スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

その数、約1500項目!あらゆる指針の言語化から生まれる企業文化

岐阜県/ひだまりほーむ(株式会社鷲見製材)
代表取締役社長 石橋 常行さん

木の家、自然素材を扱う工務店は、これからもう一度脚光を浴びるのではないか──。そう語るのは、岐阜県で「ひだまりほーむ」を営む株式会社鷲見製材の代表取締役社長、石橋常行さん。新築も分譲も厳しい時代ですが、その中でもまだまだ磨ける余地はあるとばかりに革新し続けている会社です。新築のほか、リノベーションや不動産業、最近では飲食業まで手がけていますが、そのすべてには一貫した考え方とブランディングがありました。

#多角経営 #ブランディング #言語化の徹底 #経営者育成



おむすび屋さんもオープン!その理念は家づくりに通じる

熟練の職人たちの手で、厳選された国産材と赤ちゃんが舐めても安心な自然素材によって、木の癖や木目を見極めながらていねいにつくられる木の家。そんな家づくりをモットーとしている「ひだまりほーむ」を運営するのは、株式会社鷲見製材。会社は今年で創業96年となります。

代表取締役社長の石橋常行さんは4代目。代々、それぞれに業態を変えながら受け継がれてきた4代目ですが、初代から2代目3代目も、ひもとけば「木材」とともに「地域貢献」を目指してきたといいます。

「初代は地域のお祭りをしたり、映画館を無料でやったり、おかしをつくったり、いわば何でも屋。今でいう地域のゼネコンのような感じでした。2代目がそれを製材に一本化して、3代目はまた地域のお祭りごとや寺社建築をやったりしています。そして4代目の僕。各世代やっていることは若干違いますが、それぞれに地域貢献を考え、イノベーションをくり返して今に至っているんですよ」


施工事例が豊富なひだまりほーむのホームページでは、日本最大級のVRタウン「Hidamari Town」で、展示場やオーナー様のお住まいを360°バーチャル体験することもできる(クリックすると別タブで画像を開きます)

志の源となっているのは地域貢献。ひだまりほーむで国産材100%の住まいづくりを実施しているのも、「森を守りたい」という思いからでした。ひだまりほーむグループで運営するHidamari villageで今年オープンさせていたおむすび屋さんも、一見まったく畑違いのようですが、実はその理念で通じています。

「このおむすびは長良川の上流にある郡上市で育った米を使っています。米の恵みは、森の恵みなんです。森がしっかりとした水を貯え、その水から米をつくる。最終的にその水は川を流れてわれわれの住む岐阜を超えて海にたどりつくわけですけれど。海苔はその出口である知多のもの。そんなふうにいろいろなところで、全部の事業はつながっているんですよ」


2024年3月に「ひだまりおむすび」を開店した、ひだまりホームグループ。そこに込めたこだわりや思いには、ひだまりほーむのコンセプトにも通じるところがある(クリックすると別タブで画像を開きます)

現在、ひだまりほーむグループとしては5つの会社があり、新築事業のほか、リフォームやリノベーション、不動産、人材紹介、塗装工事、そして飲食業も扱っています。

「飲食店をやっているのは住宅業界からすると“異業種”って話になるんですけど。僕の感覚からすると、『豊かな人生をつくる業』みたいなもので。そのなかのひとつが住宅であり、飲食であり、不動産でもあり。すべての事業はそこにひもづいているから、違和感はまったくないんですよ」

ひだまりほーむは、ただ住宅という箱をつくるのではなく、そこに住む人の豊かな暮らし、豊かな人生をつくるということが一番のテーマ。それを形にするのは住宅に限らず、おいしいおむすびを食べることにもあるというわけです。

「僕らを木の家工務店とするならば、この市場も今、非常に難しい局面にいるのは確かです。ただ、もともと工業化住宅から始まって、その後に自然素材ブームみたいなものがあって、今ってたぶん、デザイン系や性能住宅の全盛期だと思うんですよね。これがもうすぐ終わりに向かっているんじゃないかと思うんです」

