スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

デザインが良い、その先へ! 真のコストバランスを見極める

大阪府/es ARCHITECT株式会社
代表取締役 山本 優一さん

大阪市でもひと際目を引くデザイン住宅で存在感を放つ、es ARCHITECT(エスアーキテクト)株式会社。職人の経験もある代表の山本優一さんは、紆余曲折を経てこの会社を設立し、設計から施工管理まで、さらには不動産と事業を拡大してきました。いわく、「デザインが良ければそのまま高値を付けていいわけではない」。コスト感覚に厳しい大阪という地で独自に見出してきた、その勝ち筋とは。“選ばれる工務店”になるための哲学と戦略に迫ります。

#地域密着型工務店 #ブランディング #コストバランス #紹介受注力




大阪で選ばれるには?まず原価を知ることから

価格競争の厳しさでは言わずとも知れた大阪の住宅市場。この地でes ARCHITECT株式会社を営む山本優一さんは、常にその現実と向き合い続けてきました。

「僕がこの業界に入った頃、大阪でも『デザインがいいものは高くて当たり前』という考えが根付いていました。ただ、それは違うんじゃないかと思っています。『原価が上がったから値上げすると言うなら、誰だって工務店ができるだろう』というのは、僕に商売を教えてくれた人からもよく言われていたので。デザインが良いのは当然で、そのうえでいかに原価を抑えるかが企業努力ですよね」

いくらデザインが良くても、それにただ高値を付けていては本当にお客さまに選ばれる工務店にはなれないという信念のもと、特に創業当初はあえて利益率を低く抑えた価格設定で市場に参入。ある時期には「込み込みで1800万円」という低価格帯の住宅を提供していたといいます。その利益率は10%台に留まりました。まずは会社の認知度を高め、なによりも実績を積み上げていこうという大胆な戦略です。

「やっぱり、どれだけいいものをつくったとしても10年ぐらいは利益度外視でやらないと基盤がつくれないというか。設計費を別途もらい始めたのも、ここ2、3年くらいのことで。それまではずっと込み込みだったんですよ。デザイン性は高いけど、コストもめちゃめちゃ安いよという感じで売っていました。なにせ数をやりたかったし、需要を増やさないことにはこの商売は成り立たないですからね」


その外観から道行く人の目を引くes ARCHITECT株式会社の事務所。内部もまた独自の世界観がある究極のホテルライク空間となっている(クリックすると別タブで画像を開きます)

実際に、そうして価格設定された住宅を選ぶお客さまは、コストバランスに対する考え方がシビアな自営業の方が多かったとか。

「込み込みだと、見積もりの手間も単純に減るんですよね。あとは実例写真を撮らせてもらえればという思いでした。工事に対するご指摘をいただいてしまった時でも、ご指摘に誠実に向き合って、ご納得の上で撮影させていただいていました。とにかく写真を撮って実例を増やしていきたい!というのは、今でも染みついていることです」

そこで目指すコストバランスは、単に安いのではなく、しっかりお施主さまを満足させるデザイン性を実現した上であることが大前提です。そのためには原価を抑えることが必要ですが、それは「覚える」ことからだといいます。

「まずは自分が“覚える”ことが大事です。職人さんの日当を覚える、業者さんの基本的な相場を覚えるってことをしておけば、こういう理屈でこの値段でいけるようになるという話がきちんとできます。そこは発注元と下請けという関係じゃなく、協力業者として人と人でつながって、コストを守ってもらえる業者さんとおつき合いしていく。それで単価を適正化していくんです。それに大阪で商売する以上は、適正価格よりさらに下をくぐるくらいじゃないとなかなか選んでもらえません」

山本さんは、デザイン性とコストバランスという一見相反する要素を高いレベルで両立させることで、価格に厳しい大阪の市場で独自の勝ち筋を見出してきました。その姿勢は、他の地域から見習うべきところも大いにあるのではないでしょうか。



逆境をバネに!デザイン特化型工務店への転換点

今でこそ地域で一目を置かれる工務店を営む山本さんですが、その道のりは決して順風満帆ではなかったようです。

キャリアの始まりは、19歳から始めた水まわり設備などを手がける職人としての仕事でした。設計という仕事への憧れは工業高校時代から抱いていたそうですが、一度は断念した道だったといいます。

「当時は設計って絵を描くだけかと思っていたんです。そうしたら、勉強も必要なのだと知って……数字が本当に苦手で(笑)」

それでも、設計に対する思いは心の底に残っていました。縁あって就いた現場監督の仕事をしながら、22歳のときに一念発起。二級建築士の資格取得に挑戦するため、夜間の学校へ通い始めたのです。猛勉強の末に資格をとり、ようやく夢への第一歩を踏み出しました。

