スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

リモートでここまで変わる!これからの現場監督の働き方とは

神奈川県/株式会社ecomo
代表取締役 中堀 健一さん(右)
設計室長 柳澤 達也さん(左)

本年度から国土交通省が「建築現場の遠隔臨場」を本格的に実施することを発表し、その新たな取り組みに注目が集まっています。今回うかがったのは、実際にリモートで現場を管理するための画期的なツールを自社開発し、業務の効率化とともに家づくりの品質向上にもつなげている株式会社ecomo。コロナ禍を経てオンラインが当たり前になった今、現場監督に求められるものも大きく変わりつつあるようです。

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自然素材へのこだわりから始まったブランディング

東京からほど近いサーフィンのメッカとしても知られる湘南に、株式会社ecomoはあります。エコロジーとエコノミーの意味を併せもつ社名のもと、地球環境や循環型の社会を目指す企業として、本物の自然素材を使った家づくりから、オーガニックのパンやコーヒーをショップやカフェで提供するベーカリー事業、エコロジーな衣食住を提案するモール事業まで幅広く展開。湘南エリアでは一目を置かれる存在です。

自然素材しか扱わない家づくりには制約が多いのも事実ですが、「当初からのこの理念こそが自分たちの存在意義」と語るのは、代表の中堀健一さん。自然素材を積極的に使うようになったのはご自身が病気をされた経験からということもあり、そのこだわりは徹底しています。

「自然素材だと言って、本当に自然素材をやっちゃう会社ですからね(笑)。『こんなものはなんちゃって自然素材にしておけばいいのに』というようなものまで頑固に変えないので、原価はどうしても上がってしまいます」

自然素材の風合いを生かしたデザイン性の高い住まいは、インスタグラムやユーチューブでの動画配信も大好評。SNSを経由したお問い合わせも多いといいます。ただ、イメージばかりが先行すると、予算が合わないということも。

「自然素材でデザインにもこだわっている分、家も高いですから。今期は3300万円台が中心でしたが、土地を入れれば6300万円になります。少なくとも、年収が800~1000万近い方じゃないと難しいですよね」

昨年は来店260組中80組ほどが商談となり、半数ほどの42棟がご成約となりました。今年は46棟を目標にしているといいます。「この数は飛躍的には増やせないし、増やさない」と中堀さん。

「僕らは、ほかの会社でやれることはやりたくないんです。ほかの会社で僕たちと同じことができるなら、僕らの存在意義がないという話で。もともとそこから始めちゃっているので、そこは頑固に変えていません。でも一定数、そういう家づくりがしたい人がいるだろうということを想定して事業をやっています」

創業25年、すべてを自然素材に変えてから19年。今では湘南で自然素材を使って格好良くデザインされた漆喰の家は「ecomoの家だな」と認識されるほど、そのブランドが浸透しています。

漆喰の壁、自然素材を使った風合いが印象的なecomoが手がけるこだわりの住まい(クリックすると別タブで画像を開きます)

中堀さんによれば、この湘南エリアにはあまり大きな地域ビルダーがなく、小さな工務店はみんなライバルなのだとか。洗練されたイメージのある人気の街だけに、小規模ながらも個性的な、キラリと光る工務店が多いエリアなのかも知れませんね。



地域のトップビルダーを中心に140社が採用!

実は中堀さん、元プロボクサーで、最初に勤められていた工務店にはボクシングジムがあったのだそうです。ただし、そこで練習をするためには6~7時にジムへ行く必要がありました。

「当時は現場監督をしていて、結構いろいろな現場をまわっていました。そのため、ごはんを食べるのも、工程表や見積もりをつくるのも図面をチェックするのも、もうトラックを運転しながらというような状態だったんです。『この高速道路の上に超高速道路つくってくれたら、個人で3倍でもお金を払うのになぁ』なんて思っていました。本当に移動時間がもったいなさすぎて」