石橋さんは、これからまたもう一度、木の家や自然素材を求める声が高まるのではないかといいます。

「家はコストも高騰していて、買える人も限られてきている。そうすると、最終的に大量生産型ではなく、“究極の自己満足”みたいな原点にかえっていくのではないかと。本質的に家の価値とはなんなのか、生きていくこと、住むことっていうのは、どういうことなのか。そういうところにフォーカスされてくるのではないかと思います。みんな疲れていますからね。自然とか、風とか空とか。木とか鳥とか動物とか。言ってみれば当たり前のことなんですけど、それらがいかに尊いかという流れにきている気がします」

ただやみくもに多角経営をしているのではなく、そこに通じる理念を徹底して磨いているからこそ、顧客の心をつかみ、ファンをつくる。ひだまりほーむのブランディングを成功させている秘訣は、そのあたりにありそうです。



次世代の経営者も育成!採用では山に入る機会も

現在5つの会社を営むひだまりほーむグループですが、そこには経営者を育てたいという思いもあります。「僕には『10人の社長をつくる』というスローガンがあります。それは血縁である必要はありません。たくさんの経営者を育成して、会社をもっと大きくしていきたい。そうじゃないと地域が潤いませんからね」と石橋さん。

「時代錯誤かも知れないですが、小さくまとまるというのではなく、会社は発展させていくべきものだと考えています。仮にこの地に10個の会社があって、その1つずつに15人もいれば、それだけで150人分の雇用が生まれる。けっこう大きなインパクトになっちゃいますからね。しかもそれが人材育成のしっかりされたスタッフであれば、なおさらです」

ひだまりほーむグループでは、5つの会社それぞれに責任者が任命されていて、その責任者が最終的にその事業をオペレートしています。売り上げの数字は月に一度の経営会議で進捗管理をし、業務効率アップのためのDX化も進めているそうです。

「言ってみれば、企業内ベンチャーみたいなものです。事業計画もつくってもらって、最終的な意思決定は僕にあるものの、ある程度の決定もしてもらっています。社長にも苦しみがあるぞというのを、まざまざと教えている最中です。でも結局、最終的な責任をとるのは僕ですからね。もう思いっきりやってくれて構わないという話なんです。ラッキーだと思いますよ。好き勝手やらせてもらえるわけだし、お金だって資金手当を自分でするわけじゃないですから(笑)」

そう笑いながら、「大きかろうと小さかろうと、経営者じゃなきゃ見えない景色がある」という石橋さん。経営者を目指す者には、そういう環境に身をおく経験をしっかり積んでほしいといいます。

グッドデザイン賞や日本エコハウス大賞、LIXILメンバーズコンテストでも受賞歴があり、その家づくりには定評がありますが、一方で「人材育成に力を入れている」ということでも知られているひだまりほーむ。どんな事業も、まずは人から。採用で大事にされていることについても教えてもらいました。

「僕は、会社説明会と呼ばれるところには必ず行きます。やっぱり、トップ自ら話すことが大事ですから。トップが何を話すかといえば、夢とロマンです。雇用の条件でお話しすれば、そこで他社と比較検討されることになるわけですが、夢とロマンで比較されるなら、僕らにも勝ち筋がある(笑)。大手は別として、われわれのような中小は会社イコール社長ですから」

採用活動は営業活動とほぼ一緒だという石橋さん。学生たちにはいつも、「『選ばれよう』とは思わないでね」と伝えるのだそう。

「会社はこちらが自分で選ぶという気持ちでないと、という話をします。あなたたちもうちの会社を見定めてね、って。ここは結構、学生たちが間違えているところで。選ばれよう選ばれようとすると、だいたい嘘をつきますから。逆に自分が選ぶんだという気持ちで会社を見ると、もっと知りたくなるんですよ」

