スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

顧客紹介比率は50%超!社員が“辞めない”会社づくりの底力

岩手県/株式会社リベスト
代表取締役 相原 一徳さん

「北国岩手の冬を快適に」をコンセプトに、奥州市で年間約200棟を手がける株式会社リベスト。その受注の半数以上が紹介というところに、顧客満足度の高さがうかがえます。今回お話をうかがった代表取締役の相原一徳さんは、地元工務店7社による合同住宅展示場「奥州いえ博」を代表として成功させてきた立役者でもあります。昨今、厳しい時代が続く中でも、現在進行形で前進し続ける地元密着型の工務店に迫りました。

#紹介受注力 #地域密着型工務店 #コロナ禍の学び #大工の正社員雇用



なかなか伝わりにくい住宅性能の訴求がカギ

「今は予想していた以上に世の中の市場が冷え切っているので、これからよほど努力していかないと、かなり厳しい年になるなと感じています」と語るのは、株式会社リベストの相原一徳さん。現在インスタグラムなどSNS対策にもテコ入れをしていて、ホームページのつくりも変えたところなのだそう。また、この春2024年3月の受注分からは長期優良住宅を標準にする方針でスタートしているといいます。

HEAT20でG2レベルの高性能住宅を手がけるようになったのは、今からもう10年ほど前のこと。住宅の機能性は会社として非常に重視されていますが、その大切さをお客さまに伝えることに関してはいろいろと試行錯誤してきました。

「もちろん営業からもその部分は伝えるのですが、お客さまの反応は悪いですよね。でも、うちは全館空調を全棟やっているので、快適な空間をつくるために高気密・高断熱はとても大事なものです。それを伝えるために、一般の住宅と比べてこれだけ差がありますよということや、実際の光熱費なども公開しています。もちろんお客さまにご承諾いただいて、実際の電気代の使用データをお見せしています」

家庭用エアコン1台で家中まるごと冷暖房できる全館空調の家「YUCACO(ユカコ)」は、売り上げの約99%を占めるリベストを代表する商品。実際に24時間冷暖房をして、ほかの住宅と比べて月々どれくらいの差が出てくるかを、紙の電気代請求書やHEMSの具体的なデータで紹介するのは、その魅力を理解してもらうのにとても効果的だといいます。

「架空のデータではなく、実データで信用をいただいているところはあると思います。特に岩手は冬の暖房費がすごいので、去年の冬に電気代が高騰したときにも、一般住宅では月に6万7万という電気代になってしまっていたのですが、弊社の住宅は半分以下で落ち着いていました」

現在、盛岡と北上にある展示場のモデルハウス5棟で宿泊体験ができるようになっているそう。


盛岡の展示場にある宿泊体験ができるモデルハウスの一例。家の暖かさは、実際に体感してもらうのが一番(クリックすると別タブで画像を開きます)

「盛岡には6年前に支店を出して、テレビCMなどPRも積極的にしているのですが、知名度はまだまだ。そんな初めてリベストを知ったお客さまに『全館空調』と言ったところで、あまり響かないんですよね。どんなものかもわからない状態。なので、興味を持っていただいた方には実際に泊まっていただき快適性を体感してもらっています。そこから商談が始まるケースも結構ありますよ」

また、長期優良住宅の標準化と同時に、リベストでは光熱費高騰への対応策として太陽光発電も5.1kWを標準で載せることに。もともと屋根貸しも含めて50%ほどだった搭載率ですが、今後は90%以上になる見込みです。「たまに、いらないという方がいるかも知れないので、そのときは値引きをする形にしますが、基本は搭載します」と、臨機応変に対応していきます。

現在、受注価格帯の平均は2700万円ほど。「ローンの月額支払いと光熱費のシミュレーション金額を含めて、だいたいこのぐらいですよというのは資金計画をするのと同時に出しています。そうじゃないと、ローコストの他社と戦えないですからね」とのこと。誠実な機能性の訴求と、こまやかな資金計画のフォローが、着実に契約へとつながっています。



