スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

ブランド力とともに単価もアップ!コロナ禍が変えた集客の考え方

静岡県/株式会社 花みずき工房
代表取締役社長 竹山 朋彦さん

今年で創業30周年を迎える株式会社花みずき工房。年間100棟前後を手がけた全盛期から今は30棟ほどに落ち着いていますが、その単価は住宅の質とともに年々上がっているといいます。昨年度の新築平均単価は3300万円。十数年前からいち早く始めたリフォーム事業も、その売り上げを着実に伸ばしています。7年前に代表取締役社長に就任、時代に合わせて営業手法を再構築してきた竹山朋彦さんにお話をうかがいました。

#WEB集客 #内製化 #リフォーム事業 #ニーズの多様化 #Log System



新築の平均単価を上げるには?客層をとらえたWEB戦略

「新築を100棟売り上げていた20年ほど前の全盛期からすると、社員も半減し、正直苦しい時代もありました。でも、創業当初から無垢の柱を使うことを心がけて、お客様に健やかで安全に暮らしていただきたいという強い思いは変わりません。時代も変わり、変えるべきところは変えますが、その信念だけは変えずにやってきたところがありますね」

そう語る株式会社花みずき工房の代表取締役社長、竹山朋彦さんは今年で入社25年。1999年の中途入社で現場監督から始め、現場の責任者になって静岡支店を立ち上げ、本社に戻って役員を担ったあと、7年前に先代から会社を受け継ぎました。

「ただ、新築の平均単価は上がっています。2年前は2500万円が平均値でしたが、1年前に2900万円になり、今年の4月でしめた数字は3300万円まで上がっていました」

それだけ聞くと、昨今のウッドショック等の物価の高騰が関係していそうですが、実際はそう単純な話ではないといいます。

「じゃあウッドショックで800万円、物価高で25%単価が上がるかというと、そうではないんですよね。コロナ禍を経て、会社としてうちはどういう層に自分たちの価値を提供するのが一番いいのか、話し合いながら徐々に上げていったことで今の結果がある。客層をとらえたということだと思っています」

花みずき工房の家づくりは、無垢の柱や床材、漆喰、珪藻土など、安心安全な自然素材をこだわって使うのが特長のひとつ。また、「南欧」というキーワードも大きな反響を呼んできました。


白壁にテラコッタの瓦屋根をあわせた南欧を感じさせる施工例。漆喰の塗り壁や無垢のフローリング、アーチ状の開口部など、魅了される方が多いのもうなずけるデザイン(クリックすると別タブで画像を開きます)

「設計は社内で行なっています。特にデザインルールなどは設けていません。4人いる1級建築士それぞれに個性がありますが、どの案件もその4人で設計デザインレビューという会議をするんです。4人でああじゃないこうじゃない話し合ってからご提案をするので、会社として出ていくのは整理されている状態になっています」

もちろん、花みずき工房ならではの考え方や設計、デザインの特長はありますが、それがすべてではありません。一番大事にしているのは、お客様がどのような暮らしをしていきたいかをしっかりヒアリングし、具現化していくことだといいます。

「うちは今まで、規格が決まった『商品』というものをつくったことがないんです。どんな家を叶えたいのか、どんな暮らしを叶えたいのか、とにかくそこに寄り添いまくることを大事にしています。南欧風もそのひとつですが、海外の本当の空気感とか、たとえば家庭菜園をやりながらお茶を楽しめるような。そんな世界観をつくっていこうということが根底にあるんですよ」

「それだけ価値があるものであれば、お客様は価格に納得してくれます。その単価に見合う仕事をしていかないと」と、竹山さん。その真摯な姿勢の仕事ぶりによるお客様の満足があってこそ、平均単価のアップは実現したのでしょう。

最近では、リモート現場可視化アプリ「Log System」も導入しました。現場の品質管理や進捗管理、安全管理をリモートで可視化することができる画期的なシステムです。

「コロナ禍にDX化がどんどん進んで、いろいろな売込みがあったなかで、一番最先端を行きたくて。現場の360度カメラ撮影とデータ保存無制限というところが決め手になりました。仕組みと金額と考え方が一番良かったので選んだ形ですね」

