スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

平屋の街をつくる! 連棟から生み出される美しさの価値を形に

須藤建設 株式会社
顧問 須藤 正広さん
千葉県/株式会社 拓匠開発
二代目 代表取締役
工藤 英之さん

千葉県千葉市に本社を構える拓匠開発は、もともと土木からスタートした会社。建築業を主軸にする今でも、そのアプローチは他社と一線を画します。平屋の分譲住宅は、連棟によって街並みをつくり、住まいの価値をさらに高めることにも成功。また千葉市とは、フェスの共同開催で地域の活性化にも取り組んでいます。そんな異彩を放つ不動産ディベロッパーの代表取締役、工藤英之さんと、技術顧問として参画する須藤建設の須藤正広さんに、その原動力を教えてもらいます。

#地域密着型不動産ディベロッパー #平屋分譲 #まちづくり #地域価値共創




平屋分譲地域No.1に!そのきっかけは海外視察

「普通、ハウスメーカーさんだと完成宅地を買うじゃないですか。我々はもともとが土木屋なので、道路の線形を変えられたり、宅地の大きさを変えられたりする。これは強みだなと思ったのがベースになっています」

そう語るのは、拓匠開発の二代目社長を務める工藤英之さん。父である先代は土木から事業をスタートさせ、工藤さんが入社してから分譲住宅事業にとり組み始めたといいます。そこから「平屋分譲地域No.1」に至るまでになった契機は、2012年までさかのぼります。

社員はまだ30人ほどだった2012年、拓匠開発は海外での事業を見越してポートランドなど世界各地へ視察に出ていたそう。そんななか、新聞で大手ハウスメーカーがメルボルンで現地の会社と一緒に分譲事業を始めたというニュースを目にし、人づてでそのハウスメーカーの担当者に話を聞きにいった工藤さん。そこで現地の事業者にも紹介してもらえることになり、話は大きく動き出しました。

「現地へ行ってみたら、平屋の街並みがまるで映画のようにすごく美しかったんです。クルドサックがあって、その真ん中には大きな木があって。きっとリスなんかも走っているんじゃないかというような。隣棟間隔がしっかりあって、連棟ならではの美しさがありました」

その魅力的な街並みを目の当たりにして「こんな街が日本にもあったらいいな」と一念発起。工藤さんはすぐに日本へ電話し、当時設計中だった分譲区画を、予定の倍の広さの区画にして進めようという話をしたそう。

「我々は土木なので、20区画を10区画にして計画することもできます。そうすればインフラも半分になるし、新棟建設も半分になって、コストも半分にできるんです。うちの販売員には『平屋は危険です。ほかにやっている人もいないし、売る自信もない』と言われたので、じゃあ5区画だけやってみようと。それでスモールスタートで始めたんです」

2013年、その5区画の平屋分譲は周辺の相場よりも2割ほど高い商品となりましたが、すぐに完売。翌年のグッドデザイン賞も受賞しました。そこから、「平屋の街をつくる。」をキャッチコピーに、拓匠開発は平屋の分譲事業を進めていくこととなります。


ゆるやかにカーブするクルドサック道路を中心に11棟の分譲住宅が配置された「ソラの街」。こちらも2018年にグッドデザイン賞を受賞(クリックすると別タブで画像を開きます)

「『その土地の利点を生かす』という王道のやり方にもつながりますが、平屋は連棟することによって借景を生かすことができます。平屋って、空が抜けるんですよ。それに普通は北側にウッドデッキをつくらないのですが、あえて景色がいいほうにデッキをつくって、その抜け感を味わおう、みたいな試みもしました。ハウスメーカーさんに1棟対1棟で戦っても絶対に勝てないから、その強みを生かして連棟の美学にいこう!という方向になったんです」

そうしてつけられたキャッチコピーは、「Buy a house, Get a town(家を買うと街がついてくる)」。その街全体をつくり上げることでより価値を上げていこうというのは、やはり土木からの発想もあるのでしょう。工藤さんも、「ただの1棟じゃなく、その街のなかに住む幸せをお客さまに提供できればいいなという思いがありました」とふり返ります。

「正直、最初の反響は悪いんですよ。たとえば千葉市緑区土気(とけ)に街をつくるなんて言っても、そんなに魅力を感じてもらえないんです。でも、来場していただくと成約率が高い。最初は土気に住む予定がなかった人も現場へ来ると、なんか空が抜けてる!これ、なんなの?ってなるんです」


2022年にグッドデザイン賞を受賞した「オオソラモ土気」には、51世帯の平屋がまるで海外のような街並みをつくっている(クリックすると別タブで画像を開きます)