19歳の頃からそんなふうに考えていたことを、中堀さんは今、独自に開発したリモート現場可視化アプリ「Log System」によって実現させています。これは、現場の品質管理や進捗管理、安全管理をリモートで可視化することができる画期的なシステムなのですが、そこで中堀さんが課題としたのは、多くの現場で悩みの種となっているものでした。

「僕はボクシングでしたが、人によっては家に帰って自分の好きなことをやりたいとか、家族ともっと過ごしたいとか、あるじゃないですか。でも、現場監督はいくつか現場をまわれば移動時間だけでも3~4時間費やしますし、だいたい現場には6時7時までいて、会社に戻るのは8時か9時。そこからデスクワークをしなくてはならない状態なんです」

年がら年中、何かと多忙な状態に置かれている現場監督。人手不足で設計担当が現場監督を兼任することも珍しくありません。さらに、平均して3.5時間ほどの移動時間がかかるという悪循環。また現場の状況を設計や営業までが把握していないことで、その上司も判断がしにくく、あとから問題が発覚してお客さまからクレームを受ける事態も発生しています。

そうした課題をすべてクリアできるのがLog Systemです。国土交通省も推奨するリモートでの現場管理を可能にしたものですが、ecomoの関連会社log buildから他社にもこのサービスはリリースされていて、スーパーゼネコンやハウスメーカー、各地のトップビルダーから家族経営の工務店まで140社で採用されています。また、新築住宅工事や分譲工事はもちろん、リフォームやリノベーション、店舗改装工事など幅広い領域で使用されています。

いったいどんなシステムなのか、ここで少しご紹介しましょう。

現場管理者の5大管理の中で、重要なタスクである「品質管理・安全管理・進捗管理」がlog buildのサービスで可能です。まず、品質管理は「Log Meet」を使って現場の職人とスマホでビデオ通話をしながら進めていきます。画面を見ながら現場の細部までポインターを使って指示をしたり、そのまま遠隔操作で写真撮影をしたり、図面を共有して確認し合ったりすることもできるシステムです。また、定期的に360度カメラで現場を撮影してもらうことによって、進捗状況が手に取るようにわかる「Log Walk」も画期的です。クラウド空間で360度リアルな現場を把握できるようになっています。

また、定期的に360度カメラで現場を撮影してもらうことによって、進捗状況が手に取るようにわかる「Log Walk」も画期的です。VRのように、リアルな現場を把握できるようになっています。

オフィスから現場の状況が手に取るようにわかるシステムによって、移動時間を費やすことなく現場をスムーズに管理できる(クリックすると別タブで画像を開きます)

「うちの甥っ子が大手ゼネコンに就職したのですが、彼らはすごいんですよ。だいたいゼネコンって4~5年工事なので、その間を詰め所のようなところで先輩にずっとついて一日中一緒にいるんですね。4~5年経てば、ある程度の立派な現場監督になれる。でも住宅って、3か月とか半年くらいで現場監督を任されたりするんですよね。同じ会社でも、ほかの現場監督がどんな仕事をしているのか全然わかっていない」

現場監督の具体的なタスクは可視化されていないし、すべてがルール化されずに、属人的に現場がまわっている状態。現場監督が3日間も休みをとれば、その1棟分の工事が止まってしまう。そうして現場監督がいろいろなことに絶えず追われていることで、ミスやトラブルが起きていると中堀さんは分析します。

「品質管理、安全管理、進捗管理、情報管理、原価管理。その中でも、住宅の現場監督が実際にできているのは情報管理で、それ以外は、中々手を付けられていないのが実態です」という厳しい言葉も。

「職人さんとコミュニケーションを取る事が仕事の中心となり、品質管理、安全管理、進捗管理まで手を付ける余裕がないケースが大半です。やはりデスクワークをする時間が無いので、特に大事な原価管理、積算まで仕事が及ばない状況です。そこをしっかり分離させて、本来やるべきことをやれるようにするためにも、リモート管理が必要です」



Z世代に刺さる!これから必要になる営業戦略

Log Systemによって現場監督は現地へ行かなくても進捗状況が把握でき、しっかり安全管理をすることができるようになりました。一般的な住宅会社の場合、基礎から引き渡しまで検査と言われるようなチェックが7回程度のところ、Log Systemによってオフィスから細かなチェックを実施することができるようになり、ミスやトラブルも減ったそうです。