もともと、お施主様には「いつでも現場を見に来てください」という方針でやってきたという花みずき工房だけに、自信をもって導入できるといいます。

「みなさん構造見学とかもそこまで興味があるわけじゃなくて、5分で終わったりするんですけど。ありのままを見てもらって、こちらが一生懸命説明している姿を見せることで安心かどうかを判断していただいているところがあると思います。営業にも、こうしてオープンにすることを接客の武器としてもらいたいんです」



外注せずに自分たちで発信!内製化で得たものとは

「昔は展示場を構えて、そこへ来てくれれば自分たちの家づくりや詳しい構造の話をしたり、資料を渡したりして。あんまり情報を外に出しちゃうと真似されちゃうから出さないでおこう、みたいなことがありましたよね。でもコロナ禍以降はがらりと変わって、お客様はWEBで全部調べてから来るんです」

WEB上だけで他社と細かく見比べられてしまう昨今、その基軸となる独自の考え方をきちんと形にして発信していくことは、もはやなくてはならない広報の一環になっているといいます。

「どこも、うちの会社はこういう考え方だとか、施工体制などの細かなところまで、もう全部を載せるようになりましたよね」

コロナ禍を経て、時代とともに集客への考え方も変わってきたという竹山さん。大金をかけてCMを打つことを辞めたのも、大きな変化のひとつです。

「今はやっぱり、広告戦略的にはメディアミックスですよね。ホームページだけは外部のデザイナーを入れて刷新しましたが、インスタグラムやユーチューブ、ピンタレストなど、ありとあらゆるものを社内でちょこちょこやっています。そうして、自分たちの強みを、じわりじわりと出してきました」

お互いに信頼関係を築いてよりよい家づくりをしていくために必要なのは、誰かれ構わずに打つ派手な広告ではなく、実際の取り組みを自分たちの言葉でしっかりと発信することでした。そうして花みずき工房の価値をわかって門戸をたたいてくれるお客様が集まることで、自ずと契約率も高まってきたそうです。

「グーグルの評価基準、E-E-A-Tも、うちみたいに実直に発信しているところを評価してくれるようになったので、ドメインパワーが上がって自分たちが届けたい人にダイレクトに伝えることができています。CMをゼロにして集客数は確かに減っているのですが、集客の質は上がりつつあるのを感じますね」

数年前なら、たくさんのキーワードを盛り込んだりするだけで検索ページでも上位表示がされやすくなったSEO対策。最近ではその評価システムもより厳格になり、小手先のテクニックはなかなか通用しません。誰が、どれだけオリジナリティのある専門的な情報を発信しているかは、WEBサイトの評価を上げる大きな要因になっているのです。花みずき工房のこうした地道なやり方は、まさに理に適っているのでしょう。

「役員たちと話す中で、やっぱり苦労しても自前でやろうよと。最初っから人に出していくと、自分たちの考え方が伝わらなくてイライラするし、数は少なくても自分たちでつくって自分たちが届けたいものをつくっていこうということでやっています。内製でのスキルもだいぶ上がって成長を感じていますよ」

WEBに掲載する住宅のイメージ写真なども、外部カメラマンではなく社内で撮るのがメインになっているといいます。

「写真撮影から動画撮影から説明イラストから、お客様インタビューによるコラム記事まで。どれも外注ではなく社内で製作しているので、広報の費用はほぼゼロです。たまにインスタ広告を出しても2万円ほど。それで3組ほど名簿がとれるくらいにはなっていますね」


2021年の夏頃から社員の手によって日々アップされているコラム。ここだけでもかなりの量の良質な情報となり、公式ホームページのグーグル評価を上げている(クリックすると別タブでページを開きます)

コロナ禍では一時期なかなか活かせなかった総合展示場のモデルハウスも、今また客足が戻りつつあるという竹山さん。

「総合展示場はまわりがハウスメーカーばかりなのですが、金額的に届かないとか、自由が利かなくてちょっと面白味に書けるとか、そういう感じでほかにもちょっと見てみようとうちに来られる方が結構いますね。完成見学会や構造見学会、セミナーなど、毎月のように企画しています」



