スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

インスタフォロワー数7.3万人超え!人気工務店のSNS戦略とは。

大阪府/株式会社ひかり工務店
代表取締役社長 清水 洋人さん(右)
統括マネージャー 原田 隆広さん(左)

LIXILメンバーズコンテスト2022で準グランプリに輝いた大阪府のひかり工務店。敷地面積620㎡、3世帯が心地好く暮らすための工夫が随所に光る受賞作「layer」は、SNSでも広く注目されています。インスタグラムのフォロワー数は7.3万人(2023年7月現在)と去年から倍増、コロナ禍を機に始めたというYouTubeも話題の工務店、その経営手法とは?代表取締役社長の清水洋人さんと受賞作の設計を手がけた原田隆広さんを直撃しました!

#LIXILメンバーズコンテスト #SNS戦略 #ファンマーケティング
#ソーシャルリクルーティング



価格帯は3000万円から3600万円へと成長

これまでもLIXILメンバーズコンテストには毎年応募しているというひかり工務店ですが、2019年に地域優秀賞、2022年には準グランプリを受賞、ベストプレゼンテーション賞も受賞されました。当日のプレゼンテーションをされたのは、設計を担当された原田隆広さんです。

「設計事務所とかだといろいろ設計のコンペがあったりしますが、工務店がこのような形で賞をいただく機会って世の中にあんまりないんですよね。工務店はデザインの良し悪しで評価されることがあまりないなと思っていたので、このLIXILのコンテストは腕試しじゃないけど、自分たちがどこまでできるんだろうみたいな興味もあって応募するようになりました。今では毎年、社内の企画推進部で期限を切って皆で参加しています」

受賞できずに悔しい思いをするのもまた、よりよいものを目指す家づくりのモチベーションにつながっているといいます。

前回の受賞作は大阪の住宅密集地で年間を通した快適な採光計画に成功した33坪弱の物件でしたが、今回の受賞作は188坪弱の広大な土地を活かした住まい。住宅街にありながら、お施主さまのご要望だった森の中で暮らすような住空間を形にしました。

※LIXILメンバーズコンテスト2022 新築部門 準グランプリ受賞作品はこちら

LIXILメンバーズコンテスト2022準グランプリ受賞作「layer」。外壁はコンクリートと木材を組み合わせることで圧迫感を軽減しながら、自転車を置くスペースなども確保し、生活感を上手に隠している(クリックすると別タブで画像を開きます)

造園家の荻野寿也さんとタッグを組んでつくられた中庭を囲むように、三世帯が暮らす家。ほどよく配された緑はお互いの生活圏や外からの視線を上手に逃し、外部に設けられたピットリビングは休日にバーベキューなども楽しめる場となっています。

リビングから続く外部のピットリビング。心地好い景観をつくっている樹木は隣のマンションからの目隠しにも(クリックすると別タブで画像を開きます)

バスケットボールが趣味というお施主様のために設けられた “体育館”があるのも大きな特長です。2m掘り下げてつくったことにより、気になる音や振動も軽減できました。

近隣を気にせず思う存分バスケットボールが楽しめる半地下の“体育館”も造設(クリックすると別タブで画像を開きます)

この受賞作と同時期に手がけた大規模なお宅が実はもう1邸あり、その2邸を自社の公式インスタグラムで紹介したところ、かなりの反響が。2022年9月には2万8千人ほどだったフォロワーが、6.2万人(取材時)へと倍増したそうです。

「物価が上がっていることもありますが、平均価格帯としては去年が3000万円ほどだったのが来期は3600万円くらいになっています」と原田さん。もともとのフォロワー数の多さもさることながら、掲載する家のインパクトによってさらにフォロワーが増え、目にする方が増えたことで、実際の売り上げにも変化が生まれているようです。



コストをかける優先順位づけで設計にメリハリを

問い合わせをいただくお客さまの動機は、インスタなどを見て来られるケースが多いこともあり、「かっこいい見栄えのいい家を建てたい!」というのが一番多いという原田さん。しかし、お打ち合わせではZEHの取り組みについてなど、機能的な部分の啓蒙にも力をいれています。