紹介を契約につなげていく仕組みづくり

「うちは年間200棟前後やっていますが、その半分くらいは紹介なんです」という相原さん。OB顧客の実感のこもった口コミは、やはり大きいといいます。

「50%の紹介比率のうち、OBのお客さまがだいたい8割ぐらい。あとは、業者さんや社員の紹介なども少しありますね。ただ紹介というよりは『建てるんだったら一度観に行ったほうが良いよ』くらいの口コミがほとんどだと思います」

実際に行なっているのはお引き渡しのときに紹介カードを渡すくらいで、積極的にプッシュ営業をしているわけではありません。また紹介からご成約になれば少額の紹介料をお渡ししていますが、同時にお施主さまにも同じ額の割り引きをしているそう。それを差し引いても、契約コストとしては問題がないラインと考えています。

「自社のセールスポイントをガンガン言ったところで、お客さまはなかなかその全部を信用してはくれません。OBのお客さまが『すごく良いよ』とお知り合いに言っていただいたり、お家に招待してそこで実際の快適空間を体感してもらったりするのが一番なんですよね」

以前、性能的には今ほどではなかったものの、ある程度の気密断熱をしたオール電化の家を手がけていた頃と比べると、その紹介比率は格段に良くなったといいます。そんな経緯からも、見た目だけでなく住宅性能を肝にすることは売り上げにもつながるという確信に至りました。

「これだけ資材が高騰しているので、ちょっと見栄えのいいローコストの安い商品をやろうかな、なんて一瞬思ったりもしますが。本当にそれをやろうとしたら、今と同じ営業では売れないし、別の会社でもつくってやるとかしないとなかなかうまくいかないだろうなと。建てたあとの反応も怖いので、やはり性能は大事だなと思いますね」

本社のある奥州市での知名度は高いリベスト。来店されるお客さまは、その段階ですでに他社と比較して絞り込んできていることが多く、「他社と比べてメリットが大きいと感じられるくらいの商品力はあるかなと思います」と相原さんも胸を張ります。

そんな自負もあり、営業スタイルは完全にプル型です。「うちは基本的に電話セールスや訪問営業は禁止。DMなどは送っていますが、まずは来ていただいて、そこから商談が始まる以外は追客しない方針です」とのこと。

そこには、お客さまのことを考えると同時に、営業する社員もストレスを感じにくいという側面もあるようです。事実、この10年で辞職した社員は5~6名と離職率が非常に低く、そのほとんどが他業種への転職です。

「私も昔、営業を他社でやっていたので、OBのお施主さまからお電話があったときに『その社員は辞めました』というのが会社として結構なダメージだという感覚があって。だから、自分が会社をやるときには、社員が辞めない会社にしたいという思いがあったんです」

そのための一つの施策が無理のない営業スタイルの徹底であり、属人的ではないシステムの構築でした。

「一生懸命やっていても調子のいいときと悪いときってあるし、センスのあるなしもあるんですけど、やっぱりできるだけそういう波を少なくするほうにエネルギーを傾けたほうがいいなと。マンパワーに頼るんじゃなく、集客は会社の責任で行い営業マンには商談に集中していただく、そのほうが、たぶん“辞めない会社”になるだろうなという思いがありました」

現在も新年度の6月に向けて、給与制度や人事評価制度をさらに改善する調整をしているところ。社員のモチベーションにつなげていく考えです。人材の確保がいよいよ難しくなっている今、“辞めない会社”の実現が大きな強みになることは間違いありません。



3回目も大盛況!「奥州いえ博」集客の秘訣

どちらかといえば、狩猟型ではなく“農耕型”の営業スタイルが主流になっているリベスト。現在、営業社員は本社に13人、盛岡に7人在籍していますが、担当するのは一人当たり年間10棟前後で、少なくとも8~9棟、一番多くても13棟ほどにしているといいます。

「着工までの仕様打合せは営業が担当して、その後は工務部に引き継がれますが、お施主さんが工務部と会うことはまずありません。途中で何か変更したいとなった場合も、窓口は常に営業になります。なので、過去に3年目くらいで調子にのって15棟とか18棟とか担当した人間もいましたが、もう打合せやアポイントメントがダブルブッキングになってしまって、結局設計部が手伝ったり、めちゃくちゃになってしまって」

