スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

全国の工務店や投資家、行政とも連携!「参加型のまちづくり」という挑戦

神奈川県/株式会社エンジョイワークス
取締役 松島 孝夫さん

最初は不動産業からスタート、今では分譲、設計も手がけながらまちづくりにつながるプロジェクトにも着手しているエンジョイワークス。2007年にこの会社を設立したのが2人の元外資系金融マンというだけに、その視点や方向性には従来の住宅業界にないものがあります。今回は設計部門を率いる取締役の松島孝夫さんに、そのゆるがないビジョンと考え方、今まさにチャレンジしているプロジェクトについてうかがいました。

#まちづくり #ファンド活用 #ピンホールマーケティング #巻き込み力



クレーム減にもつながるお施主様の“自立”とは

企業の在り方は、やはりそのミッションが一番象徴しているのではないでしょうか。エンジョイワークスのミッションは、家づくりだけにとどまりません。

〈ライフスタイル(暮らし方、働き方、生き方)について自ら考え、自ら選択することのできる仕掛けを提供し、共創する機会を生み出すことで、持続可能で豊かな社会の実現に貢献します。〉

「ちょっとおこがましいんですけど。要は、自分たちの生き方みたいなものを自分で考える人を増やそう、というミッションなんです」

エンジョイワークスが不動産業や建築業を行なうのは、そのミッションを遂行するために、結果的にしていることなのだと取締役の松島孝夫さんはいいます。住まいはもっと能動的に、自分で考えてつくるべきなのではないかというのがエンジョイワークスの基本的な考え方。そこから見えてくる景色は、従来とだいぶ違っているようです。

「いわゆる衣食住でも、洋服はみなさんいろいろ考えて選ぶようになったり、食事もこだわられたりする方が増えていると思うんですけど。住宅だけはそうなっていない。住まいは本来、一番自分らしくするのに時間をかけてしたほうがいいものなのに、意外と売っているものをそのまま買っちゃうんですよね。なぜか住宅だけ。何十年か前から、建築家とつくる家といったものも始まってはいますが、それでもまだ少数だと思うんです」

エンジョイワークスは、暮らし自体を自分で考えていく人を増やすしかけを、不動産業や家づくりだけではなく、まちづくりにまでおよぶ広い視野で手がけている会社なのです。そのきっかけになったのは、会社の設立メンバーであり代表取締役の福田和則さんが東京から神奈川県の葉山へ引っ越したことでした。

「葉山に住んで一番衝撃的だったのが、やっぱり人だったそうなんです。この街って、東京から近いようで遠いので、通勤するのは結構大変なんですよ。でも山も海もあって別荘があり、ブランドもある、住環境としては素晴らしい場所なので、そこを住む場所として選ぶ人は、プロスポーツ選手とか芸能人とか、一般の方でもクリエイターの方とか、自分で事業をやってらっしゃるような自立した人じゃないと選べないんですよね」

そこで、気づいたのだといいます。「こうして多様な人々が混じりあうことで、ここには面白い魅力的なコミュニティができている。こういう街が増えれば、日本はもっと豊かになるのではないか」と。それを実現するために何ができるか考えたとき、「まちづくりに携わろう」という結論に至り、最初に始めたのが、その葉山・鎌倉エリアでの不動産事業でした。

しかし不動産事業ひとつとっても、やはりそのやり方は変わっています。

「もちろん不動産の仲介をするわけですが、ただ物件を紹介するというよりは、人を紹介したり、ここでのライフスタイルを紹介したり、お店を紹介したり。そういうことをしながら、その人にとって本当に自分がそこを選択するのが良いのか、考えてくださいっていう仲介をしているんです」

そうしたスタンスだけに、過去には「土地、全然紹介してくれないじゃん」と言われたことも。しかしいまや、お客様が自ら探して「こういう土地があるけど、どうですか?」と話を持ちかけるところから家づくりが始まることもあるのだとか。家づくりを進めていく上で、このようにお施主様が自立していることは、クレームを減らすことにもつながっているといいます。



自分たちでつくる!「スケルトンハウス」の考え方

家づくりのスタンスも、エンジョイワークスならではのものがあります。それを象徴するのが、「スケルトンハウス」という商品。箱として家の基本設計はあるものの、間取りや内装などはほとんどゼロの状態からお施主様が自ら家づくりをしていくという試みです。


ごくシンプルな基本構造をもとに、設計士がサポートしながらお施主様が自ら専用アプリを使って家の設計をしていく「スケルトンハウス」(クリックすると別タブで画像を開きます)

