スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

新築以外の受注はOB顧客が95%超え!DX化で「地域の名店」を目指す

茨城県/株式会社柴木材店
代表取締役 柴 修一郎さん

3代目の柴修一郎さんが家業である柴木材店へ戻ってきたのは20年前。そこで最初にとりかかったのが、OB顧客のデータ整理でした。今では新築以外のリフォームや小工事の受注はOB顧客の割合が95%を超え、まさしく「地域に根差した工務店」を実践されています。そんな工務店の評判にもつながるOB顧客とのつき合い方、社員の意識を高め、会社の文化を築いていくために大切にしていることを伺いました!

#チームビルディング #建売事業 #DX化 #可視化システム



事業承継は「顧客」承継!を実践するためのDX化

「20年前、柴木材店に戻ってきて最初にとり組んだのがDX化です。先代、先々代が築き上げた財産でもあるオーナーさまの情報が、当時はまだしっかり管理できていなくて。事業承継は顧客承継でもあるという強い思いが僕の中にありました」

3代目を受け継ぐためにも、柴さんは改めて地域に密着した工務店の在り方を見直したといいます。

「どの工務店さんも、必ず『地元密着』とか『お引き渡し後が本当のおつきあい』と言うのですが、実際に引き渡したお客さまの管理ができているかというと、まずできていない。うちも含めて、多くは建てっぱなしになっていました。今でこそこれだけメンテナンスが騒がれていますが、当時はなかなかそこにメスを入れられる会社は少なかったんです」

そんな現状を見ながら、柴さんが目指そうと決めたのは「地域の名店」という位置。そこでまず着手したのが、柴木材店で家を建てたオーナーさまのデータをきちんと管理するシステムづくりでした。

「当時、顧客管理ソフトというと成約してお引き渡しまでを管理するものはたくさんあったのですが、お引き渡し後のお客さまを管理するものはありませんでした。それで、独自に開発することにしたんです」

柴木材店で新しくつくったオリジナルのシステムでは、お客さまからのクレームやご要望、定期点検のスケジュールやメンテナンスの記録などもできるように。

「問い合わせを受けたら、必ずそれをそのお客さまデータのところに入力します。その入力データが時系列で並ぶようになっているので、解決していないと必ずそこに残り続けるんです。つぶせていないと『ああ、やってないな』と思うので、社員も自然と自分ごとして意識改革できるんですね」

最初はそれを毎朝、朝礼で全員が読み合せるというのを実施したそうです。大事にしたのは、地域密着の工務店として小さな工事ほど大切に対応するという社内文化づくり。現在ではそこまで厳しくはしていないものの、会社の文化としてしっかり根づいています。

定期点検もその都度、お知らせする往復はがきを送るようになると、オーナーさまからは「疎遠になっていたから頼みづらかった」というお言葉も。リフォームなど新築以外の工事は年間で300件ほどありますが、そのうちの95%以上がOB顧客からの受注だといいます。

「OSはWindows7とかの頃でしたが、何百万円もかけてシステムを開発しました。当時はだいぶ先駆けでやれていた自負はあります。でも、OSが上がるたびに起きる不具合を是正していかなければならないなど、こういったシステムを維持していくのは、年間20棟程度の工務店が一社だけでやっていくのはなかなか荷が重いところがありました」

そこで、自社システムからD社が提供するクラウドの管理システムへ移行することに。

「モデルユーザー契約という形で、弊社が培ったノウハウも提供させてもらっています。また、イベントで講演させていただく等、クラウドシステムの普及のためのお手伝いもさせていただいております」とのこと。自社で開発してきたDX化のノウハウは、最終的に他社の管理システムをとり入れる際にも大いに役立つことになりました。

現在は、Good Living 友の会でご提供している住宅業界向けMAツール「KASIKA」なども導入して、また試行錯誤しているところだといいます。



工務店にも応用できる「コミュニティデザイン」とは

自社だけでなく、外部の方の力も上手に借りながら自社のレベルアップにつなげている柴木材店。初めての建売分譲を形にするまでにも、そんな場面がありました。株式会社チームネットの甲斐徹郎さんの講演を聞いて、そのやり方は工務店にも応用できるのではないかと考えたのがきっかけだったとか。

「チームネットから学んだ『コミュニティデザイン』という手法を工務店の家づくりにもとり入れられないかということから、建売と親和性が高いのではないかと考え、柴木材店初の建売分譲住宅を計画しました。プロジェクトを成功に導くため、甲斐さんに講師をお願いし、月に一度のワークショップを半年間ほど行ないました。我々が持っていないクリエイティブの形成の知識を講義してもらい、自分たちで手を動かし、脳に汗をかきながら、建売分譲のプロジェクトをブラッシュアップさせていったんです」

こうして、社員一人ひとりが自分ごととして取り組める土壌がつくられていきました。そこから生まれたのが「クラスコ倉掛」です。4棟からなる建売分譲「クラスコ倉掛」には、自然とコミュニティが醸成されていくしかけが随所に散りばめられています。たとえば敷地を仕切っている柵は、子どもでも簡単に乗り越えられそうな低いもので、開放的なつくりに。


2022年度 グッドデザイン賞を受賞した「クラスコ倉掛」。仕切りの柵は敢えて低く設計し、住民同士のコミュニケーションが自然と生まれる仕掛けに(クリックすると別タブで画像を開きます)