OB顧客のケアからリフォーム事業を軌道にのせるまで

新築は数を追うよりも質、それにともなって価格帯の向上も目指すようになった花みずき工房ですが、実は十数年前にいち早く立ち上げて育ててきたリフォーム部門も、その売り上げを支えています。

「リフォーム部門を立ち上げたのは大きかったと思いますね。最初は、真っ赤っかでしたよ。でも、とある縁でLIXILリフォームショップに加盟して、計数管理とかリフォームの考え方をご教授いただいたりしながら成長してきたんです。加盟3年目くらいからかな、部署内の人員も育ってきて売上も毎年階段のように上がっています」

現在ではリフォームの責任者が一拠点で3億円の受注を突破するほど、大きく成長。「全国的に見ても、少なくとも静岡ではうちぐらいじゃないかなという数字だと思います」と、竹山さんも胸を張ります。LIXILメンバーズコンテスト2023のリフォーム部門では、古民家のリフォームで地域優秀賞を受賞しました。

リフォームの売り上げの3分の1は、OB顧客です。創業から提供してきた注文住宅は3000棟以上。現在では紙で保管されていたものもすべてデジタル化し、潜在顧客としてデータ管理されています。もともとリフォーム部門を立ち上げたのも、オーナー様のメンテナンスをしっかりしようという思いからでした。

「最初の頃は、行くとクレームを拾ってくるような感じでね、行かないほうがいいんじゃないかみたいなところもあったのですが(笑)。でもやっぱり初志貫徹で、うちで建ててもらったことに感謝して、至らなかったところはちゃんと直していくという大原則のもとに動いていかなければ」

そうして志強くやり続ける姿勢は、社員にも浸透していきました。

「新築の営業も『こういう形でメンテナンスをしっかりしてよろこんでもらっています』ということを発信して、OBさんとの信頼関係ができてきました。この間は、築25年のお施主様が手狭になってきたから建て替えたいということで、うちをまた選んでいただいて。解体のときは壁の中がどうなっているか心配で見に行きましたが、メンテナンスもしっかり請け負っていたお宅なので、杉の柱がものすごくきれいで思わず写真を撮りました」


新築物件のアフターとして、定期的な点検業務は第三者機関であるJIOに委託。補修箇所は花みずき工房で責任をもって対応し、最長60年まで建物保証をしている(クリックすると別タブで画像を開きます)

残り3分の2、OB顧客以外のリフォーム依頼は、ホームページから問い合わせが来たり、LIXILからの紹介、ショールームでイベントを行ない、チラシを配ったりしたところから来るといいます。

「反響率が一番高いのは、やっぱりチラシなんですよ。お客様の層も、平均値は55歳くらい、実際は65歳、70歳という方も多くいらっしゃいます。なので、DMのポスティングなどもしています」

現在、小さなものから大きな案件までさまざまあり、平均単価としては73~75万円ほどになっているというリフォーム事業。担当するには社員にもより経験が求められるところがあります。実際にまわれる数も限られるため、今後は人員も補充しながら一つひとつの案件を丁寧に行ない、その単価を上げていくことが目標です。

「平均単価を上げていくには、ワンランク上のご提案をしたり、補助金を活用したご提案をしていくしかないと思っています。でも、出世魚のようなもので。最初はショールームからの紹介で便器交換だけ、10万円ぐらいから始まって、そのリフォームをきちんとすると、今度はお風呂をやりたいとなる。そのうち大御所のキッチンやリビングが3段階でご依頼いただけるんです。そうすると1軒でトータル700万円くらいになっていくわけですね」



社長にとっての顧客は社員!採用コストゼロを実現

「今年も新入社員が3名入社したのですが、そのうちの1人はリフォームやリノベーションをやりたいって言うんですよ。なんでか聞いたら、面白そうだと。新築だけどぎりぎりの予算の建て売りの家より、リノベーションのほうがわくわくして面白いって。若い世代の価値観も変わってきているのを感じますよね」

実際、近隣のエリアでリノベーション施工をしっかりできる業者は花みずき工房のほか、いくつかに限られるそうです。お隣のお子さん世帯がリフォームしたのを見て、親世帯からもリフォームを頼まれる、なんて事例も出ているそう。技術面や対応の臨機応変さなどいろいろ難しいことがあるからこそ、それができる企業は強いのでしょう。