「森を守る」というスローガンを掲げているひだまりほーむだけに、最終選考前には必ず全員で山へ行くというのも驚きです。

「森林が荒れている、だから空気も汚れ、環境も水も悪くなる。当然、川が汚れれば海も汚れますから、先ほどのおむすびの話にも通じますよね。その根底にあるのが山なので、そこへ連れて行って、荒れている森と整っている森を見てもらう。そこで何かしら、感動なり、あるいは怒りなりを覚えないような子は、たぶんうちの会社は無理なんですよ。もっと合理的に考えてとか、稼げればいいというようなことに主眼があると、うちでは生きていけないので」


実際に山へ入っていろいろな現状を知ることができる森ツアー。ひだまりほーむの理念を改めてひもとく大きな手立てとなる(クリックすると別タブで画像を開きます)

そうした確固たる企業文化がある一方で、「3年前と今では全然違う会社になっていると思いますし、また3年後も違っていると思います。僕が社長じゃないかもしれない。現状維持は後退だと思って日々を過ごしているものですから」と語る石橋さん。事業の多角化とともに、変化する速度も速いので、そこに合わずに去っていく社員がいるのも仕方がないと腹をくくっています。

「ポジティブに言えば、社員が2人、3人、辞めるときって、会社が大きく変革しているときなんですよね。現状維持だったら、恐らくそういうこともないんだと思います」



新人教育にも欠かせない徹底した「言語化」

現在は、ひだまりほーむグループ全体で社員が50名ほど。パートやアルバイトスタッフを入れると90名弱になります。女性は4割ほどいて、子育てをしながらというのも珍しくありません。

「うちは、ほぼ100%育休明けで帰ってきます。誰もやめません。特に、ママさんたちというのは時間管理がすごいんですよ。だって、5時までに迎えに行かなきゃいけないっていう仕事のやり方をするわけですから。そのためにすごく効率的に仕事をするので、働き方が全然違って、僕も驚かされます」

そんな女性たちも多く活躍するひだまりほーむですが、実は社員のための手引書が存在しています。その名も、「HidamariGram(ひだまりグラム)」。社員教育のためにも、社の在り方を具体的な言葉にしていくことが大事だと感じていたという石橋さんですが、今年の3月、その理想とも言える仕組み化に長けた無印良品に加盟し、無印の家を扱うことになったのも大きな刺激となりました。

「無印良品には『MUJIGRAM』という徹底したマニュアルがありますが、それを文字って『HidamariGram』というものをつくっています。今では1500項目くらいありますよ」

15年ほど前から常に言語化することを意識してきたという石橋さん。それは、社員に対しても、お客さまに対しても同じだといいます。

「たとえば『外壁はクリーム色が良い』と言ったときに、そのクリーム色は、必ずしもそこにいる全員が同じ色を頭に思い浮かべるわけではないんですよ。ちゃんと『これがクリーム色だよね』という確認をして共通認識にならないといけない。要はそのくり返しなんです。これは家です、とか。そこにどういう美意識があるのか、とか。豊かさってなんなんだろう、とか。そういう感性的なものも、いちいち言葉を解説していかないと今の子たちには伝わらないと思うんです」

ありとあらゆることに関して、会社としての基準をしっかり言語化しておくことは、それができているのかどうかを判断する材料になり、より確固とした企業風土をつくっていくことにもつながります。基本はOJTですが、こうした会社の指針となるものもつくり、設計やデザインは外部のスクールを活用したりするほか、石橋さん自ら教える塾を開催するなど、積極的にさまざまなトレーニングを実施されているのが印象的でした。



約800棟のOB顧客は会員制でアフターメンテナンス

ひだまりほーむでは、OB顧客のメンテナンスをすべて会員制で行なっています。現在その会員数は800棟ほど。会員には有料会員と無料会員がいて、それぞれメンテナンスにかかる出張費などが変わってくるというしくみです。

