スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

造園業で15年間培った感覚を、建築の世界へ。

広島県/にわとや 有限会社モリタ
代表取締役社長 森田 健吾さん

今回お話をうかがったのは、「LIXILメンバーズコンテスト2021」にて新築部門の準大賞、ベストプレゼンテーション賞にも輝いた、にわとや 有限会社モリタ 代表取締役社長の森田健吾さん。受賞作「月灯りの庭いえ」は、15年携わってこられた作庭家としてのご経験と、建築からの視点との、いいとこ取りをしたものだといいます。そんな森田さんが考える家づくり、これからの展望を教えていただきました。

■ご活用ツール:#LIXILメンバーズコンテスト#スーパーウォール



“究極の庭”をつくるために始めた家づくり

これまでは造園の世界で活躍されてきた森田さん。外構や庭のデザイン施工を手がける「そらやLandscape」は創業15年を迎え、現在も年間100件ほどの依頼を受けています。そんな中、2018年に“庭屋がつくる家”として新たに家づくりを始めたのが「にわとや」です。

にわとやでの家づくりは年間2邸ほどに絞り、一軒一軒こだわって建てていくことが想定されています。そらやLandscapeでは植栽を多く手がけていることもあり、施工後のメンテナンス依頼が自ずと発生するため、OB顧客とのつながりがあるのも強み。そこに向けた告知だけで、にわとやも販促費をかけずに十分な反響があるのだといいます。

そらやLandscapeも、にわとやも、構成メンバーは同じ5名の社員。森田さんご自身も建築への思いがあったことや、もともと建築士の資格を持っていた社員も多かったことから、最終的に家づくりを始めたのは自然の流れでした。

「にわとやの立ち上げ当初から言っていることですが、私が住宅を手がけさせていただくのは、あくまでも庭のためなんです。究極の庭をつくるために家も手がけようというところから始まっているので、これからもそういう思いでやっていきます!」

森田さんの言葉通り、「LIXILメンバーズコンテスト2021」では、審査員の方々からも「楽しい庭。すごくいいスタンスだと思う」「森田さんの自然に対する思いが物件からにじみ出ている」と、 “庭屋がつくる家”というその個性に注目が集まりました。

ご予算3,000万円という中で設計されたのは、南北の庭を楽しむことができる住まいです。敷地に対して敢えて建物を東西南北にふることで、気になる外からの視線も上手に回避。太陽光を効率的にとり込みながら、太陽光パネルは道路から見えにくい東側に設置でき、リビングや玄関、それぞれの窓から庭や借景も含めた四季折々の眺めが広がる豊かな住空間を実現させました。

※LIXILメンバーズコンテスト2021 新築部門 準大賞受賞作品はこちら

LIXILメンバーズコンテスト2021準大賞「月灯りの庭いえ」。主庭は広い土間の玄関がある北側に、南のリビング側にはウッドデッキを囲む木々が。季節ごとの日差しのとり込みや目隠し、室内からの景観まで巧妙に計算されている (クリックすると別タブで画像を開きます)

建物だけではなく、庭まで一緒に考えたからこそ、こんなしかけも。

「夏は、南面の上昇気流にともなう風の発生で、北面の地表の冷気が室内に入ってきます。と同時に、軒先に設けた通気口から屋根にも入ります。それで家全体が冷やされます」

「庭の土の中には、暗渠菅をはわせています。菌糸の繁殖しやすい環境をつくることで、その毛細管現象により、土中の調湿効果をはかります。それによって夏場の輻射熱を抑制し、冷房費を抑える計画です」

これまでそらやLandscapeで培った知見、特に植物に強いという強みは、にわとやの家づくりにも存分に活かされています。

「同じように植物が好きな外構屋さんと一緒に、共同で山を1つ借りています。そこで植物を育てて、いい時期になったら庭に使わせてもらっているんです」

普段からそうして森を歩き、生の自然に触れていることで生まれる発想も、その個性に磨きをかけているようです。



建物から考えることで、余計な外構費用を削減

「これまで造園業に携わってきて、いろいろな工務店さんや建築家さんとお仕事させていただく中で、いい面も悪い面も見てきました」という森田さん。異業種からの視点だったからこそ、たくさんの家づくりを最初から最後までひと通り客観的に見ることができ、反面教師的に学んだことも多かったといいます。

