スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

「社員大工」を実現!今の時代に求められる新しい働き方とは

相羽建設 株式会社
代表取締役 相羽 健太郎さん

「大工を社員として採用しよう」と相羽建設が新たな方針を固めたのは、相羽健太郎さんが代表取締役社長に就任してからのこと。「先代の父(現・会長)は反対でした。他社にも簡単におすすめできるものではありません」と相羽さん。社員大工はリスクも高く、すぐに真似できるものではないといいます。しかし、実現できた今ではそれが相羽建設の強みにもなっているとか。これからの組織編成を考えるヒントにもなる貴重なお話をうかがいました。

#社員大工 #新しいキャリアプラン #買取り権付き賃貸 #コーポラティブハウス




「社員大工」採用の気になるリスクと大きなメリット

住宅業界の課題として昨今必ず挙がってくる人手不足。そのなかでも特に職人不足は後継者問題も絡んで深刻化していますが、解決策の一つとして「社員大工」の人財育成に取り組む企業もあります。相羽建設が大工の正社員雇用を始めたのは、現在の代表取締役、相羽健太郎さんに代替わりした15年ほど前のことでした。

「先代は、大工の社員化や常用には基本的に反対でした。それは、お互いに甘えが出るから。仕事は継続してしっかりしてもらわないといけないけれど、雇用形態としてはそれぞれが独立してあるべきだ、というのがひとつの持論としてあったんです」

そうした意見もあるなかで社員大工を決めたきっかけは、地元の工業高校の先生からの声でした。

「それまでは、うちが仕事をしている個人大工に学校の卒業生を出してくれていたけれど、それが時代とともに難しくなってきたと。雇用形態として、親方の弟子になる形を学校としては理解している、でも今の学生さんや親御さんからしてみると一般的な就職と大きな違いがあるのだというお話でした」

業界的には通例として当たり前のようにしてきたことが、今の時代の感覚には合わなくなってきているのを、先生の話から改めて考え始めたといいます。

「就業規則がありますか?とか、残業代は?最低賃金は守られていますか?という話になると、当然ながら難しいですよね。やはり、就職するならしっかりした会社組織のところに卒業生は出したいのだと。ただ先生たちには、今後も職人になる生徒を輩出していきたい、増やしていきたいという思いはあって。それで社員大工の形で雇用してもらえないだろうかとご相談いただいたんです」

実はその頃、いつも仕事をしていた個人大工の若手がごっそり大手企業に引き抜かれるということがありました。長いつきあいだったので、ショックも大きかったといいます。

「ずっと一緒に働いてきたので、一生同じ釜の飯を食っていこうという感覚でいた子たちでした。僕の代になったときにはメインになって叩いてくれるだろうと思っていたし、本人たちもそのつもりだったと思うんです。でも、彼らも結婚して家庭ができ、ライフステージが変わってきたなかで仕方ないところもあったのかなと」

福利厚生の問題や、一般企業でいえば人事権みたいなものが親方にあるような働き方は、時代に合わなくなってきているところもある。そう感じた相羽さんは、大工を社員として雇用し、育成することを決めました。

相羽建設の社員大工は、入社して5年ほどは外部パートナーの親方について技術を教えてもらう形をとっています。では会社として何をするのか。それは、「人間性をどう育てるか」だといいます。

「昔の大工の棟梁というのは、やはり技術に人間性が伴っている、その地域のリーダーでもあるような人たちだったんですよね。でも、親方たちと話をしていると、その人間性の部分まで自分たちが担うのはもうしんどい、今の若い世代にどう接していいかわからないと言うので、じゃあそこは会社で担おうということになりました」

社内の会議や社内研修に参加してもらい、試行錯誤してきた10年。最初のうちは半数近くが辞めてしまう時期もありましたが、今では離職率もほぼゼロに。毎年1~2名の社員大工を採用し、現在は12名が在籍しています。

大工を社員として雇うと、それだけ仕事がなければ持て余してしまうリスクもあります。しかし親方と弟子の関係以外に、社員として「先輩後輩」という関係ができるメリットは大きかったと相羽さんはふり返ります。

「社員大工が社員大工を育てるのだというのを実感しています。入社して3年、5年くらい経つと、びっくりするぐらい成長する時期があるんです。自分たちの仕事は社会性、公共性のあるものだという自覚が出てきて、言動が変わってくる。そこには『後輩』がいることにすごく意味があって。彼らの手本にならないといけないし、やっぱり憧れられる先輩でいたい。一番リアルに格好良く見られたい人が下にいるというのは大きいんですよ」


