スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

年商80億!リフォームを基軸とした多角経営で100年続く会社に

埼玉県/株式会社OKUTA(オクタ)
代表取締役社長 小泉 太さん

スタートは修繕・営繕、リフォーム会社として成長してきた株式会社OKUTA。2002年に「脱・塩ビ宣言」をして自然素材やデザインにこだわったリフォームやリノベーション事業に力を入れたことも、個性が光るブランディングの確立につながりました。現在では経営も多角化され、新築事業では平均4000万円前後という高価格帯を実現しています。そんなOKUTAの代表取締役社長、小泉太さんにブランディングを成功させる秘訣をうかがいました。

#リノベーション #ブランディング #ログシステム #自律型組織



他社とは同じ土俵で戦わない!マルチブランド戦略

新築戸建て市場の低迷が続いている昨今、「当社の新築はマーケットとしてもお客さまのニーズはまだまだあると感じています」と語るのは、OKUTAの代表取締役社長、小泉太さんです。それというのも、OKUTAはもともとリフォーム専門の会社。そこから、今では新築、不動産や建材までマルチブランドの事業を展開しているのです。

「マルチブランドであることが重要だと思っています」と小泉さん。OKUTAの基幹事業は自然派デザインリノベーションを展開する「LOHAS studio(ロハススタジオ)」であり、LOHAS studioが手掛ける新築「LOHASTA home(ロハスタホーム)」や、水まわりなどの設備交換や修繕リフォーム全般を提供する「Handyman(ハンディマン)」などを展開しています。

「外的要因が起きると、すぐに必要でないものは購入を控えますよね。ちょうどLOHAS studioが成熟期になったとき、コロナ禍では多少売り上げが凹みました。ですが、ステイホームのなかでもどうしてもやらなければいけない、壊れてしまった設備機器の交換などには圧倒的な需要があり、Handymanのほうはぐんと伸びました。一方に凹みがあっても、会社の中で売り上げのバランスをとることが重要だと考えています。」

OKUTAの歩みをふり返ると、たとえば創業時に考案した、リフォーム施工を項目ごとにメニュー立てして一覧にした価格訴求型のメニューチラシなどは、反響営業の先駆けとなり、その後全国に広まって今では一般的な手法となっています。そうした他社の追随、模倣があり、価格競争に巻き込まれたところから、LOHAS studioブランドを構築。現在につながっています。

「2002年に『脱・塩ビ宣言』をして売上至上主義を脱却し、環境にも人にもやさしい御家づくりを徹底しました。そうしてできたのがLOHAS studioです。さらに3.11でエネルギーの問題に直面し、これは建築に携わる者としての絶対的な使命だと、住宅性能を向上しエネルギーに極力頼らずに快適な空間を実現する『passiv design(パッシブデザイン)』を上位ブランドに。LOHAS studioはさらに高水準を目指し、Handymanでは幅広いお客さまへのスピード対応ができるゾーンを確立していきました。この2ブランドが、ちょうど良いバランスを保っています」


LOHAS studioが手がけた施工例。パッシブデザインを提案し、環境にも人にも優しい住宅づくりを目指す(クリックすると別タブで画像を開きます)

もともとはリフォームやリノベーションを扱っていたLOHAS studioですが、「LOHAS studioが手がけるような家が新築でも欲しい」というニーズに応えて新築部門も設立しました。それが姉妹ブランド「LOHASTA home(ロハスタホーム)」です。

「新築はまだ年間20棟ほどではありますが、それでも平均単価が4000万円前後なので、20棟あれば8億円前後。およそ80億円になる全体売り上げに対して、約10%を占めることになります」

こうしてお客さまのニーズに応えながらマルチブランドを展開していくことは、顧客満足にもつながり、自社の収益バランスをとりやすくするというウインウインの関係になっています。

「中古リノベのお客さまも多いですが、別の不動産会社で御家を買ったら『リフォームは200~300万円でできますよ』と言われて、当社で実際に見積もりをしたら『800万円かかります』ということが過去には起こっていました。顧客視点に立ち、そこまでワンストップのサービスがあるべきだろうと、当社では不動産仲介サービスや、リフォーム・リノベーションのプロが買い主の代理人としてサポートするバイヤーズエージェントというサービスも立ち上げています」

いろいろな有事にも対応できる弾力性があるOKUTAのマルチブランド戦略。そこで常に考えられているのは、「他社と同じ土俵で戦わない」ための仕組みづくりです。

「今や、リフォーム事業もレッドオーシャンです。より自社の強みが伸ばせるところをひもづけたリフォームイノベーション。ニッチなところを攻めていくことで、活路を見出していきたいと考えています」



リフォームのOB顧客も次につなげるアフター会員に!