また、もともと建築系ではなく、家づくりのノウハウがない社員を2名ほど採用したことも良かったと竹山さんはいいます。

「ノウハウがないからこそ、率直な意見というか、お客様目線で『こんなことは知られていないから、ホームページのこの部分はわかりにくい』といった意見をくれるんです。おかげで、家づくりをしている側としてあまりわかっていなかったことが見えてきました」

花みずき工房は、こうした人材募集も実は広告費ゼロ。「広報でブランディングを高めてきたことで、求人広告はもう必要なくなりました」とのこと。自社のホームページに採用情報を載せるほかは、専門学校の先生からの紹介で来ることもあるそうです。

「今では毎年のように、そこの学校から応募がくるようになりました。なんでうちを選んだのか聞くと、『先生に花みずき工房はいいよと言われて』って。卒業生が実際にうちで活躍しているのも大きいでしょうね。インターンシップみたいに職場探検に来るので、そこでいろいろ説明しています。来てみて、『ああ聞いていた評判は本当だった』となって、会社の雰囲気を直に見て良かったら、そのあと面接依頼が来るという形です。その頃にはもう、ほかの会社はあまり考えていないということが多いですね」

「うちなんて給料提示はめちゃくちゃ安いから。でも今の若い子たちは、お金じゃないって言うんです」と笑う竹山さんですが、単純にお金じゃないところで会社を選んで入ってくる社員は、新卒で入ってもう4年目にはエース級で活躍する人材になっているといいます。

「ただ、ハウスメーカーとかでエースでやっていたという人が来たとしても、うちではあまり売れないんですよ。むしろ、それまで建築関係の経験はなかった40代の女性が、その人生経験を武器に活躍していたりします」

退職率が年に1名程度と低いのは、自然と醸成されている会社愛があるからなのかも知れません。たとえば、実家の近くに花みずき工房の家があって子どもの頃から親しんでいたことをきっかけに入社した社員、パート雇用でもOB顧客が働きたいと申し出てくれて雇用した例もあるとか。

また「運命共同体だと思っている」と竹山さんが語る協力業者の定着率が高いのも、特筆すべき点でしょう。

「甘えじゃなく、協力業者もうちと一緒に高めていってもらいたいので、いつも『ほかで同じようなコストの品質の良いものがあったら替えるからね』と言っています。ただ、『相談はするよ』と。努力して同じものができるなら、もちろんこれまでの信頼関係がある業者さんお願いしますから」

こうして社外に対しても、社内に対しても風通しのいい会社であることが、誠実な家づくりに通じているところもあるのではないでしょうか。

「会社を受け継いでみて思うのは、社長にとってのお客さんは社員だな、ということです。やっぱり、社員を通してエンドユーザーに思いを届ける商売なので、社員はお客様のためを思ってくれればいいのですが、私は社員のためを思って考えていくべきだなとつくづく感じています」

給与のインセンティブは20%程度になるよう設定し、有給も気兼ねなくとれるよう促しているという竹山さん。今年のオリンピックは、長期休暇をとってパリへ観に行った社員もいるとか。

「『何を学べばいいですか?』と聞かれたりすることもあるのですが、勉強ばかりではなく、そういう遊びも仕事に活かせる大きな経験です。有給はとれるときにどんどんとってほしいですね」

居心地がよく、仕事へのモチベーションも上がってしっかり成長できる社風になっているのは、そういった考え方の積み重ねにも理由がありそうです。

【編集後記】

今回印象的だったのは、設計業務やマーケティング業務などを社内で内製化していることでした。これを行うためには、「自分たちの会社が、お客様にどういう暮らしを提供するために家づくりを行っているのか?」というポリシーが明確となり、社員に浸透していないと実践できない部分かと思います。

長い時間を掛けて、そこを醸造してきたことが、お客様の紹介やリピート(ご両親が建てられ、そのお子様がまた自分の家を建築されたケースも出てきたそうです)、そして採用面にも寄与できているのかなと感じます。

「花みずき工房でしかできない家づくり」を実践されている素晴らしい会社様でした。(N-LINK C 野口)