「木と手しごと」が大きなキーワードになっている相羽建設の家づくり。木のぬくもりに満ちた家には、選ぶ素材の良さと大工の手仕事が光る(クリックすると別タブで画像を開きます)



社員は家族!独立後も良い関係のパートナーに

社員大工で積極的に行なっているのは、大学生より高校卒業生の採用だという相羽さん。

「大工は18歳からキャリアを始めて1人前になれば、20代後半から600~700万の年収を得ることも可能です。ピークは1000万ぐらいになるかも知れないし、80歳になっても体さえ元気なら稼げる。少し減ったとしてもそんなに極端には減らないですから、生涯賃金で言ったら22歳から定年退職までの一般職と同じか、むしろ上だったりするんですよね」

相羽建設としては、大工という職業のイメージアップや地位向上も図っていきたい考えです。

「自分のつくったものが形になるって、もっと職業として評価されるべきだと思うんですよ。僕らは口しか動かない人間ですからね、手が動く人間っていうのは根本的に格好いい。そう思われるべき職業なので、彼らが格好良くあるために、皆さんに知ってもらうのも僕らの仕事だと思っているんです」


社員大工の活躍やインタビューなどもホームページに掲載。大工の格好良さを伝えるのも自分の仕事だと相羽さんは語る(クリックすると別タブで画像を開きます)

採用してから大工として一人前になるまでにかかる年月は、約7年だといいます。

「技術としては5年でできるかもしれませんが、18歳から働くと23歳、その若い大工さんに一生に一度の大きな買い物である家を叩いてもらうのは、少し心もとないところがありますよね。社会的な見られ方としても、家庭を持ち始める人も多い25歳との2年の差が大きいんです。なので、いったん7年ということにしています」

ロールモデルとしてイメージしているのは、8年目に独立できるほどに成長する大工。だいたい5年目くらいで、独立するとかかってくる諸経費、社会保険料などの税金や設備投資、いろいろな経費についてなど、具体的な手ほどきをし始めるそう。独立後も、相羽建設の仕事をメインで請け負う個人大工として活躍してもらうことを期待しています。

「まず7年間は社員大工としてしっかりやってもらって、8年目に独立をするのか、社員大工として残るのか選択してもらう形をとっています。7年やって大工が向かないと思ったら、社員としてキャリアチェンジもありです。現場監督をやるのもいいし、設計などへ転向を目指してもいいという風にしています」

社員大工の一期生には、独立した後もときどき「勉強したいので出席していいですか?」と相羽建設の会議に参加する人も。若手の社員大工には兄のような存在として親しまれています。

「“家族”であることは変わりませんから。ちょっと大人になって独立をして、ほかのところに住んでいる子どものような感じですよ」

まさに一人ひとりの“家族”が適材適所、一番活躍できる場を模索しながらの10年でした。現在、全体の工事に対して半分くらいは社員大工で賄っているといいます。住宅では大工が若すぎるとお施主さまに不安視される懸念がありますが、一方で施設などの現場では、若くて仕事が早い彼らは大きな力を発揮してくれるのだとか。

「だんだんと社員大工がいることが僕らの売りになって、世間にも応援していただける要因になっているのを感じます」

大工を社員にして教育することにはそれだけコストも時間もかかりますが、年を重ねるほどにそれが社の財産となり、ブランディングにもつながっています。社員大工制度の導入という思い切った先行投資は、11年目を迎えた今、ようやく形になってきているようです。



社外だけでなく社内の設計士も活躍!分譲企画も続々

相羽建設といえば、先代の時代は建築家の永田昌民さんや伊礼智さんとの協業による分譲住宅やまちづくりも住宅業界で話題となってきました。もちろん今でも伊礼さんとは良い関係を続け、ほかの社外建築家と一緒に取り組む家づくりもしていますが、これからは社内の設計士にももっとスポットを当てていきたいといいます。

「社内建築家みたいなことを確立したいなと。うちは伊礼さんはじめいろいろな外部の方とお仕事をするなかで、実地で経験させてもらってきたところがあります。手前味噌かも知れないですけど、社内の設計もそれなりに成長してきているので、彼らがまるっきり外部の建築家と同じにはならなくても、しっかり評価を得られて社内建築家の道をつくっていくのは、相羽建設のブランディングのひとつだと思っているんです」