大手ハウスメーカーなどはやはり新築事業が花形ですが、OKUTAでは「リフォームの営業こそが花形」だといいます。

「当社は基幹事業がリフォームで花形の部署なので、他のビルダーから転職した方はびっくりすると思います。当社には不動産部もあります。一般的に不動産会社では不動産の担当スタッフからリフォームの部署へ仕事を振るという構図やパワーバランスがありますが、当社はそうではありません。物件購入が反響の入り口ではなく、リノベーションの依頼が先にあってから不動産仲介もご利用いただくケースが多いためです。お客様のご希望に合わせてチーム編成を行うので、不動産のスタッフもリノベーションのスタッフも1つのチームメンバーとして協力し合っています」

LOHAS studioの店舗は現在17店舗ありますが、随所に使われるロゴなどはもちろん、店内のBGMのセレクトも揃えたり、オリジナルのアロマをつくって全店におくなど、お客さまのアンカリングにつながるブランディングが徹底されています。


LOHAS studioの各店舗は、店内に流れるBGMやアロマの香りまで徹底してブランディングされている(クリックすると別タブで画像を開きます)

生き残る会社となるためには、こうしたブランディングとチームづくりが大事だと小泉さんは言います。

「いいものをつくるためには専門的なインテリジェンスを高めて、知を集結していくことが必要になるので、やっぱりチームワークですよね。当社は性能が落ちるリノベーションはお断りしており、構造変更を伴う場合は設計部がデザイナーのプランを全てチェックして補強計画を立て、施工管理がそれに則って現場を納めます。その仕組みをオペレーション上で組んでいます」

そうした仕組みづくりにも力を入れながら、外部の講師を呼んで勉強会をしたり、インテリアデザイナーが北欧など海外へ研修に行って感性を磨いたりする機会も多く設けているOKUTA。デザインコンテストへの応募も積極的に行ない、「LIXILメンバーズコンテスト」をはじめ多数受賞をしています。

「実務的なトレーニングのカリキュラムもありますが、作図や図面などは経験を積めば基本的な作業はできるようになります。ですが、感性を磨くには遊び心も必要です。遊びもうまくないと」と小泉さん。それぞれの感性を伸ばしながら、お客さまのさまざまな声に応えられる柔軟性をもって、あまり型にはまらないような人材育成を目指しているといいます。

また、リフォームのお客さまを新築と同じように顧客管理しているというのも、OKUTAならでは。アフターは会員制度をとっていることも強みとなっています。

「当社では住まいとお客様の生涯サポートを担う会員制サービスを展開しており、有料会員様は1万6000世帯を超えています。3000円の網戸の張り替えから、一億円以上のリノベーション工事も行う会社は珍しいかもしれませんね」

そんな3000円の網戸張り替え施工も、縁の下の力持ち的な存在だとか。

「網戸の張り替えやエアコンクリーニング、水栓交換など様々なメニューを網羅するメンテナンスのスタッフがいてくれるおかげで、日々のちょっとしたお困りごとにも対応できたり、お客さまとの会話の中で『今度は外壁塗装をやりたい』と、次の営業につながったりしています」

リフォームは新築と比べてクレームにもなりやすく、手がかかる部分が多いこともあって、OB顧客の管理がおろそかになっている工務店も少なくないのではないでしょうか。小泉さんはそんな風潮に異を唱えます。

「確かに単価で考えれば新規のお客様のほうが良いのかも知れませんが、スタッフのモチベーションや契約率を考えると、リピートや紹介のほうが有効だと思います。新規の場合は、お客様がまだ当社についてご存知でないため、色々と調べたり相見積もりも多く発生します。営業効率で考えても、アフターの方が効率がいいと思います」



ログシステムも活用!経費削減で利益を生み出す

「突出したブランディングをする過程では、利益は若干薄くなります。ですが、まだ誰もやっていないことをするほうがやりがいがあるし、楽しいですよね」という小泉さん。持続可能な企業であるためにも、その考え方を大事にしているといいます。


①ミーティングの様子 ②ビジネスパーソンとして成長できるさまざまなカリキュラムが用意されたOKUTAカレッジ ③ふるさとテレワークも実施(クリックすると別タブで画像を開きます)

「売り上げ100億円の会社を10年やるよりも、10億円の会社を100年続けるほうが、よっぽど社会的な意義が大きいというのがOKUTAの考え方。なので、基本的には売り上げ目標がありません。ただ、社員にはきちんと利益を残して還元するということを明言していて、持続可能な経営にするために利益にはこだわります」

利益を出すためには、経費を削減すればいい。そのため基本的にはテレワークで、できる限りオンラインで対応するなど、交通費や駐車場代をかけない方法がとられています。

「当社の施工管理は徳之島にいたり、足柄に住んでいたりします。彼らはログシステムなども使って遠隔で現場管理しているんです」

リモートで現場を可視化するアプリ「ログシステム(Log System)」は、OKUTAの新人教育にも活用されています。施工管理のアシスタントとオンラインでつないで遠隔で現場が見られるので、OJTもスムーズ。従来は一人前になるまでに何年もかかっていたのが、もう2年目くらいでひとり立ちできるようになっているそうです。