その観点からすれば、庭づくりは家づくりにコストを上乗せして考えるものではなく、最初から一緒に考えていくべきものなのだそう

「まず、建築でお施主さまのご要望を満たそうとすると、そのときは満たされるんですね。でも、住むうちに満たされない部分が出てくる。それを外構で満たそうとすると、無駄な経費が二重にかかってくるんです。最初からその将来を想定して家の形を決めてあげることができれば、のちのち外まわりをいじるということもなくなるんですよ」

中でも、外まわりで圧倒的に多いご要望が目隠し。リビングにいても、お隣や歩行者の視線が気になってカーテンが開けられないというようなお宅には、建築の問題もあると森田さんは指摘します。

「ほとんどの場合、家は陽当たりを重視して南側にリビングがつくられます。当然、広い敷地でしたらそれでも融通が利きますが、そんなお宅ばかりではないので、たとえば道路が南面に接していると、リビングと道路の間に駐車場がきたりする。そうすると、カーテン開けっ放しでは歩行者が気になるし、常に眺める先はお車だったりするんですね。でもそこで、窓の位置や配置を変えたり、建物自体の方角を左右変えてみたりすることができれば、状況は変わってきます」

それが従来の流れだと、建物のあとで外まわりをつくっていくために、何か構造物や植物で目隠しをするしかないのだといいます。

「あとからだと、もうそこを何かで隠すしかないんですが、最初に家づくりから入っていくことができれば、たとえば『そもそもリビングは北側でいいんじゃないか』とか、『お隣の窓とはちょっと外した開口部をつくればいいじゃないか』といった選択肢がとれます」

そうしてあとからお施主さまのご要望を解消していくという作業がなくなれば、外構費も抑えられます。そんな森田さんの考え方を意外に思う声もあるそう。

「僕らは庭屋から住宅に入っているので、もっとコテコテに家の外まわりをつくり込むんじゃないかとみなさん思うようなのですが……。実際にできてみると、意外にシンプルで驚かれます。受賞作もほとんど緑が植わっているだけで、それ以外のことはあまりしていませんからね。駐車場も砂利だし、実は外構費用ってほとんど植栽代だけなんですよ」



初めて手がけたのは、やりたいことをやりきった自邸

実は、今回の受賞作は家づくりを始めてまだ2軒目。最初に建てたのは、森田さんの自邸でした。3年前に建てられたそのお宅でもLIXILメンバーズコンテストの地域最優秀賞を受賞されて、「次こそは大賞を!」と今回も応募されたのだそうです。

「いつか建築の道に進みたいとは思っていたのですが、造園の世界に入ってしまって、なかなかそちらへは進むことができない状況でした。そんな中で、一つのきっかけとして自邸をつくるタイミングが、その時期なのかなと思ったんです」

コンテスト応募はもちろん、宣伝効果を期待してのこと。「自邸だったので、手をかけようと思えば自由にかけられるところがあって、コンテストにも応募しやすいところがありました」と森田さん。その設計方針は2軒目とはだいぶ違っていたようです。

「1軒目は、完全にデザインに特化した家でした。建具も木製で、すき間風がびゅんびゅん入るような、冬寒く、夏暑い家。当時は、古き良き日本の家をつくりたかったんですよ。『寒い寒い』って言いながら生活できるような家族関係が良いなと思っていたので、それを自邸で実現させました」

昨今の快適な高気密の家づくりの流れとは真逆をいく、風通しのいい家。森田さんと同じように、そんな春夏秋冬がしみじみと感じられる古き良き日本の家に魅力を感じる層もいるでしょう。ただ、多数派ではありません。初めての家づくりだったこともあり、自邸だからこそできたチャレンジでもありました。