同業会社に顧問として参画!協業から生まれる相乗効果

「平屋のメリットって、空が見えるというのもあるけど、環境にやさしいというのもあると思うんです。2階建ての家だと7メートルの高さのものが延々と建つわけで。平屋はやっぱり低いから、風の抜けとか陽射しの抜けとかがあるのも魅力ですよね」

そう語るのは、北海道に本社を構える須藤建設の須藤正広さん。実は、この拓匠開発には技術顧問として参画しています。土木から分譲住宅事業に事業を展開した拓匠開発が本格的に平屋の建売分譲と街づくりを押し進めていくなかで、なくてはならない存在だったと工藤さんは言います。

「最初にお話ししたとき、すごく熱い人だなと思って。本当に今でも少年のように建築への情熱がある方で。うちにないのは建築の知識と経験だったので、須藤さんと組めたらうちもすごく勉強になるなと思ってお願いしたんです」

須藤さんは、ある勉強会で偶然に拓匠開発の手がけた事業を目にし、「なかなかやるな」と思ったのが最初だったそうですが、今ではいくつものプロジェクトで協業するほか、拓匠開発の人材育成にも関わっています。そこでは須藤さんとしても得るものが大きいのだとか。

「自分自身も成長できるんです。須藤建設でモデルハウスをやるのと違って、拓匠でやるときは大事なよそのお家を預かってつくっている意識があって、明らかに違うんですよ。プレッシャーを持ちながらやるので、学ぶことも多い。そうすると須藤建設でつくっているのとは、また違う家ができてくるんです。その感覚をまた須藤建設にフィードバックしてね。拓匠に来たからこそ須藤建設でできた仕事もあります」

そんな須藤さんと最初にタッグを組み、同じ千葉県内で注文住宅を手がけるスタジオ・チッタとの3社協業でつくりあげた街が、「オオソラモ野田みずき」内の「ソラの街」街区です。


東京ドームの約1.2倍ある広大な土地に194世帯の戸建てが建ち並ぶ「オオソラモ野田みずき」。2017年グッドデザイン賞受賞(クリックすると別タブで画像を開きます)

「僕も建売は初めてだったので、結構ドキドキしながらやりました」という須藤さん。その194区画のうち、11区画を手がけることになりました。「でも、めちゃくちゃ言うんですよ」と工藤さん。

「建売をやったことがないからと、手数料も広告代も出しておくから拓匠で売ってよと言うんですけど。1棟ごとに気合いが入ったものだから値段をつけてくださいよって言ったら、『時価にしろ』って。魚屋じゃないんだから。でも本当に『時価』で売れたんですよね。お客さんが来て、いくら?となって、じゃあこれは一番高いからこの値段で!という感じで……すごい商売です」

単に区画を割り振っていくのではなく、街の骨格となる道路や緑地、クルドサックを配置して、広場や集会所、ビオトープ池なども設けられた「オオソラモ野田みずき」。そこにはコミュニティが自然と育まれていったといいます。

「11軒とかで集まっておそろいのTシャツをつくってハロウィンパーティーとか、いろんなイベントをやったりしているのは、うれしかったですね」と工藤さん。須藤さんも夏祭りに招待されたりしているそう。

「あの頃はちょうどコロナ禍でね。子どもたちがイベントで遊べなかった時期で。11軒建ち並んでいる街区で、1軒1軒が思い思いのものを、こっちはヨーヨーすくいだとか、こっちはわたあめ、こっちはピストル、輪投げをするとかね。それぞれの家の前でお店を広げるのを、子どもたちが紙の金券を持って買ったり遊んだりするんですよ。いいですよね」



街並みをつくることで育まれる新たな価値

こうして大成功を収めた街づくりは最高のモデルケースとなり、その後の展開を促進していく大きな足がかりとなりました。須藤さんによれば、こんなうれしい話も届いているそう。

「いろんな事情があって、転勤とかで売却しなきゃいけない人も出てくるじゃないですか。でも、買った値段よりも高く売れたとよろこんでくれているんです。普通は値段が下がるものですよね。でも、そこには絶対的な街の力があって。少なくてもいいのに2200㎡もの緑地を勝手につくって、集会所をかっこよくつくって、30㎡の池まで作って。管理費を月々何千円か余分に払わなければいけないけど、安心して暮らせるんです」

「だけど、よくもあんなに池や共有スペースをつくったよね」と須藤さん。「そこは土木の判断です」と工藤さんは言います。

「あの土地、すごく安く買えたんですよ。だからと言って、そのまま安く売るのでは面白くない。それはハードビルダーさんの仕事だと思っているので。うちは安く買えたからこそ、その2200㎡、20区画分くらいの用地をバリューに変えたんです。そういう施設をつくることで、みんなが集まる場所になる。だから高く売れたんですよ」