「オンラインで対応できると、非効率な移動時間もなくなりますし、それぞれの社員がもっと自分のこともできますよね。その分、会社の利益も増えます。『営業を科学する』と考えたとき、できるだけ非効率なことをなくして、効率よくできる仕組みをつくっていくことが肝心だと思っています」

施工管理が現場へ足を運んだとき、ログシステムで別の社員が必要なものなどを確認することができると、「発注書はこっちでつくって送っておくよ」ということができます。事務所に戻る必要もなくなり、またすぐに次の打ち合わせにも行けるわけです。

「当社はファックスもほとんど使わないので、いちいち会社に戻ってくる必要がありません。そうやってより電子化して業務効率を上げていくことは、社員の満足度にもつながります」

現在、社員は250人以上。そのうちリモート専門で仕事をしているのは1割ほどですが、基本的に、まだ仕事を覚える必要がある新人以外はテレワーク中心です。今の体制に大きく移行したのはコロナ禍がきっかけとなりました。

「コロナ禍のはじめに、店舗の細分化を行いました。テレワークが中心のためバックヤードが不要となり、広い面積ではなくアクセスの良さを優先した移転・出店を行いました。店舗数としては当初の14店舗から17店舗に増やしたのですが、全体の固定費は一気に下がりました。社員はお客さまとのお打ち合わせの日に行くくらいなので、バックヤードには1~2人しかいない店舗がほとんどです」



出戻り制度も!「社員」による自律型マネジメントを

昨今は、テレワークで従業員の勤怠管理をするのが難しいと言われたりしますが、小泉さんはそこにも異を唱えます。

「まず、当社では『従業員』という呼び方をしません。それぞれが自律的な社の一員である『社員』ですから。社員としてお客さまに誠実に向き合って仕事をしてもらえれば、自由に昼寝をしても構いません」

OKUTAには「パワーナップ制度」があり、昼食休憩以外の時間帯で、自分が眠いと感じたタイミングで仮眠をとることが全社員に認められているそう。

「ストレスをためずに少し寝たほうが、集中力も高まりますよね。当社は厳しい規則で締めつけるのではなく、自律型のマネジメントを基本にしています」


社員がそれぞれ集中して仕事に励めるよう、15~20分程度の仮眠を推奨している

2017年にはスーパーフレックス制度を導入。そこには、優秀な女性社員の活躍を促す目的もありました。

「育休をとった女性社員が復帰する際は時短勤務の希望がある場合が多いですが、総労働時間で見ればフレックスならできるという場合もあるんですよね。土日でも旦那さんが子どもを見ている間にお客様とのお打合せができたりもします。そうした声が社内で挙がり、コアタイムのないスーパーフレックスを導入しました」

オンラインやフレックスタイムを推進する一方で、社員同士のコミュニケーションも重視しています。

「相互扶助の精神が大切ですね。『明日はテレワークで店舗には来ないから掃除しておくね』とか、『明日はスーパーフレックスで少しゆっくり来るから閉店作業はやっておくよ』とか。ゴミ捨てやトイレ掃除など、店舗業務の負担がかたよらないように、『昨日はありがとう、じゃあ今度こっちをやっておくね』というふうに」

そのほか、社員が自発的に行う趣味やスポーツなどの活動費を支援する「アクティビティ倶楽部制度」など、独自の福利厚生にも力を入れているOKUTA。他社に転職して出戻った社員に「支度金」を用意しているというのも面白い制度です。

「当社で3年以上勤めた社員が退職し、改めて再入社する場合に、25万円もしくは前職月給の70%を支度金として支給する『おかえり感謝支度金』という制度を設けました。帰ってきてくれてありがとうって。退社して転職する期間は1か月くらい給料ラグができるので、その分を補填する意味もあります。また、特に貢献度が高く事情により退職をした社員には、2年以内の再入社であれば、原則退職前の役職・ポジションでの復職を認める『出戻り手形』という制度もあります」

「業界の中では離職率がとても低いというわけではない」ということですが、そうした制度で実際に出戻ってくる社員は少なくないといいます。それだけ魅力のある会社だというのもまた事実なのでしょう。

「私が社長になったときに宣言したのは、『この建築業界でワークライフバランスの先覚的な企業を目指す』ということでした。そのうえで重要になるのは、ブランド価値の最大化です。ブランド価値が高まれば、お客さまに認められ、そこに付加価値がどんどん生まれてくる。そうなれば、非効率がもっと効率良くなって、社員のワークライフバランスにつながっていくんです」

それは、ただワークライフバランスの体裁を良くすればいいというものではないと小泉さんは言います。

「ワークライフバランスだけ良くして、その結果、利益が出なかったら何の意味もありません。社員が幸せになるためには、しっかりブランド価値を高めて、営業効率を良くして、利益体質が強くなっていかなければ。お客さまの満足度が高まるのもそこに全部比例していますし、社員のやりがいにもつながります」

ブランディングもチームワークも、会社としての利益も社員のワークライフバランスも、すべてはつながっているというのがOKUTAの考え方。社員、顧客、取引先と三位一体でさらなる好循環を、これからも追究していくことになりそうです。