「一番は、『お施主様が自分で考える』ということを、もう本当に徹底してやってもらうというのがポイントです。そうすると、自分の家にめちゃくちゃ愛情をもってくださるし、自分で考えたものだから、失敗してもそれは自分の責任だとちゃんと思っていただけるんですね。人のせいにしない。そういう人たちを増やしていくということをしているんです」

その目的につなげるために、スケルトンハウス自体も年々バージョンアップしているそう。

「今もまたアップデートしようとしているのですが、本当に中身のない、最小限のところからお売りすると決めまして。最初はシャワーだけついていて、トイレがボンッと置いてあって、キッチンも簡単なものがドカッと置いてあって、あと、階段はあります。そんなところから、自分で考えて家をつくっていくことができるんです」


外断熱工法を採用しているため、室内は仕上げなしを実現。お施主様が自由にコーディネートすることができる(クリックすると別タブで画像を開きます)

この家を選ぶ方は、ただお洒落だからとか快適そうだからといったふわっとしたものではなく、もれなくその意図を理解している。それは大きな強みとなります。実際、お客様には「こんな家が欲しかった!」とご好評いただいているようです。

「みなさん面白がってくださいますね。ほぼ基本の、このままでいいというお施主様も結構いらっしゃいます」

現在販売されているものでは、1階に1本だけ柱が必要なほかは、本当にがらんどうにすることが可能。ある一定の構造の範囲はあるものの、窓の大きさなども自由に考えられます。また、スクラップ&ビルドにならない長寿命の住宅をつくっていきたいという観点から、中身だけを取り替えればまた次の人が住めるものにしています。断熱は外断熱工法を採用し、室内の仕上げなしを実現。窓はLow-E複合ガラスの樹脂サッシを標準採用し、断熱性能もHEAT20のG2レベルをクリアしています。

「スケルトンハウスの床は合板、壁は柱が見えたまま、天井も構造の骨組みが見えている状態なのですが、お施主様もそこを仕上げる必要がないって気づくんですよ。もちろん仕上げても良いのですが、子ども部屋とかはこのほうが楽しいじゃん、とか。なんかベニアぐらい貼っておいて、子どもに絵を描かせたりして。いつでもそれを取り替えて、またみんなで塗って、ということもできるんです」

「家づくりを設計期間の半年だけで終わらせるって、本来は難しいはずなんですよね」という松島さん。このスケルトンハウスを購入してから徐々に自分たちでいろいろDIYしていき、「もう30年家づくりをしています!」なんていうことができるのが、この商品の魅力なのだといいます。

「『これで本当に終わりなんですか?』って、すごい言われます。でもちゃんと説明すると、考えている人は『そうか』と納得すれば買うし、『いや、それはうちでは無理だな』と思えば買わないので。『私はこれがいい』と選ばせるというのは、すごく大事だと思います。僕らはこれでチャレンジしているんです」



境界を設けない分譲事業「ヴィレッジ」の挑戦

不動産事業、そこからの家づくりを進めるなかで、仕入れも手がけるようになり、土地建物の分譲事業を始めたエンジョイワークス。そこでもまた、独自の視点がありました。

「分譲事業と言っても、ただ儲かればいいというのはうちのミッションとしてはないよね、と。やるなら、最終的にお隣さんとの関係性みたいなものを考えるようなものにしたい。ということで、塀とか境界のない『お隣さんと一緒につくるヴィレッジ』をやってみようとなったのが、2016年に始めた事業です」

そこで強調したいのが、「コミュニティをつくるための分譲事業ではない」ということだと松島さんはいいます。それぞれが自分たちの暮らしを大切にして自立していると、自立した人同士、お互いの暮らしをリスペクトしあって、みんなが住みやすい環境を自然発生的につくっていくことができる。押しつけではなく、そのようなほどよい距離感のコミュニティを生み出したいというのがヴィレッジの目的です。

「ヴィレッジはこういうもの、何か共同でやっていきましょうというのでは息苦しくなっちゃうので、そういうことは目指していません。本当の意味で、『向こう三軒両隣』的な関係性をつくるきっかけになれば。お隣さんの落ち葉が入ってきてもめる、なんてことも、境界がないこのヴィレッジでは起きないんですよ」

