スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

平均受注単価が4000万円に!ブレないビジョンが実現したもの

茨城県/株式会社柴木材店
代表取締役 柴 修一郎さん

創業から半世紀以上、現在は3代目となる柴修一郎さんが代表取締役を務める柴木材店が社を構えるのは、茨城県つくば市に隣接する下妻市。筑波大学や研究学園都市としても知られるつくば市には、もともと高価格帯の顧客層も見込める土壌があったといいます。それでも、2006年頃まで2200万円ほどだった平均受注単価を4000万円まで引き上げることに成功した戦略は気になるところ。その軌跡には、いち企業としての確固たる信念がありました。

#経営ビジョン #地域密着型工務店 #モデルハウス戦略 #コミュニティデザイン



地域材を使って「地域の風景となるような家」を

大学は経営学部で会計を専門に学んだあと、銀行に勤められていた柴修一郎さんが、代々経営してきた柴木材店に戻ってこられたのが2003年。そして代表取締役を引き継がれたのが2013年、ちょうど10年前のことでした。その中で改めて自社の家づくりを見直しながら他の工務店の仕事も広く見る機会を持ち、つくば市をメインのマーケットとして考えたときの自社の立ち位置を見直されたそうです。

「全国各地にいる素晴らしい工務店さんの家づくりをいろいろ見させてもらって、『やっぱりこういう家がいいな』という思いが強くなりました。それは、『地域の風景となるような家をつくりたい』ということです」

目指すのは、地域の名店と呼ばれる工務店。ただ家を建てて引き渡したら終わり、ではなく、そのこだわりの家がシンボルのようにつくば市という魅力ある街を彩る風景の一端を担い、お施主さまとも末永いおつきあいをしていけるような家づくりを。「その家によって地域の価値も向上するような、そんな街並みをつくりたいなという思いが強くなりました」と柴さんはふり返ります。

「地域の特性を生かしながら、本物の自然素材を使った家づくりを軸としています。うちはもともと材木店から建設業を始めたので、今でも木材の仕入れから行っていて、その中で地域材を使い、地域の林業を守っていくことも大事なことだと考えています。社として取り組んでいるSDGsにもつながることですね」

コスト重視で外国産の木材を使うという選択肢もある中で、地域材を使うことは地域の林業を守り、その景観を守ることにもなっていく。そうした社としての思いをブレることなく持ち続けることは、柴木材店としてのブランディングにもつながり、単純なコストパフォーマンスにはないものを生んでいるようです。

「会社には、それなりの文化が根づくものですよね。そこで、ただ経済的なメリットだけを追い求めていく考え方なのか、家づくりを通してその根幹になる非常に深い部分があるのかどうか。外に対して広くアピールするものではないですが、この思いがブレなければ会社の文化が崩れることもないのかなと考えています」

柴さんは、2017年に立ち上げられた木造施設協議会でも理事を務められています。木造施設建築ならではの良さを広め、工務店の価値を上げていくための一般社団法人ですが、もともとは定期的に工務店7社ほどで勉強会を行なっていたのを法人化したのが始まりなのだとか。

「地域でどこに頼んでいいかわからないというオーナーさんに向けて、木造施設と検索すると出てくるようなサイトも運営しつつ、工務店同士のつながりや設計者同士のつながりをつくっているのですが、僕も刺激をもらうし、逆にほかの方に刺激を受けたと言ってもらえたりして。工務店同士で話すうちに、いろんなアイデアが出てくる場になっています。これからも地域工務店の意義を考え、その価値を高めていきたいですね」

この木造施設協議会の理事は無報酬で担っているそうですが、そうして切磋琢磨しあえる同業者との勉強会で得られるものは非常に大きいといいます。

「やっぱり、自分たちの会社が持っている根っこにある部分って何なのか、それは常に自問自答したほうがいいですよね。結局、『売れるからこれがいいのか』とか『売れないからこれは駄目なのか』という基準になってしまうと社としてブレますし、社員も不安になる。売り上げをつくっていくのはもちろん会社を維持していく上で必要ですが、その前に軸となるものを突き詰めていくことが大事なんだと思います。あれもこれもやっていますという会社は、あんまりうまくいっていないことが多いんじゃないかなと感じますね」

年に数回、企業の建物を依頼されることもある柴木材店。大きいものでは億単位の案件がときどき入るのも、社の評判によるひとつの実力でしょう。そこでもやっぱり木をふんだんに使った雰囲気を求められることが多いそう。社として築いてきたブランド力は利益にも確実につながっています。

OMソーラーを搭載したグループホーム「あんずの里」。2つの建物が楕円形の中庭を形成するように並んで建つ、特徴的な仕上がり(クリックすると別タブで画像を開きます)

受注単価2200万を4000万にした「モデルハウス戦略」

あと100~200mほどでつくば市に入るところに位置する柴木材店。マーケットとしても魅力的なつくば市に主眼を置いています。

「つくばという街は、万博をやったり、研究所があったり、学校教育にも力をいれたりしていて、いわゆる知識層と言われる人たちが多く、魅力ある街並みがあるので、やはり周辺の工務店はつくばを目指すところがあります」と柴さん。

「数字としても、つくば市は全国に1741市区町村がある中で、所得ランキングは40~45位程度、つまり全国上位3%くらいに入る高所得者のお客さまが多い地域なんです。だから、普通は高価格帯を目指すのは勇気がいることですが、つくば市をマーケットとして考えたときにはそのほうがある意味安全な側面もあるんですよ」