「今までは建売とか分譲ってあんまりいいイメージがなくて、安っぽいイメージを日本の不動産屋はずっとつくり上げてきたんですよね」と須藤さん。

「拓匠開発は、そこにチャレンジしているんですよ。みんながこぞって合理化だけやって、余分なものはつくらないで、生産性だけを注視して、つまらないものをどんどんつくって安く販売して。そのビジネスモデルの考え方がまったく違う。注文住宅でも、1棟ずつだから、そんな街並みなんて絶対できないんですよ。拓匠は土地の造成の仕方がベースとしてあるから、そこから上のものをセットアップしていくと、ほかではやっていない最強のものになる。もっと付加価値がついた、拓匠ならではの街並みというのが、今後もできていくと思いますね」

実は先のコロナ禍では、むしろ販売棟数を伸ばしたという拓匠開発。リモートワークが増え、都心に住む必要性を感じなくなった人にとっては魅力的だったのではないかと工藤さんは分析します。

「うちで手がけるのは駅近物件ではなく、駅からは18分、20分といった物件なので、逆にそのスケールメリットが生かせるんです。空の抜け感もあって、『東京の半額で買えるの?』『え、200㎡!?』って。そういう人たちにハマったんだと思いますね。年間100棟ほどの規模の会社ですから、逆にコロナは追い風になりました」

創業から考えれば、この37年で累計4800区画ほどの戸建て用地の開発実績のある拓匠開発ですが、平屋に主軸を移してからは280棟ほどだとか。しかしその利益率は6%ほど違っているといいます。

「2階建てよりも平屋のほうが6%利益率がいい。それは、競合がいないからです。まわりにいないから、比較されたりすることもなく、ある意味オリジナルで値段設定ができるんですよ。値段がつけられるので、仕入れにも強くなる。それに値下げもほぼしないんです。そういう方が来ても、じゃあほかへどうぞとなるので。結果的に、最大8%くらい利益率が変わってきます」

もちろん、良いことばかりでもありません。土地から街並みを造成していくには、それだけの手間もかかります。

「回転は悪いですよ。他社さんは宅地を買ったらすぐに建てて売れるけど、我々は用地を仕入れて許認可に3~4か月かかって造成工事なんですよ。そこから今度は建築に4か月かかって、売るまでには2~3年かかる。金融機関との調整も、すごく大変で。はじめのうちは、建物の資金は貸してくれないから自己資金で入れていました。それからやっていくうちに2年融資してくれることになり、5年融資期間をとれるようになりました。返すべきときにはちゃんと返して、実績を積んでいった結果です」

他社がしないことをするからこそ、いろいろなリスクをとることにもなります。しかし、やり切った先にはリターンも大きい。それを貫いてきたからこそ、今があるということでしょう。



採用にもつながる!地域活性化の取り組みや事業

「ランチェスター戦略じゃないですけど、やっぱりうちみたいな小さい会社が勝つためには、奇はてらわずとも、Something new, Something differentはやらなきゃいけないんです」という工藤さん。

「平屋って、それ自体は奇をてらっていないんです。今までにもあるものだから。でも、そこには新しさがあります。1棟はあっても、連棟はないから。うちは土木から入っていることもあって、街づくりにも意外と違和感がなかった。他社は文化も違うから、なかなか受け入れがたいんじゃないかと思います」

平屋というひとつの強みを手にした拓匠開発ですが、ほかにもさまざまな取り組みがそのブランド価値を上げているのも特筆すべき点でしょう。それは先代から受け継がれてきたものもあるようです。

「二宮尊徳の言う積小為大(せきしょういだい)、小さいものの積み重ねが大を為すで。うちは本社が今の場所へ引っ越してきたときに、先代の父が地域の住民の方々に馴染みになってもらおうと年末に餅つき大会を始めたんです」

そんな地元での餅つき大会は10年続いたそう。そして現社長の工藤さんの代では、また新しい地域貢献の取り組みが行われています。拓匠開発の本社前には千葉公園がありますが、そのすぐ横にコミュニティスペース「椿森コムナ」をプロデュースしているのもそのひとつです。


住宅街の屋敷林跡につくられた「椿森コムナ」。廃屋や建築現場の残材、既存樹木などを利用してつくられたツリーハウス、カフェスペースもあり、地域の住民たちの憩いの場となっている(クリックすると別タブで画像を開きます)