とても思いきった戦略ですが、その世界観には確実にニーズがあります。まさに、ピンホールマーケティングを地でいく会社なのではないでしょうか。

「『隣の人が嫌なやつだったらどうしよう』って、最初はみなさん思うようです。でも、そういう依存する関係ではダメで。それぞれが自立して、お隣さんともある程度コミュニケーションをとれたほうが自分の暮らしがより豊かになる、そういう関係性です。わかりやすく言えば、お隣さんと庭を共有することで自分のところから見える風景が広がったり、50坪の土地を買うより200坪の土地がつながっていたほうが全然いいじゃん、ということだったりします」

もともと自立した暮らしをする人が多く、そういったコミュニティが自然発生的にできやすかった葉山からスタートしたこの「ヴィレッジ」は、それぞれにテーマが設けられています。たとえば庭の果樹を育てることをテーマにした「果樹園ヴィレッジ」は、3区画に建てられたスケルトンハウスで構成されました。


2022年、海からもほど近い葉山町の下山口に誕生した「果樹園ビレッジ」。季節ごとの果樹を、お隣さんと楽しみながら暮らすことをテーマに企画された(クリックすると別タブで画像を開きます)

「日々の暮らしのなかでちょっと果樹をとって食べたり、お隣さんにおすそ分けをしたり、されたり。そういう食を大事にすることをメッセージとして打ち出したので、それに共感する人たちが自然と集まってくるんですよね」

すでに完売していますが、PRとしては、そこで採れたもので梅酒やレモンジュースをつくったり、バジルソースをつくって料理したりするイベントを、インフルエンサーの方を起用して開催するなどしたそう。ヴィレッジの計画は、基本的に3か月から半年ほどで売り切るイメージで進めるといいます。

「そういうメッセージを出したりイベントをしたりすれば、『ああ、こういう暮らしをする人たちの場所なのね』とわかりますよね。それで自分はそれが好きか嫌いかということを考えてもらえると思うので。結構、地道な販売活動かもしれないですけど、うちはそういうのを大事にしています」



ファンドを活用!行政も人も巻き込むまちづくり

実はこのスケルトンハウスとヴィレッジの取り組みは今、全国に広がり始めています。

仙台にできるのは、「キャンプ場に暮らそう」というコンセプトで生まれた9区画のヴィレッジ。まわりに田畑が広がるのどかなヴィレッジには、ここに住む人たちでキャンプ場として使えるオープンスペースがつくられています。

ほかにも、京都や奈良、富山、岡山、大分などにも個性が光るヴィレッジが誕生予定。それぞれにテーマをもってヴィレッジの世界観を構築していき、発信できる場としていく考えです。また、ヴィレッジのユーザーによるSNSコミュニティ「エンジョイクラブ」を設け、自発的に情報交換ができるしくみもつくっています。顧客の質も、またこういったところで醸成されていくのでしょう。

「東京と地方で情報の格差もだいぶ平均化されている今の時代、センスのいい可愛い家をつくりたいと思っている人は地方にもたくさんいます。むしろ、ちゃんと消費者さん側を向いて考えたら、『本当に万人受けするものをつくったら売れない』という答えになっていると思うんですよね。ただ、そのリスクをとるのには勇気を出す必要もあります」

ここにもまた、独自の新しい取り組みがありました。それは、自社がファンド事業者となること。投資家を集めたり、クラウドファンディングを行なったりすることで、小規模事業者でも積極的にプロジェクトが遂行できるしくみを実現しているのです。

「『何か始めてみたい』という方は結構いらっしゃると思うのですが、『リスクが大きい』って、当然思いますよね。買い取り、再販にしても、『買っちゃって売れなかったらどうしよう』とか、『調達するお金もたくさん必要だし』とか、悩んでいる方はたくさんいらっしゃるなと。それなら、そのプロジェクトを面白いと思う人たちで小口に分割して出資すればできるんじゃないか、というのが発端なんです」

さまざまな面白い取り組みをしているエンジョイワークスだけに、だんだん全国の不動産・インフラ関係の方々とつながりができてきたのも、地域を飛び越えてできることとしてファンドを考えたきっかけだったといいます。こうして生まれたのが、ファンド事業「ハロー!RENOVATION」です。


不動産クラウドファンディング「ハロー!RENOVATION」では、空き家や遊休不動産を再生して新たな事業を育てるファンドが続々と立ち上げられている(クリックすると別タブでページを開きます)

「このしくみで大手デベロッパーに対抗しようぜ!みたいな、そういうこともみなさんとできるかなというのもあるので、できるだけ多くの不動産や建築をやっている事業者さんにファンドに投資してもらいたいと思っています。いま建設中なんですけど、最初にファンドをつくった富山のヴィレッジは、4軒つくるのに1億4000万というファンドになっています。そのうちの50%は地域の不動産、建築の事業者さんなんですよ」