柴木材店へ戻ってきたとき、改めてマーケティングの観点から事業を見直し、見えてきたもの。それは、年間で建てる新築の棟数としては20~24棟ほどがベストで、それ以上増やすことを考えるよりも、1棟1棟の家づくりで単価を上げることが社として目指すべきところだということでした。

そこでとった戦略が、「モデルハウス戦略」です。柴さんが柴木材店に戻ってから初めて建てた2007年のモデルハウスが最初でした。

「高価格帯を目指すといっても一気には無理なので、だんだんと高価格帯を狙えるような家づくりを進めていこうと長期の計画を立てました。実際、それまで2200万円程度だった平均受注単価が、つくば市内に建てた最初のモデルハウス『Liv』のあと、その数年後には2500万円にアップしています」

そして6年後の2013年、ちょうど3代目として柴さんが代表取締役社長に就任した年に、LIXILメンバーズコンテストの審査員も務める建築家の伊礼智さんや造園家の荻野寿也さん、そして温熱環境解析で東京大学の前真之研究室と協働して2つめのモデルハウス『i-works』を建てました。


建築家の伊礼智さんが目指す新しい家づくりの形「i-works project」に、茨城県周辺の主要なつくり手として柴木材店が参画。コンパクトでも心地よく暮らす仕掛けがたくさん詰めこまれ、照明や家具が調和した豊かな住空間が完成した(クリックすると別タブで画像を開きます)

「実は2つめのモデルハウスは伊礼さんが工務店と取り組んでいる「i-works project」の中で計画し、プロジェクトとして最初につくった建物でもあったので、マスコミの方にも相当見に来ていただいて、いろんな雑誌に取材してもらい、タダで宣伝効果がものすごくあったんですよ」

そのときの目標は、また受注単価をさらに500万円上げようというもの。5年後、その目標は達成され、柴木材店の平均受注単価は3000万円になりました。

「そのあと、また6年後の2019年に伊礼さんと新たなモデルハウスを建てました。ちょうど、つくばで『里山住宅博』という工務店の住宅博覧会のようなものが半年間開催されたので、そのタイミングにあわせてうちも出展しようということで。今度はさらに高級路線でやりたいと伊礼さんにお願いをしました」

コロナ禍にさしかかった時期でもありましたが、2年後の2021年に平均受注単価3500万円という目標は達成されました。そして昨年度の2022年には、とうとう4000万円を超えるまでに成長しています。

「一気に上がったのは、もちろんコスト高で工事原価が上がったという側面もあるんですけど、狙っている層に対してはうまく訴求できているのかなという実感はあります」と柴さん。2007年にモデルハウス戦略を始めたときにはだいたい10年後をイメージしていたそうですが、実際に見事イメージ通り、だんだんと単価を上げることに成功しています。



会社の軸となるものをより強固にした建売事業

近年の取り組みの中でも特に目を引くのは、柴木材店が手がけている建売事業でしょう。それは、「地域の風景となるような家をつくりたい」という社のビジョンから派生した「街並みをつくりたい」という思いから始まりました。

街並みをつくるというのは、単体では成立し得ないもの。この夢を叶えるために、初めての建売分譲「クラスコ倉掛」を完成させました。全部で4戸の住まいから成るこの街のコンセプトは、「小さな森と、ここに暮らす。」外構だけでひと区画500万円ほどはかけたという植栽も魅力的な建売分譲です。

小さな森をコアとして、庭へと広がるライフスタイルをコンセプトとした「クラスコ倉掛」。植栽を計画的に作りこんでプランすることで、1棟の住宅では到底できない豊かな屋外空間を実現(クリックすると別タブで画像を開きます)

「建売という観点で見れば、すべてセオリーの逆をやっている形ですね。安さで勝負するのではなく、いかに高く売るかでした」と語る柴さん。その言葉通り、自分たちが本当に住みたい家をつくろうという思いからこだわり抜いた4棟の建売は、近隣の相場からすると軽く1000万円以上は高い値段設定になりました。

それでも、完売。「広告宣伝費はパンフレットをつくった費用をのぞくと、住宅タウン誌の広告を2回、計10万円くらいしかかけていないんです」とのこと。そこではSNSの効果も大きかったといいます。

「建売は初めてでしたから、どう売ったらいいだろうというところがありました。でも、YouTubeなどに上げたりしていたのを結構プロの方々も注目してくれて、いろいろと拡散してくれたんです」

もちろん売り上げの主軸となるのは注文住宅の新築ですが、自分たちが本当に住みたいと思う家を形にしたこの建売住宅は、社のシンボル的な存在になりました。

「注文住宅の場合、まずご契約をして、契約金や中間金をいただきながら建てていくという、いわゆる回収先行型になりますが、建売住宅の場合は先行投資型で、持ち出しでやっていくのでリスクも高い。でも、自分たちが求めていくことを形にしようと思ったら、やっぱり建売分譲でやるのが良いなと思ったんです」という柴さん。

社としてのブレないビジョンが柴木材店らしい魅力のある家づくりを実現し、そこからまた新たなステージへと進化しているようです。

次回も引き続き柴木材店の柴修一郎さんには、社のDX化についてなど伺います。どうぞお楽しみに!