また千葉公園では、毎年6月に千葉市と共同で「YohaS(夜ハス)」を開催。市の花であるオオガハスをテーマにした夜のアートフェスは、夜間の経済・文化活動の復興(ナイトタイムエコノミー)につながるものだといいます。

「千葉には夜のエンターテイメントがないから、みんな素通りして東京へ行っちゃう。でも夜のエンターテイメントがあれば、夜までそれを楽しんだあとに千葉で食事をしてホテルに泊まるでしょう。そうすれば、千葉の経済が盛り上がるじゃん、という話で。ロンドンでも大阪でもやっている、めちゃくちゃ合理的なナイトタイムエコノミーにつながる取り組みなんですよ」

実はDJをされたりと夜のイベントにも強かった工藤さん、縁あって市と共同でこの「YohaS」をプロデュースすることになり、初回から5日間で約1万8千人もの人が集まる人気イベントとなりました。

「これは、三方良しだなと思って。やるからには本気で。10年絶対に継続させます!と言って、今年で8年目まできました。今では数えきれないくらいの人たちが来てくれています」

こうした地域活性の取り組みは、その地域の価値を上げることにつながり、それがめぐりめぐって自社の事業の利益にもつながる。そして自社のブランディングにもなる好循環を生んでいます。それは、採用にも良い効果をもたらしていました。

「コロナ禍でネットの採用が主流になり、今では全国から応募があります。今の子たちって、やっぱりボランティアとか街づくりとかって、キラーコンテンツなんですよね。世の中のために何ができるのか」

地域を盛り上げるイベント開催を手がけたり、コミュニティの場をつくったりする活動は、平屋の街をつくるプロジェクトとも相まって、学生たちの心をつかんでいるといいます。

「来年も9人入ってきますが、3人以外は全員県外からの採用です。千葉県内のディベロッパー、小さい企業はなかなか採用が難しいと思うんですけど、こういうことをちゃんとやっていれば、びっくりするぐらいの人材が来てくれるようになるんですよね。彼らがうちで一生懸命勉強してくれたら、3年後、5年後、どこかで爆発点がきて、きっとまたうちの会社は跳ねると思うんですよ。そこにはちゃんと“思い”があるから」

実は今、拓匠開発は地域密着の不動産ディベロッパーとして、千葉駅から千葉公園の一帯を魅力的な街に進化させる「ネバーランド構想」を押し進めているところ。「YohaS」の開催やコミュニティスペース「椿森コムナ」のほか、築35年のビジネスホテルを再構築した複合商業施設「the RECORDS」などもプロデュースし、数々の賞を受賞しています。

そして現在進行中のプロジェクトが、訪日客も呼び込むことを狙ったデザインホテルの開業です。このホテルには敢えて大きなレストランを設けずに、周辺の飲食店につなげて地域活性を促すのだとか。


拓匠開発が掲げる「ネバーランド構想」の一環として、千葉公園の目の前に開業予定のデザインホテル「椿森ホテル&レジデンス」イメージ(クリックすると別タブで画像を開きます)

常に挑戦し続け、恐れずに変化していくことをモットーにする拓匠開発。その独自路線は社内外を問わず多くの人を惹きつけ、呼び寄せて、また新たな挑戦の力の源となっているようです。

【編集後記】

拓匠開発の工藤さまは、非常にチャレンジングで熱い社長さまでした。

「なぜ平屋の街づくりをできたのか?」背景として土木事業であったことにより、大規模な宅地開発ができ、自分たちで住みたい街をつくろうとベーカリーや池までつくってしまったそうです。

「the RECORDS」や「YohaS」のイベントも、自分たちが楽しい空間や場所をつくっていこうというところから。言うは易しなのですが、本当に他社が取り組んでいかない事業をどんどん推進していく。そこに社員や関係業者、お客様も集まってくるので、それが街づくりにつながっていく。

進められていく千葉の「ネバーランド構想」、本当に楽しみです。



技術顧問として、須藤建設の須藤さまが技術・商品開発に参画されています。

通常は同業会社のアドバイスは行わないと思いますが、「千葉Good工務店会」で協業した縁から、工藤さまが建築の知識・技術も強化していきたいと須藤さまにアドバイザー業務を依頼。須藤さまも自らの建築における経験や知識を業界に還元していきたいというお考えから、商品開発・技術面の指導を行われているそうです。

須藤さまにとっても、自分の技術・知見をしっかりと伝えていく仕事が、逆に刺激にもなり、自社の商品開発にも活かせているとおっしゃっていました。

今では工藤社長が社員に言いづらいことも、はっきりと伝えていき、社員育成にも貢献されているそうです。

素晴らしい関係性ですね。

(N-LINK C 野口)