そこには、個人の投資家も入っているそう。「業界のプロが見立てて『これは売れそうだな』と思っている事業性のあるものに、一般の方がのっかるのも楽しいんじゃないかと思っています」と松島さん。そうしてひとつのプロジェクトに巻き込む人の輪を増やしていくのも、エンジョイワークスのやり方です。

「なんというか、ファンを育てているような意味合いでファンドを使いたいなと思っています。単に資金調達ができないからというのもありますが、それにプラス、その企画のファンと一緒につくっていくことって、もちろん自分たちの利益の一部を渡すことにはなりますが、変な広告費を出すよりもよっぽど意味があるのではないでしょうか」

いい企画があって本当はもっとしかけたい、物件もあって施工もできて、それを欲しがるお客様もいるはずなのに、資金がないから次の事業にとりかかれない!というとき。それをファンドが肩代わりできれば、事業を加速できることになります。

「たとえば3年ぐらいやっていたホテルをファンドが買って、もう一度事業者さんにリースバックして引き続き同じように事業をやってもらったりするのですが、そうすると不動産をもたなくて済むし、いったんゴールがあってお金を払えるとなれば、資金回収に13年かかるところが3年で資金回収できて、また次の事業にも投資できるわけです」

「兵庫県の神戸の端っこにある団地を買ってリノベするというプロジェクトがあったのですが、1000万円のファンドを募集したら2時間くらいで全部埋まりました。リノベとかやられてる事業者さんからすると、自分たちの仕事をファンドを使ってつくって、ファンドから施工代をお支払いしますということになるので、良いツールなのではないかと思っています」

いろいろ伺っていると、すべてが順風満帆のようですが、もちろんいっぱい失敗もしているという松島さん。それでも、「僕らが地方に行ってこうして受け入れていただける、仲良くしていただける一番の理由は、地元でちゃんと不動産屋らしい仕事をやっているからだと思います」と胸を張ります。実際、ファンド事業自体は5%の手数料をとるだけなので、一つひとつのプロジェクトはそれほど大きな儲けではないといいます。

「経歴だけ見たら元外資系金融マンと書いてあるから、『湘南の金融屋がしくみだけつくってピンハネしていくつもりだろう』なんて、普通は思いますよね(笑)。でも、なんでこんなに儲からないファンド事業をやっているのかっていうことをきちんとお伝えすると、みなさん思いが近しいので興味をもっていただけることが多いんです。マーケティングとしては非常に効率が悪いかもしれませんが、一緒にやれる人は確実に増えていますよ」

スケルトンハウスやヴィレッジ、そのほか空き家を活用した場をプロデュースする事業なども展開し、さらにはファンド事業も。その領域は多岐にわたりますが、すべては一貫して冒頭のミッションにつながっています。

「『即、儲かる』みたいな不動産業の在り方を、ちょっと変えられるといいなと思っています」という松島さん。その理念に共感して、エンジョイワークスに相談にくる自治体も増えています。

ついこのあいだも、横須賀市からの依頼で田浦にある32棟もの平屋をリノベーションするプロジェクトが開始され、アトリエにしたり個人店を開いたりという「生業住宅」というコンセプトでリリースし始めたところ、すでに10件もの仮申し込みがあり、行政も驚いているといいます。


横須賀市との官民連携事業としてスタートしたのは、横須賀市田浦町1丁目の「旧市営田浦月見台住宅」60戸を商い住宅としてエリアリノベーションし、賃貸募集する事業(クリックすると別タブで画像を開きます)

新たな建築業界の在り方として、たくさんのヒントがあったエンジョイワークスの事業と、そこへの思い。これからも、その動向に目が離せない会社です。

【編集後記】

今回取材させている中で印象的だったのが、ピンホールマーケティングという考え方でした。「こういった環境や住宅、生活スタイルをしたいというお客様が集まってくれればよい」ということは、市場の中でかなり狭いターゲティングをしなくてはならず、「失敗したらどうしよう?」と考えませんでした?とお伺いしました。

そう思われるのは良くわかります(笑)とした上で、逗子や鎌倉というエリアだけでなく、今は全国各地でプロジェクトが広がっており、人口が少ないエリアでも評価されていることは、この考え方が間違っていないということではないかと話されていました。

エンジョイワークスさまはこの「まちづくり事業」を全国に広げていきたいとのこと。今までの業界的な慣習や考え方に捉われない姿勢が魅力的な会社さまでした。(N-LINK C 野口)