「実際に来ていただいて僕らがお話しするのは、断熱のこともしっかり考えましょうということだったり、パッシブデザインで考えるとこれだけ快適な家になりますよとか、明るい未来のためにもしっかり資金計画を立てましょうとか。デザインとはまったく違う話をずっとし続けて、お客さんの信頼を勝ち取っていくというのが営業スキームなんですよ」

設計に至るまでのヒアリングにはいつも何時間と費やすそうですが、今回の受賞作では各世帯それぞれに4~5時間かけて話をうかがったそう。いつも家の中でどんなふうに過ごしているのか、まるで雑談をするようにヒアリングするのがひかり工務店流です。

「まずは必須条件、『現時点では1階2階に何の要素が必要だと考えていますか?』といった当たり前のところから始めるんですけど。そこから『そのスペースは何畳欲しいですか?』という聞き方をしていくのではなく、『どんなふうに使われる予定ですか?』と、その“用途”を聞くようにしています」と原田さん。

ひと口にリビングでの過ごし方といっても、人それぞれ。お酒が好きなご夫婦ならダイニングテーブルに座っている時間が長い場合もあるし、リラックスしてソファで過ごすことが多いご家庭もあります。受賞作のお施主さまは、家に帰ったら手を洗って、服を脱いで、それをしまって、まずはお風呂に入って、部屋着でリラックスしたいといったルーティンが決まっていました。そうしたご家族みなさんの暮らし方を軸に、ひかり工務店のプランは作成されていきます。

「僕らがつくっている家って、たぶん一般向けに販売できないと思うんです。その人の本当にオリジナルな暮らし方にフィットした状態でつくっているから。『子どもは部屋で寝るだけで、あとは机とテーブルが置ければ良いかな』となれば、僕らは3.1畳の子ども部屋という提案もしちゃいます。そんな子ども部屋3畳の家、建売だったら普通は買わないですよね。でも、こんなふうにお客さまとお話をしながら、どこに優先順位をおいてプランをつくっていくかがとても大事なんです」

予算をどこにかけるのかを見極めていくこと。それは受賞作のような大規模な家でも、ホームページで紹介されているような20坪の家でも同じことだといいます。

「資金計画はとても大事ですが、予算を削る方向ばかりの打合せもつらいものがありますから、『これは絶対にやりたいけど、ここは別になくても良いかな』というところを深く掘り下げていく。そうすることで、設計にもメリハリが出てくるんです」

かなりの資金力があるように見える受賞作も、限られた予算の中でどこにかけるのかメリハリを出すことで、これだけのサプライズがある設計になりました。「今までやってきた中で、『予算は余裕ですね』となったことは一度もありませんよ」と笑う原田さん。受賞作も、あれだけの規模で寝室には5畳しかとっていないなど非常にメリハリが効いています。

「『寝室は寝るだけです』とはっきりおっしゃったので、じゃあ小さくコンパクトにしましょうということになりました。親世帯の2階の床材は1階のものよりコスパの良いものを使ったり、子世帯のほうは逆に2階がリビングなので、1階はものすごくコストを抑えたりしています」

ベストプレゼンテーション賞も受賞された原田さんに、お施主さまへのご提案のときに気をつけていることについても聞いてみました。

「プレゼンは、驚きとか楽しませるっていうところが一番重要だなと思っています。見る人がワクワクしたり、面白いなと思ってもらうというのが、僕の中ですごく大切にしていることで」

ご提案のプレゼンをするときにも、ただただ間取りの説明をしたり、つくったパースのスライドを見せていったりということはしないのだとか。

「僕らがどういうプロセスを踏んでこの案ができたのか、頭の中を見せるようなプレゼンをストーリー仕立てで見せていくんです。それを見るとお客さまもどんどん入り込んで、自分たちが要望したものが最終的にこんな形になったんだという驚きが生まれる。それがちゃんと表現できると、ただ間取りを説明していくよりも明らかに決定のスピードも変わってきます。ちょっと予算を超えても、これならやりたいなと思っていただけたりして。やっぱり、見せ方はめちゃくちゃ大事ですね」