そして、その業務は必ずしも現場監督が行う必要もなくなりました。

ecomoでは1棟につき25項目の検査基準を標準施工要領書としてすべてマニュアル化し、品質管理や進行管理、安全管理を、まだ入社して一年目の若い女性スタッフが担っています。そこには大きなメリットがあると中堀さんは語ります。

「まだ経験がなく、何も知識がない状態からのスタートですが、彼女が決まったチェック項目にのっとって定期的に現場管理をするようになってから、劇的に家の品質が上がったんですよ。それまでは、正直なところ現場監督によって几帳面にチェックができていることもあれば、そうでないことも。それに、どんなにしっかりした現場監督でも、職人さんに忖度してチェックしきれていないところもありました。実際、そういう現場はほかでも多いと思いますよ。彼女の場合はそんな忖度もなく、『ここを直してください』と言って直してもらいますからね」

わかりやすいところでは、現場がきれいになったのだそう。現場がきれいであることは、商品の品質向上や安全管理にも通じているのを日々実感しているといいます。

「以前は、お施主さまが現場を見せてほしいとおっしゃると、前の日にみんなで大掃除する必要がありました(笑)。でも今は、そんなことをしなくても常に現場がきれいになっているんです。それに、うちにはLog Walkのデータがありますから、お施主さまにはリモートで毎週現場の状況を細部までVRの状態で見ていただけます。そうすると『現場は大丈夫?』という不安もなくなるんです」

デザイン性が高いecomoの家だけに、特殊な建具のセレクトなどから間違いが起きやすいということもあるのでしょう。「サッシは2000mmのもので設計していたのに、一般的な1800mmで進行してしまっていた!」となれば、また外壁からのやり直しで大赤字に……以前はそんなことも起きていたと中堀さんはふり返ります。

「サッシの間違いなんて日常茶飯事でしたよ(笑)。高さだけでなく、開きや色、銘柄もいろいろとこだわりますからね。でもそれをサッシが着いた時点で全部チェックすれば、間違いは起きません。本来はそんなミスが絶対にないものを提供するのが建築であって、製造業のあるべき形ですよね。そのためには、その手前での検査がとても大事。それを多忙な現場監督ひとりに任せてしまうのがいけないんです」

リモートで現場管理をするメリットは、移動時間がなくなるというだけではなく、その情報がデータとして広く共有できるということにもあります。ecomoではすべての現場の情報を社員全員で共有しているので、上司もしっかり把握しておくことができ、いざというときには他の担当をしている現場監督がその現場に指示を出せるようにしておくことを可能にしました。新人の現場監督を教育する上でも、同じオフィスにいるのでしっかり見ることができます。

「これからのお施主さまとのやりとりにも、デジタル化は避けられないと思います。いわゆるZ世代、28歳前後の方たちが家を建て始めますから」と中堀さんは警鐘をならします。

「彼らは超スマホ世代で、パソコンで何かを探す人なんてゼロに近い。スマホで検索して、家づくりもZOOMで全部終わらせたい人たちです。僕らがスマホで現場のVRを見ることができると言った瞬間に、『いいな!』となりますよ。そこでiPadどころか紙の図面を広げて『赤ペンを入れますね』なんてやっていたら、完全にヤバイ。僕らはこれから、デジタルネイティブの感覚に合わせていかなきゃいけないんです」

コロナ禍でオンラインに慣れたお施主さまが増えたこともあり、ecomoではお打ち合わせもZOOMが大半となっています。そこでは、最初からプレゼンで使うような3Dの住宅イメージを使って進めるのでお施主さまもイメージしやすく、リモートでも対面でも画面を同じ画面を見ながらということになり、あまり相違がありません。

お施主さまがお持ちの家具や家電のサイズも入力しておいて、オンラインでご要望をうかがいながら3Dイメージの中に置いていきます。最後にまとまったイメージはデータとしてそのまま残るので、お施主さまもあとからお打ち合わせをした内容を見返すことができ、次回また相違が出てくるということもなくなります。