ところが、その直後に起きたのがリーマンショック。当時は設計事務所の募集すら、ほとんどないような状態でした。さらには、現場監督として働いていた会社が倒産――。そんな逆境から、いくつも面接を受けてようやく縁をつないだ設計事務所でのアルバイトが、初めて携わった設計の仕事となりました。

「とうとう設計ができると思っていたら、大手ハウスメーカーの建築確認を下請けでする設計事務所で。思った仕事ではありませんでしたが、そこでは木造住宅のことだったら誰にも負けないというくらい法規関係を勉強しました。某メーカーの建築基準法違反が発覚した有名なリコール問題の時には、大阪支店の耐火リストをまとめていたりしました」

そこで法規関係や木造住宅に関する知識を徹底的に叩き込まれたのは、今にもつながっているようです。転機は訪れました。当時、建築の下請け業を主体とした工務店の株式会社スズホームに縁があり、設計として入社。まだ設計の部署もなかったため、山本さんが設計事務所登録からすべてを担うことになります。そして、わずか2年ほどで独立を促されるまでに成長。2016年に、es ARCHITECT株式会社を立ち上げました。

当初は、スズホームの事務所の一角を月5万円で間借り。不動産会社からの下請け設計をメインに受けていましたが、「月末近いのに、残高が数万円という月も……」なんて話も飛び出すほど、簡単ではなかったようです。

「寝られないし、休んでないし、という状態で。1期目の売り上げが5000~6000万ほどだったので、単価にしたら1つの案件で50万円くらい。それを年に80軒もやっていたんですよ」

そんな激務は3年ほど続きましたが、徐々に増えてきた社員の給料を払うためにも、やはり動かなければなりませんでした。何より、本当にやりたい設計、こだわりのデザインを施工まで一貫して行える形にするためには、何をするべきか――。考えた末に、建設業の許可を取得、元請けとして工事を請け負う道を歩み始めました。



集客が大きく変わったターニングポイント

事業拡大への覚悟は、事務所の移転をきっかけにより明確になります。それは、スズホームが建てたモデルハウスをes ARCHITECT株式会社の事務所兼モデルハウスとして活用するというものでした。それに伴い、月5万円だった家賃は一気に45万円へ。

「ほぼ10倍の家賃です(笑)。これ、いけるのかな?という不安も。でも、なんとかなるだろうとやっていって。ちょうど4期目か5期目くらいの頃でした」

しかし、事務所を移転したのは2019年12月のこと。ほどなくしてコロナ禍となり、モデルハウスになかなかお客さまを呼べないという事態に直面することになったのです。

「最初は日曜も、本当に誰も来ないなみたいな状態だったんですけど。だんだんと、それなりに来るようになりました。当時からインスタも始めていましたが、ほとんどが媒体での集客でしたね。実例があまりなかったので、何回も同じものばかり載せたりして」

そしてターニングポイントとなるお客さまとの出会いが。もともとは、お知り合いの紹介からでした。

「当時はまだ注文住宅の単価も正式に設定していなかったのですが、下請け価格に近い金額でやるので、ぜひうちで受けさせてください!とお願いしました。とてもこだわりのあるお宅で、僕も自分がその当時やりたかったデザインをかなり盛り込めたんです。箱型をずらしたようなデザインで、写真にもとても映えるものでした。これはちょっといけるな、という感触があったのを覚えています」

2020年と2021年には、ともに建坪60坪クラスの大きな案件を手がけます。こだわり抜いた2軒の竣工写真は、その後多くの人の目にとまることになります。

「2軒とも目立つ場所にあったので、『あの家かっこいいな』と思って調べたらうちだったとか、そういうつながりで来てくれたお客さまも結構いて。いろいろなところにばらまいていた種が、ちょっとずつつながってきた感じがありました」

実際に、2軒はその後の事業拡大につながる起爆剤になったようです。


紹介で手がけることになったこだわりの大型物件から、さらなる集客へとつながったのは、会社が軌道にのる大きなターニングポイントとなった(クリックすると別タブで画像を開きます)

「やっぱり、これくらい大きいのは楽しいなと思いましたし、自信もつきました。そこから、6000~7000万円かけるような依頼も少し増えたんですよ。その実例を広報活動に活かしたことで、ぐぐぐっと売り上げも伸びていきました」