「木の家ってやっぱり、完成したときからいろいろと動いていくんですよね。だから、そういう意味ではメンテナンスをしていくこともわれわれの責務ですし、決して安くない建物ですから、逆に言えば先にそのお金をいただいているという認識でやっています。有料会員は会費1万2000円ですが、最終的には10年後に12万円分の商品券になるという形を取っていて、その頃に何かしらに使ってくださいという、言ってみればプールのようなものにしているんです」

「新築事業って俗に言うリピートがないから、結局いつまで経ってもフロー型のビジネスにしかならないのがすごく嫌で」という石橋さん。メンテナンスもそういう形をとりながら、いかに関係をつなげていくかを大事にしているといいます。

「ストックビジネスという言い方をするなら、それはオーナーさんでしかないんです。そこでつながりながら毎年点検にいって、『もうそろそろ外壁を』って3~4年ぐらい言っていたら、だいたい受注できます (笑)。そこで200万円の外壁工事が起きて、仮にそれが10件もあれば2000万円ですから、それで建物1軒分になる。そういう意味でオーナーさんを巻き込みながらやっていくというのは、すごく大切だと思っています」

毎年ひだまりほーむでは感謝祭も開催し、そこで当時の大工などに会う場を設けて、昔話に花を咲かせたりしているのだそう。WEB上にオーナー様専用サイトも立ち上げていて、口コミやインスタ投稿がポイントになるようにするなど、いろいろな試みをしています。


感謝祭「おかげさま祀り」では一人ひとりのお客さまによろこんでいただきながら、その声をしっかり聴くことで、また新たなお客さまにつなげていくことを大事にしている(クリックすると別タブで画像を開きます)

「インスタで、『#ひだまりの暮らし』って入れると、われわれのオーナーさんがたくさん上げてくれています。そういうふうに、オーナーさんがいかに面白半分でやってくれるかなんですよね。そうすると、オーナーさん同士がつながり始めるんです。それもすごく重要なことで」

実際、紹介キャンペーンに本腰を入れ始めたら、最近では紹介率が3割ほどアップしているそうです。そこには、こんな地道な企業努力もありました。

「うちは、声というのをすごく重要視しています。日報には社員がお客さまの声を記入する欄があるのですが、誰がどんな声を上げているかというのがそこに全部集約されるようになっているんですよ。もちろんクレームもあるし、よろこんでもらえたという良い話もある。あと、業者さんの声も収集しています。方針説明会のパーティなどがあれば、そこで一人3人には声をかけて声を集めるように社員に指示を出したりするんですよ」

そうして集まったさまざまな声はデータベース化され、本部に上げられて、改善できることはなんでも改善するよう動いているのだとか。そこでは社長に直接上がってこないような声もたくさん知ることができて、学びも多いといいます。

「住宅は正直面倒だし、大変ですよ。でもやっぱり、建築が好きだからやってるんだろうね」とふり返る石橋さん。地域への貢献、そして世の中をより良くしていくための事業を、これからも日々模索していくことになりそうです。

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【編集後記】

今回取材させていただいた中で、印象的だったのは「ひだまりグラム」という社員教育・育成のためのマニュアルでした。企業として大事にしている部分を言語化していくことで、新しく入社されてくる方だけでなく、グループにいる社員全員が立ち戻る原点を持たれていることが企業としての強みになっていると感じます。

企業使命や経営理念だけでなく、家づくりの哲学、ロングライフデザインという美意識の共有、自然との接点を持つことでの心の豊かさ、品質・設計・デザインに関するルール作り、人を大切にする「ベストフレンド戦略」、ひだまりグループとしての「仕事の基準」が明確になっています。そして石橋社長の経営者としての考え方まで、ありとあらゆるものが言語化され、更にそれを改善していくという姿勢も感銘を受けました。

最初からここまでのものは作れないと思いますが、住宅・リフォーム会社の皆様も取り組める(取り組むべき)活動ではないかなと考えます。(N-LINK C 野口)

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