一組ひと組のお施主さまとしっかり向き合って顧客満足度を上げ、口コミにもつなげていくことは、農耕型をいくための大前提となっています。

若い世代にもリーチするため、ホームページをリニューアルして充実させながら、YouTubeやインスタグラムにも力を入れているところですが、そこで広く発信しているのがイベントの告知です。年間で50回近く、ほぼ毎週のように完成見学会を実施しているといいます。

「完成見学会は集客の要になっていますね。ただ、10年以上前は5万枚のチラシを集合住宅にポスティングしたら、新規が40~50組、管理客が50組くらい来て、だいたい1か所で土日に100組ほど来場していたんですよ。今はそれが3分の1ほどになってしまっています」

業界全体として客足が落ち込んでいる中、昨年の集客数には危機感を覚えているということですが、契約率としてはおよそ12~13%を維持されています。

集客のための施策として5年ほど前に始めたのが、地元の工務店7社と一緒につくりあげている合同住宅展示場「奥州いえ博」です。

「今年3月に3回目の開催が終わったところですが、地域のブランド戦略の一つとして我々の中では成功していると思っていますね」

3回目は2023年4月から今年3月まで開催されましたが、今回は全棟ZEH住宅という挑戦もして、評判も上々だったよう。テレビCMのやチラシなど、広告媒体のイメージ画像やカラーリングなどは当初から統一して集客しているので、年を追うごとにブランディング効果も出てきています。


毎回レベルアップし、大好評のうちに幕を閉じた第3回「奥州いえ博」。チラシなどのカラーリングやデザインは第1回目からのものを踏襲してブランディング。着々とその認知度を高めてきた(クリックすると別タブで画像を開きます)

いえ博では集客の一環として、地元のキッズダンスやよさこいなどのお祭り団体にもパフォーマンスをお願いしています。

「ステージも自分たちでつくっているのですが、キッズダンスはお父さんお母さんたちもいっぱい観に来てくれて、それだけでもすごくインパクトがあるし、けっこう盛り上がるんですよね。地元ならではの催しはお客さんが来てくれる確率も高まります」

音楽を流しての催しは「何をやっているんだろう?」と通りがかりの人も引き寄せる効果があり、さらなる集客にもつながっているとか。

「参加している各社の社員も、いろいろなつながりを持っているので、合同住宅展示場はそういうところも強みかなと思います。集客のためには場所も重要で、駐車場などの確保などいろいろ課題はありますが、次回もまた利用できるところは利用しながら、さらにランクアップしていきたいですね」

いえ博参加費用としては、1社200万円なので7社で1400万円、そこに協賛企業も年々増えていて協賛金は約2000万円ほど、合計3400~3500万円規模のイベントになっています。

「参加している工務店同士で月に1回の会議をしているのですが、お互い社員の顔も名前も覚えているので、協力体制もできて、いろんな準備の段取りとかもかなりスムーズにいっていますね。一部、広告代理店にも入ってもらっています。ステージの設営などから自分たちでやっています」

普段は住宅展示場を持っていない工務店が、こうしたイベント性のある事業を共同でやるうちに、接客の仕方や名簿のとり方などを学べる場になっている側面もあるようです。「うちのメンバーもすごく覚えて、上手になったと思いますよ」と相原さん。4回目も開催していけるよう話し合っているところだといいます。

3回目の来場者は2970組にのぼりました。その名簿はセンターハウスですべてとり、公平に参加している全社に振り分けるシステムです。さらに「3社を見学したら抽選でプレゼント」企画なども実施しているので、少なくとも3社は見学する来場者が多く、リベストにはだいたい60%ほどの見学がありました。

各社、見学者にはさらにアンケートも実施。それぞれに、厳しい時代ながらも「やらなかったらもっと集客面に苦労していたかも知れない」と、それなりの手ごたえを感じているといいます。



外注だけに頼らない社員大工を育てる

いえ博でのリベストの展示場には、各部屋にポップが配置されていました。それぞれに土地の情報だったり、建物の性能のことだったり、耐震のことだったり、いろいろなテーマがまとめられています。

「最初は、お客さまに『これはどういうことですか』と質問してもらうためにつくったものですが、社員が話につまったときにもその場で話題にしやすいということで、だんだんその中身も充実してきたようです」

