ハガキを送ってくれているようです」

デジタルでの発信力を強化しながら、一方でそうしたコミュニケーションも大事にされている旭木材工業。最後に、コロナ禍を経たこれからの営業についてはどう考えているのか、うかがいました。

「どうなんでしょう。たぶん、このままいくんじゃないかと思っています。ただ、電話じゃなく実際に会って説明を聞きたいですって方もやはりいらっしゃいますし、実際のお家を現地で見てわかる情報というのもあると思うので。コロナ禍で変わったことをやり続けながら、昔やっていたことをどういうふうに戻していくかというか。“プラスアルファ”していく感覚かなと思っています」

コロナ禍を終えたあとも、ただ戻るのではなく、プラスアルファでよりよくしていく。その意識があるかどうかで、手をつけるべきところも、いろいろと見えてくるのではないでしょうか。