社外建築家がこれまで手がけてきたような5000万円前後の高価格帯の住宅、富裕層向けの展開を、現在3名いる社内の計画を打てる設計士で担うことができるようにするのが目下の目標です。

「伊礼さんの設計で建てたいんですという人と同じように、相羽建設のこの設計士で建てたいんですという人が、デザインの優位性みたいなことを含めて出てきてくれるといいですよね。場数で言えば、世間のアトリエ建築家の何倍も仕事をこなしていますから」

住宅の場合は、お施主さまに近い若い年齢の設計士が担当することにも良い点があるのだとか。

「家を建てられる方は30代後半から40歳くらいの方が多いですが、20歳も違ったら、やっぱり見てきているものも感性も、多少なりとも違うと思っていて。先生、アーティストに頼むという意味ではいいと思うんですけどね。僕は51歳ですが、僕の世代の社員が30代のお客さんに接しているのを見て、家はこうあるべきという説教をしているように見えてしまったことがあるんです」

それとは逆に、法人と対するときには年齢が高い方が信頼を得られるという側面も。そこで若手を住宅に、50代前後のベテラン社員は主に施設などの設計を担当するよう配置換えをしたといいます。 

相羽さんの代になり、それまで割合が多かった社外建築家とつくる分譲住宅事業を減らし、注文住宅に舵を切ったところがあるそうですが、今はまたこの社内建築家が活躍する場として新しい形での分譲住宅企画も増えています。

最近では、買取権付きの賃貸物件としても募集をする形の分譲住宅が企画されました。賃貸として入居してもらった方には3年後、5年後に家賃を払った分の割引率でそのまま買い取りができる権利が付いているというものです。

「3年後まで売れ残っている分譲住宅なんて、世の中ザラにありますからね。その間寝かせておくくらいなら、賃貸としてでも家賃収入があったほうが良い。うちでも3年売れなかった物件を賃貸に出したら、1~2週間で決まっちゃったことがあるんですよ。実際、住めば都で、それまで払った家賃がチャラになってしまうというもったいなさもあって、8割がたの方はそのままお買い上げいただくことが多いですね」

売る側にとっては財務状況にある程度の余裕があるからこそできる力技ですが、新築市場が冷え込んでいる昨今、相羽建設としてもこの新たな売り方の手応えを感じています。

そのほか、東京R不動産との協働企画も。新しい視点で不動産業界に革新をもたらしてきた同社と、今回一緒に進めているのはコーポラティブな戸建て分譲プロジェクト。これは東京R不動産側からの持ち込み企画なのだとか。


現在、東京R不動産と協業で進めているコーポラ方式の戸建て分譲プロジェクトのイメージ。緑に囲まれた家々の間にはフェンスがなく、同じ価値観を持った者同士の心地好いご近所づきあいが醸成されていく(クリックすると別タブで画像を開きます)

「東京R不動産の皆さんがうちの分譲住宅を見てくれていて、やっぱり集まって住むことの価値があるよねと。すごく共感してくれた中で、何か一緒にやれないかという話でこの企画が持ち上がりました。東京R不動産としては同じ価値観の人たちを集めて、そこで仲介費ではなくコンサルフィーをいただくようなビジネスモデルを。私たちは私たちで買わなくていいし、売らなくていいし、ある意味つくることに専念できるんです」

「まだまだ創成期です」とのことですが、この新しい分譲の形は、また業界に一石を投じることになりそうです。

「今までと同じ売り方ではもう厳しいよねという問題意識から始めたことです。パワービルダーがつくる分譲住宅とは戦う気もありません。ただ、うちはうちで、昔の『パワービルダーより工務店のほうが安い』という負のイメージとは違う、工務店ならではの強みを活かした分譲をつくって価値を見出していきたいと思っています。注文住宅とパワービルダー分譲住宅の間の選択肢が生まれてくると良いですよね」

 

分譲はやろうと思ってもまとまった土地の仕入れがなかなかできない厳しさも工務店としてはあるといいますが、それでもこうした取り組みの積み重ねにこそ未来があります。



プロの経営者に!社長として考えるこれからの相羽建設

事業規模としては、新築は年間20棟前後で7~8億円、リフォームやリノベーションは年々増えていて、現在は年間6億円ほどの売り上げ。住宅以外の施設でも12~13億円の売り上げとなっているので、トータルで20億円前後。今期は大型案件が入っていて25億円に達するという相羽建設。