フォロワー数1200人を7.3万人に増やした緻密な戦略

今回の受賞とともに気になるのが、そのSNS戦略です。インスタグラムは6~7年ほど前から始めたというひかり工務店ですが、2023年7月現在ではフォロワー数7.3万人超え。売上げにもつながるフォロワーを増やし続ける秘訣についてもうかがいました。

「2019年の4月くらいには、まだ1200人くらいしかフォロワーがいなかったんですよ」と代表取締役社長の清水洋人さん。

SNS運用に関しては専門家のコンサルを受けて地道な努力を重ねてきたそうで、現在は週に一度のインスタ会議などもあり、専任者を置いて運営しています。

「インスタを拡散させる方法というのはいくつかありますが、変な話、いわゆるフォロワーを買うということをしても、絶対に伸びないんですよね」と清水社長。単純にフォロワーが多ければ良いという話ではないといいます。

「たとえば1000人のフォロワーがいたとして、もしその1000人が全員投稿を見てくれたら、インスタのAIが『これは優良アカウントだ』と判断して、フォロワー外のおすすめ欄にも表示してくれるようになるんです。たとえフォロワーが1万人いても、100人しか見ていなかったら、もうフォロワー内でしか表示されない。そうなると、まずフォロワーは増えません」

大事なのは今現在のフォロワーに見てもらえる投稿をすることであり、それはしっかり企業の“ファン”をつくるということでもあります。

「まずはインスタのフォロワー内に拡散するようにしましょうというのが一つ。そしてもう一つ、インスタのフォロワー外にも出ていくためには、インスタのAIが好む写真を撮らなければいけないというのもあります。要は、僕らがかっこいいと思う写真と、インスタのAIがかっこいいと思う写真は違うんですよ。それを意識した写真の撮り方をすることがすごく大事なんです」

当初からインスタには力を入れていたというだけあって、写真はすべてプロのカメラマンに撮影してもらってきたそうですが、その撮り方にも変化が。よりSNS発信やAIを意識した撮り方になっているといいます。

現在、集客の7~8割はインスタ経由だというひかり工務店。その客層も時代とともに変化してきました。

「僕らがインスタを始めた頃は、インスタからくるお客さまは若い層で、所得が低いというイメージがあったんですよね。写真でデザインを見て『かっこいい!』と、自分たちの年収とかはまったく意識せずに来てしまうような。実際にインスタからくるお客さまと住宅情報誌の問い合わせから来るお客さまとでは差がありました。でも、今は全然関係ないですね」

もちろん、どんな物件を紹介するか厳選しているからということもありますが、実際に平均単価や売り上げも伸ばしていることがそれを物語っています。

「インスタもYouTubeも、初動が大事です。投稿への反応があまりないとAIに『これは良くない投稿だ』と判断されてしまう。それが続くと、『このアカウントは良くない』となって拡散されにくくなってしまうんです。なので、週の半ばでも初動の良くないものはすぐに取り下げて次のものを上げるようにしています」

そんな徹底した対策と地道な分析が功を奏しているようです。特にコロナ禍では、2020年頃からYouTubeにも力を入れるようになりました。

「YouTubeではいろんな動画を紹介していますが、ルームツアーなどではかっこいい施工事例もたくさん載せながら、社内の空気感も表現できたらなと思っています」と原田さん。

「社長がしゃべっていたり、スタッフのやわらかい雰囲気だったり、そういう施工事例を見るだけじゃなかなか伝わらない部分も見せるようにしていますね。スタッフがどんな感じで一日を過ごしているかとか」

ルームツアーでは、それぞれのお客さまのライフスタイルに寄り添う生活の中での動線が見える構成に。また素の社員が出演する親しみのわく動画の発信も、お客さまに届いているようです。

「うちのファンになって来ていただくということが本当に増えましたね。この間のLIXILメンバーズコンテストのプレゼンまでのドキュメンタリーも動画をつくって載せているんですけど、結構観てくれている方が多いんですよ。この間も、『受賞おめでとうございます!』ってお菓子をいただいたりしました(笑)」