「目隠しになるような高いフェンスを設けなかったのは特徴的ですよね。高さ50cm程度の柵で境界を仕切っています。これがある種、踏み絵のような役割を果たしているんですよ」と柴さん。

この家を買おうかどうしようかというとき、「同じような考えを持っている人が集まって来ないと不安だよね」ということが、それぞれの家族会議でも挙がっていたといいます。ただ、「これだけオープンな外構で開けた街並みに住もうという人は、たぶん同じような人たちが多いんじゃない?」と購入を決めたのだと、皆さんおっしゃられているそうです。

「計画するときには一軒一軒、家に住む人の物語みたいなものを考えました。たとえば、秋の夕暮れに外へ出てサンマを焼いていると、その匂いにつられて人が出てきて、そこで会話が生まれて……とか。ちょっと外で一杯、とかね。いろんなケースを想定しながらつくっていきました」

そんな世界観に一目ぼれしたお施主さまが多いようですが、敷地内に広がる植栽もその雰囲気づくりでは大きな役割を果たしています。ここにも、コミュニティづくりのしかけが。

「1区画に100種類程度の下草を入れているのですが、契約書には4家族が揃ったところで剪定教室をやりますよと明記しました。専門家を講師に招き、4家族で意見交換をしながら、一軒一軒まわって下草の手入れのレクチャーをしていくわけです。その後も、そこで学ばれた知識を活かして『空いたスペースにうちはこれを植えたよ』なんていうところから、また会話が生まれますよね」

4家族いるからこそ、企画する意味が出てくる剪定教室。これからお互いの借景を自発的にメンテナンスしていくしかけです。

「コミュニティって聞くと、みなさん『必要なものだ!』とポジティブな意見を言う方は多いですが、実際は『まどろっこしい』とか『面倒くさい』イメージもありますよね。『無理に仲良くしなきゃいけないのかな?』とか。でも、この街をつくったときに社員も自分ごととして取り組んでいるので、こうすればストレスなくやれるんじゃないかというところに立ち返っていろいろなしかけを考えたんです」

まずは自分ごととして考えるところから始まったプロジェクト。そこにも、このコミュニティデザインを成功に導く秘訣がありました。



現場の仕事量の調整にも一役買っている自社物件

柴木材店が手がける建売分譲のプロジェクトは、2022年のグッドデザイン賞も受賞した「クラスコ倉掛」(全4戸)から始まり、第2弾の「クラスコ花畑」(全3戸)ももうすぐ完成。現在は第3弾の建売分譲(全3戸)計画も進行中だといいます。


3棟の庭をつなげ、敷地全体が「小さな森」となるよう屋外環境をつくり込んだ「クラスコ花畑」。緑豊かな屋外へと暮らしを広げ、のびのびと自然を感じるライフスタイルを形に(クリックすると別タブで画像を開きます)

完成してからご成約までは会社の持ち出しになるうえ、近隣の相場と比べても格段に高額な建売分譲とあってリスクも大きいプロジェクト。しかし、「このプロジェクトをやっていてお腹が痛い思いをしたのは僕だけですね」と柴さんは笑います。

「社員にとっては、すごく楽しい事業だったと思います。僕も、建築費のことを考えなければめちゃくちゃ楽しかったですから。やっぱり、いいものを、自分たちの住みたい街をつくっていくのは面白いですよね。社員たちもどんどん目がキラキラしていく感じがありました」

「どちらかというと、社員がイケイケになっている分、僕はブレーキ役でした」とのこと。「これは無理だよ」とか、「これはやりすぎだよ」とか、上を見ればきりがないので多少の調整はしたといいます。

「やっぱり、売れて初めて評価になるので、完売したときはうれしかったですね。うちは両親も妻も社にいるので、家族も巻き込みながら進めていきました。よく、うちの小学生の娘を連れて植栽に水をまきに行ってたんですけど、娘も建物の特徴は全棟わかっているので、『今日はB棟が契約になったんだよ』と言うと、『えー!』という感じで、契約ごとに毎回喜んでくれていました。全部決まったときには大げさにお祝いして、社員には少し特別ボーナスみたいなのも出したりしましたね」

モチベーション高く仕事にとり組める居心地のいい会社の文化は、そういうところからも生まれるのではないでしょうか。

また、この建売分譲にはこんな側面も。「年間20軒ほどの注文住宅を手がけるのに対して、建売分譲は10%強くらいの戸数なので、これをメイン事業にするつもりはありません。ただ、建売というのは自分のところの物件なので、大工さんの仕事量の調整とかにもすごくいいんですよ」と柴さん。

注文住宅の受注にはどうしても波がありますが、工事と工事の合い間の時期や、閑散期には、分譲住宅の工事を行うことができるので、大工さんをはじめとする職人さんに安定して仕事をお願いすることができ、いい関係が築けるといいます。

「自社の物件ですからね。工事時期をある程度自由に設定できるので、閑散期には建売住宅を中心に工事してもらい、繁忙期にはお客さまの住宅を優先して工事する等、仕事量の調整には非常に都合がよくて。そのおかげで、大工さんを中心とした職人さんにバランスよく仕事をお願いすることができるというのは大きなメリットです」

しっかりメリットデメリットを見極めながら、新しい挑戦をし続ける柴木材店。工務店の在り方を改めて考えさせられるお話でした。