「利益率はひどいですけどね(笑)。ロットが大きくなれば利益率は落ちるので、本当は3000~4000万円の住宅をコンスタントに30棟くらいやれているのが一番いいなと思っています。今は4000万円を超える単価になってきたので、棟数は落ちても単価は上がって少しカバーできている状態ですね」

以前は年商15億円のうち分譲を含めた新築の売り上げが9割にのぼるという時代がありましたが、2010年頃からは市場を見てリフォーム事業にも力を注いできました。

「どこの会社さんも『大きなリフォームをやりたい』と言いますが、それは小さな積み重ねがあって初めてできることで、いきなり大きいものにはなりません。よく、二八の法則って言うんですけど、8割が小さい10万円以下の仕事です。でもそれが、2割の大きな仕事をつくって、売り上げにつながるんです」

この10年は、その二八の法則がだんだん実感として分かってきたそう。


相羽建設が手がけるフルリノベーション。参考価格としては3,800万円という高額の実例も。それまでには、小さな仕事を大事にしてきた積み重ねがある(クリックすると別タブで画像を開きます)

また、全社員がメンテナンス情報を共有して、担当者以外で対応可能な案件なら、連絡を受けたスタッフがそのまま対応していくことで仕事の効率化にも取り組んできました。現在はメンテナンスを会員制にしていますが、これまでの新築OB顧客が1200~1500軒ある内、有料会員は400軒ほどまで増えています。

「リフォームは新築が減った分増えていますが、これも今は階段の踊り場に来つつあるなという感じはしています。前は人さえ割けば増えていく感じがあったんですけど、来期は建築確認申請の問題も出てきてちょっと冷えるかも知れないですね」

そう冷静に市場を見据える相羽さん。2025年4月から施行予定の建築確認・検査や審査省略制度の対象範囲見直しに係わる建築基準法の改正など、懸念材料もあるのが実情です。

社員たちがそれぞれの役割を全うし、社外の良き仲間たちが素晴らしい仕事で応えてくれる中で、自分には何ができるのかと自問自答した時期に相羽さんの出した答えは、「プロの経営者になる」ということでした。

「たぶん、工務店業界で『プロの経営をします』って人は、あんまりいないと思うんですよね。まだまだ全然なれていないのですが、これはちょっと借入の負担が大きいなとか、やっぱり従来の分譲というビジネスモデルは厳しいから脱却しなきゃいけないなとか、じゃあリフォームを始めようか、施設をやろうかとか、この15年はいろいろなことを考えてやってきました。それでたまたま多角化をしてきたんですけれど」

分譲は厳しいといっても、ただ辞めればいいかというとそう単純なものではなく、新築とどう組み合わせてローテーションをきれいに回していくかということを模索しているという昨今。少数精鋭の限られた生産力をいかに効率的に回していくか、季節による変動をどう無くしていくかということも含めて、経営者としては手腕の見せどころです。

次回は、相羽建設のもうひとつの強み、「広報」にもスポットを当てます。すべて社内で内製しているという驚きの広報活動、そのノウハウも必見です!

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図の出典元:株式会社アンドパッド ANDPAD ONE
URL:https://one.andpad.jp/magazine/2752/
掲載日:2021年11月19日
コンテンツタイトル:相羽建設|2代目経営者が語る。これまでと、これからの10年
〜vol.3〜次の50年をつくる相羽建設の10年ビジョン

【編集後記】

相羽社長のお話を伺っていて印象的だったのは、事業全体を多面的に捉えながら、ヒトの育成・教育を細部にこだわり進められているところでした。まさに“家族”みたいなものだからと。

社内大工さんのキャリアプランや社内建築家の育成、これは若手を一人前の“プロ”にしていくための仕掛けです。

ではベテランの設計士の方々は?と伺うと、大型の非住宅建築などは彼らにしか任せられないからと適材適所の配置を行われているそうです。

人に活躍してもらう“場“をつくるために、事業の多角化・多層化をやられているのだなと実感いたしました。

N-LINK C 野口

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図の出典元:株式会社アンドパッド ANDPAD ONE
URL:https://one.andpad.jp/magazine/2752/
掲載日:2021年11月19日
コンテンツタイトル:相羽建設|2代目経営者が語る。これまでと、これからの10年
〜vol.3〜次の50年をつくる相羽建設の10年ビジョン