※LIXILメンバーズコンテスト2018 地域最優秀賞受賞作品はこちら

LIXILメンバーズコンテスト2018で地域最優秀賞を受賞した最初の物件は、森田さんの自邸。まさに自分の理想を貫いた家づくりとなった(クリックすると別タブで画像を開きます)



自邸とは真逆の発想から生まれた準大賞受賞作

1軒目にして地域最優秀賞を受賞したことで、2軒目の依頼もすぐに決まったといいます。

「2軒目は、1軒目とは正反対の家をつくることで、販売促進の意味でも戦略的にやっていこうという思いがありました。そこで、ちょうどLIXILの方がスーパーウォールを勧めてくださったんです。工場見学にもうかがって、実際にスーパーウォールの家を体験してみると、『ああ、やっぱり現代の考え方は違うんだな』と感じられて、2棟目に使うことを決めました」

これからも社会の流れとしては、やはり省エネ・創エネを組み合わせたゼロエネルギー住宅(ZEH)が増えてくるだろうということで、自社のホームページでも紹介されている森田さん。ウッドショックをはじめ資材の高騰なども起きている住宅業界の今後について、その見解も聞いてみました。

「たぶん私は造園業をメインにしている分、住宅業界を客観的に見ているので、思うところはあります。わかりやすく言うと、これからはいわゆる『建築』が減っていくのではないでしょうか。デザインにこだわった家というのは、減っていくのではないかと。設計できる人も少なくなっていくだろうし、それを求める人も減っていく。本当に性能のいい、シンプルな家というのが、これから数が増えていくんじゃないかと考えています」

一方で、コロナ禍の影響もあり、日々の暮らしを重視して、コストはかかっても家づくりに理想を追い求める層もいます。

「理想は、お施主さまとていねいにお打ち合わせをして形にしていく家づくりですが、一つの型をつくって売っていくしかない棟数勝負の企画住宅だと、なかなかそうはいきませんよね。でも、恐らくそういう住宅も減ってくるのではないでしょうか。いわば“普通じゃない家”が、増えてくるんじゃないかと思っています」

そんなこだわりの家の一つの在り方として、アウトドアリビングなどにも通じる庭を重視する家のニーズはありそうです。

「私も若い頃は、お客さまの想いよりもデザイン重視で庭をつくっていたところがあります。建築家さんや工務店さんと一緒にお仕事をさせていただいていても、お施主さまよりその設計者の思いに寄せることが第一になってしまうことがあって。それであとあとお施主さまから『こういうのは別に欲しくなかったんだよ』と言われてしまうこともありました」

森田さんいわく、建築家や工務店でありがちなのが、「緑をおしゃれとして扱う」こと。植物を育てることが苦手なお客さまにも、家を良く見せるために大きな緑をたくさん植えてしまって、のちのち手に負えなくなって伐採するようなことが散見されるといいます。

「極論から言うと、うちでは『手入れが必要ない庭』がつくれるんです。わかりやすく言えば、そこに自然界をつくるので。自然の山なら、当然、誰もそこへわざわざ水をやりにいかないですよね。大きいのも小さいのも、それぞれがそれぞれの生き方で生きている。そういうものを庭に再現すれば、実はお手入れが楽な庭をつくることができるんです」

今回、同じLIXILメンバーズコンテスト2021で新築部門大賞を受賞した作品について、「設計も造園も素晴らしく、敵わないなぁと思った」と語る森田さん。それは、大賞受賞作の造園外構計画に、作庭家でその名が知られる荻野寿也さんが参画していたことも大きかったようです。

「暮らしの工房さんと荻野さんが一緒に組まれてやっていたあの形は、ひとつの理想形ではないかと思うところがあります。今後、そういうコンビで住環境をつくられる方も増えてくるのではないでしょうか」

予算のかけどころを考えると、どうしても後まわしになりがちな庭や外構。でも、実はそこに、多くの人がコロナ禍でその大切さに気づかされた自宅での充足度を上げるためのヒントが隠されているのかもしれませんね。