デジタルを味方に人を活かすことで広がる可能性

Z世代のお客さまをとり込んでいくためには、社内にも同じ感覚を持った若い世代が不可欠だという中堀さん。ecomoには若い方が多いのが印象的ですが、今年の新卒採用は3人。そのうち2人は鹿児島と北海道から入社を決めました。

「僕らには、人材採用は全国という考えがあります。別に神奈川だけで募集する必要はない。どこからでもいいという形にわざとすることで、人材採用は楽になります。そこでデジタル化できていれば、若い人も採りやすいんですよ」

実際に、インスタグラムなどを見て遠くからエントリーする方も増えているといいます。

「遠くから来ても働きやすい職場にするのも、とても重要なことです。慶弔休暇はしっかり1週間とって帰れる会社にしておく。要は、現場監督もテレワークができるようにしておけば、いざというときにもリモートで現場監督をすることができるわけです」

人材獲得や社員の働きやすい環境づくりにも、DX化は大きな意味を持っているようです。テレワークもできる現場監督。ただ、それはいざというときに個々の社員の働き方に自由が利くようにしているもので、「結局はアナログが重要なんです」と中堀さんはいいます。

「僕らはたくさんデジタルを使っているんですけど、コミュニケーションはやっぱり大切だと思っています。なので、基本的に社員は毎日出社。時間は少しフレックスにしていますけどね」

そんなecomoでこれから力を入れたいと語るのがリノベーションプロジェクトです。これまでもリフォーム部がありましたが、これからは新築のデザイン要素が入ったリノベーションに注目しているそうです。

「リフォームを専門でやられているところは、性能向上が苦手だったりしますよね。新築の気持ちで来た方が、予算が合わずにリフォーム部へ行くと、提案が下がるんですよ。いきなり設備機器の交換、リクシルにしますか?という話になるので(笑)、どだいお客さまの気持ちがのらないんです」

そこで、住まいの性能も上げながら、構造も把握したうえで大胆に間取りなどを変えたりするデザイン性のある大がかりなリノベーションを「新築リノベ」として提案していきます。そしてそのためには、しっかり収益を確保することも不可欠。そのキモは原価管理にあるといいます。

「要は、積算部です。これまでのように現場監督が積算をやると、忖度があり、積み上げ式になってしまう。積み上げていったものがこれくらいになったから、原価がこれくらいですと言ってくるんですよ」

中堀さんは積算部を持っている会社をヒアリング。その意義を大いに感じ、ecomoにも積算部を立ち上げることを決めました。

「ハウスメーカーにはありますが、工務店で積算部をつくっているのは100社中5社くらいでした。リノベーションこそ積算部がないと無理ですと言っていましたね。拾い出しをしなかったり、見積もりをとってもそれだけを信用して交渉していなかったり。積算がしっかりされて、工事がここでちゃんと終わるというふうにある程度ルーティンでリノベーションができたら、それはもう新築と一緒なので、実はめちゃくちゃ楽なんです」

リノベーションの世界でも、原価管理と品質管理、安全管理を徹底していくことが産業として成り立つ肝だという中堀さん。ここでもまた、しっかり定めた標準施工要領書によってリモート管理ができれば、ビジネスの可能性が飛躍的に広がります。

「僕らは今、わざと伊豆の現場をやったり、ちょっと遠くをやったりするんです。それで平気かなと思うと、全然平気。だって、現場監督が何度も行かなくていいから。職人さんさえ向こうで用意すれば、僕らが行かなくてもちゃんとした品質の安全管理がされた家が建ちます。もはや、そちらの地元の工務店よりきれいに建てますよと(笑)。地元密着で『半径3キロまでしかやりません』なんていうのは、もう通用しなくなってくると思います」

時代は今、大きな転機を迎えつつあります。生き残りをかけ、新しい世代に向けた営業戦略を考えていくためにも、自社の改革に踏み切る企業はこれからも増えてくるのではないでしょうか。