そうしたちょっとした仕かけも、社員が主体となって形にしていくことで、社内のモチベーションが上がり、営業もしやすくなる相乗効果を生んでいるのではないでしょうか。

分業も大事なポイントです。展示場の接客は専門の説明スタッフが行い、営業は商談からの面談にして引き渡しまでの担当にしていることも、紹介率の高さにつながっているようです。今後は、これまで手掛けてきた約2000棟のメンテナンスやリフォームの相談もしっかり受けられるよう、手厚くしていく考えだといいます。

「今も専属のスタッフは2名いますが、それだけでは2000棟全部まわりきれないので、営業や工務部、全社対応で点検やメンテナンスを行なっています。これまでもOBのお客さまから問い合わせが多かったリフォームには力を入れていきたいので、これから人を増やして2~3年後には5~6人の部署として機能できるように計画しているところです」

リフォームは新築よりもクレーム対応など労力がかかるものの、仕事としてはとりやすいところもあるので、新築の件数も維持しながら定期的に仕事につながるような仕組みをつくっていきたいと語る相原さん。その際、リフォームが担える現場監督や大工を組織することも重要です。

「何年も前から、新築よりも難しいリフォームを見据えてベテランの現場監督を集めてきました。今年くらいから、一度中古住宅を買ってフルリノベの練習を始めようとしているところです」

リベストには社員の大工も在籍しています。社員大工を増員し始めたきっかけは、東日本大震災でした。当時も6人在籍していましたが、震災後は人手が足りずに苦労したそうです。

「当時は仕事が急増して、なかなか工事が進まなかったので、もう誰でもいいからみたいな大工さんも引っ張ってきてやった経験があるんですけど。もう仕事が雑でね、これはダメだということがあって。採用し始めた頃は離職率50%ぐらいでしたが、4~5年くらい前からだいぶ定着してきています」

採用は、高卒、専門学校卒、大卒から募集。専門学校が一番多く、岩手県にある大工の専門学校から毎年1~2名入社しています。「その子たちは2年間きっちり学んできているのでスタートも全然違うし、辞めないですね」と相原さん。

「未経験の高卒や大卒の子には、地元の職業訓練校で2年間、週1~2日通ってもらい、基礎的なところを教えてもらうようにしています」

今年も3人ほど入社して、現在27人。今は新築の7割ほどが外部の大工さんで、社員大工の施工率は3割程ですが、将来的にはそれが5割になるのを目指しています。


社員大工の育成にも力を入れているリベスト。毎年新しい仲間を迎え入れながら、将来的には難しいリノベーション施工まで十分に手がけられる熟練の職人集団となっていくことを目指している(クリックすると別タブで画像を開きます)

「社員大工のメリットは結構あります。たとえばリノベーションも、ほかの会社さんに聞くと、解体費とかまで外注するとすごい金額になって、それが原価アップの要因になっている。社内の大工がそういう仕事にも慣れてできるようになれば、リフォームで適正な見積もりが出せる会社になれます」

もともと40~50代のベテラン大工が6名在籍していたところに、若い社員を入れて、ここ8年ほどで平均年齢は30歳くらいに若返っています。

「今、外注の大工さんもみんな高齢化しているじゃないですか。だから、建て方ができない大工さんの組も多いですよ。そこにうちの社員大工が応援で建て方をして、外注の大工さんには造作だけやってもらっている組も3~4組います。高所の作業もやっぱり60歳過ぎると危ないので、そういう意味では社員大工のメリットは結構あるのかなと思います」

将来的には、リノベーションも十分に手がけられる大工を社内で育てていけるように。OB顧客の定期点検ももう少し密度を濃くして、いろいろ仕掛けていきたいとのこと。

「先輩の大工さんが元気なうちにできるようになってほしいなと。そのためにはそういう仕事もやっていかなきゃいけないですよね。リノベーションの事業部をつくって、いち早く社員大工に関わってもらえば、総合的に良くなっていくのではないかと考えています」

まだまだ進化の途中。これからリノベーション事業にも力を入れていく予定ですが、「成功に至るまでには5年10年かかるイメージ。それまで新築もしっかりとっていきたい」と語る相原さん。広報や営業企画なども強化していきたいといいます。

ハウスメーカーにも負けない、工務店ならではのこまやかな質の高い家づくり。そんな自社の魅力の伝え方も、これからの大きな課題となりそうです。