まさにファンマーケティング。心をがっちりつかんだファンとのお打ち合わせや交渉は、よりスムーズになっています。



SNSの発信力で全国からのリクルーティングに成功

2023年は3月から新卒採用の応募をかけているひかり工務店ですが、そこにもSNSが活用されています。

「インスタで応募をかけて2回説明会をしましたが、20人ほど集まりました」と清水社長。

「その20人のうち8割がインスタを見て説明会に来ているんですね。もうマイナビやリクナビがいらない(笑)。しかも地元の大阪の子じゃなく、福岡や広島、滋賀、高知など県外ばかりなんです。わざわざ遠くから交通費を払って企業説明会に来るような子たち、ものすごく意識も高いと思うんですよね。お客さまもここ2~3年でインスタから来てくれる層が高価格帯になっていますが、採用に関しても認知度が上がって、そういった意識の高い子が興味をもって来てくれるようなイメージになっています」

その採用基準はどんなものなのでしょうか。社長と一緒に採用にも関わっている原田さんにも聞いてみました。

「何かに没頭する人間が僕はすごく好きで、採用のときにも社長とそういう話はよくしますね。建築バカじゃないけれど、どれだけ情熱を持てるかがスタートラインで、そこから一緒に仕事をしていきたいんです」と原田さん。

「たとえばどこか研修に行っても、建物の見方として壁に触ってみたり、ひっつくように眺めてみたり、一般の人とは明らかに違うものの見方をするようになるんです。設計コーディネーターも施工管理もそう。ディテールや、これはどういうふうに収まっているんだろうとか、そういうものの見方とか捉え方、目を養っていってほしいという話を常々しています。本当に自己研鑽じゃないですけど、普段からもう仕事と趣味が同じ土台でという子は、特に設計とコーディネーターのスタッフには多いかなと思いますね」

これだけの発信力があると、ひかり工務店に興味をもつお客さまも大阪周辺にとどまらなそうですが、エリア自体を広げていくことはあまり考えていないそう。そこは冷静な判断をされています。

「これからどんどん人口が減っていくなかで、建築、特に新築というのは衰退産業だと思っています。どんどん増やして大きくしていくというのは自分の首を絞めていくことになる」と清水社長。

「今だったら、新築じゃなくリノベーションのほうがすごく人気があります。それこそ広告を一切出すことなく問い合わせがくるような状況なので、こちらのほうを少し広げていくくらいのほうがいいんじゃないかなと考えています」

最近では若い世代でもリノベーションの人気が高まっているのを実感されているといいます。

「新築でどんどん単価が上がってお客さまの数が減っていくと、つい工務店はセミオーダー住宅や企画住宅を出したがるんですけど。それをしてしまうと、せっかく築き上げてきたイメージが『結局企画かよ』って話になっちゃう。そうじゃなく、新築のお金が出せないお客さまにはリノベーションを促すと、今の若い人って中古に対してあまり抵抗がないので、耐震や断熱もしっかりしてくれて見栄えもよくなって、しかも値段も安くなるならそっちでいいですっていう場合が結構多いんです」

高価格帯の新築をとる一方で、そうした若い層で新築ではなくリノベーションでもとっていく。「まだまだ大阪でやれることがある」と清水社長はいいます。

「新築でもひかり工務店はおしゃれだよな、リノベーションでもおしゃれじゃん!みたいな状況をつくっていくほうが、絶対に良いと思っているので。ひかり工務店が今後100棟200棟手がけたり、他府県に進出していくみたいなことは全然考えていません。大阪でどんどん需要を高めていくほうが大事なんじゃないかというのが今の僕らの考え方です」

今期は年間43棟、来期は50棟弱ということで、「60棟くらいまではいけるかなと思っていますけど」と原田さん。「棟数というよりも売上高、一棟当たりの単価をどんどん上げていくことにシフトしています」

こだわりの家づくりを、こだわりのスタッフとともにとことんこだわって極めていく。そこでまたファンが生まれ、理解あるお施主さまと一緒にいろいろなことに挑戦しながら、これからも新たな話題をつくっていくことになりそうです。


■LIXILメンバーズコンテスト2022への挑戦!
ひかり工務店さまのコンテスト当日の様子に密着しています。ドキュメンタリー動画は こちら から

■LIXILメンバーズコンテスト とは
ひかり工務店さま 清水社長にLIXILメンバーズコンテストについてお話を伺いました。インタビュー動画は こちら から