同じ頃、それまでずっと依存していたという大手の集客媒体への広告出稿を完全に辞めることになります。

「年間1000万円くらいその媒体に使っていたのですが、いろいろあって2021年に全部やめました。キャッチコピーなども変えて、自社のブランディングを再構築していった形ですね。インスタ広告やLP(ランディングページ)広告を活用しています」

インスタ広告やLP広告への移行によって、より自社の世界観が発信できるようになり、そこから2~3年ほどの間に約30棟ほどの実績も。写真が、届けたいターゲット層の目に触れる機会も増え、口コミや紹介によるお客さまが増えていく相乗効果が生まれました。

「年間150組ほど来場するうち、その1/4か1/3ほどが紹介です。建てたお客さまが紹介してくれるというのが増えてきたのもうれしいし、僕の直接担当していない家だったりすると、さらにうれしいですね」

自社で育ったメンバーが担当した家が好評を博しているのが、また喜ばしいと語る山本さん。全体の半分くらいまで紹介のパーセンテージが増えるのが理想だと語ります。



リフォーム事業には徐々に参入予定。共存共栄の未来とは

会社が大きくなるほどに、難しくなってくるのが社員教育です。「仕事を教えて伸びてもらうというより、やっぱり人間力ですよね」という山本さん。実務を通じてのOJTとともに、挨拶をはじめとした姿勢を重視されているのも印象的でした。

「挨拶をちゃんとするとか、元気よく、お客さまにどう対応するかということを、まず大事にしています。そのうえで、『この人と建てて良かった』と思ってもらえるような家にしたいですよね」

一方で、設計やデザインの部分に関しては、自然と採用の段階から社の方向性に共感するメンバーが集まっていて、苦労はあまりないそう。山本さんも現在は実務を任せることが増え、もちろん気になれば指摘出しはするものの、基本はそれぞれの社員が好きなようにやってもらうといいます。

「よっぽど会社の意に反しない限り、むしろ『こんなことがやりたい』『こんな事例ができました』って新しいものができて、『すごいやん!』となったほうが、会社の伸びしろになると思っています。設計の部分に関しては、たぶんうちは経営者と社員という立ち位置ではないんですよね。一緒の目線で、設計が好きな人間同士が話しているという感じです」

家づくりには正解がないからこそ、そうして風通しよく、社員がのびのび仕事できる環境を整えていくことが、よりよいものを手がけていく力になっていくのでしょう。

「上司が帰らないから帰れないとか、休みにくいとか、上司の顔色をうかがわないといけないとか、そういう会社が一番問題だと僕は思っているので。こうしてみんなが意見を言えるような雰囲気をつくっていくことで、みんなうちで続けてくれるんじゃないかなと思っています」

そのためには、まず自分からだという山本さん。

「まずは僕の頭が固くならないように。年を重ねて固定概念というのも少しずつ出てきていると思うので、できる限りスポンジみたいに吸収できるようにしないと。それを常に意識して、自分のなかで心がけています」

現在、売り上げの8割は新築で、平均単価は3000~4000万円ほど。昨年は約40棟を手がけました。また不動産事業にも参入しています。そこには、街づくりがしたいという思いがあるそう。


他とは一線を画するデザイン性の高い邸宅も、平均単価3000~4000万円ほどで手がけるコストバランスの良さは、es ARCHITECTの大きな魅力となっている(クリックすると別タブで画像を開きます)

「リフォームは、事業としてはやりたいと思うんですけど、やっぱり新築のほうが好きなんですよね。リフォームだと、外観がつくれないでしょう。やっぱり、おしゃれな外観の家が建ち並んでいるような、街並みをつくりたいっていうのがあって」

一度くらいは手がけたことがあるものの、リフォーム事業には今後もあえて積極的に参入しないという山本さん。昨今は各社参入していますが、そこも独自路線です。やりたいことがブレないそうした姿勢もまた、ブランディングにつながっているようです。

「SE工法にも加盟したので、非住宅のものも手掛けたいですね。日本全国での仕事も、いずれはしていきたいなと思っています。今ちょうどひとつ手がけていますが、東京へ行くとRC住宅も多いですよね。大阪にはない景色です。すぐにはできませんが、いずれ人生で一回くらいはRCの家も設計してみたいですね」

リフォーム以外のところでは、まだまだやりたいことが尽きない様子。同業他社とは潰しあうのではなく、手をとりあって共存していける業界になっていけばという思いもあります。

「大阪へ新規参入してくるような会社も、うちにアドバイスを聞きに来てもらえるような、そんな影響力のある会社になりたいですね。まだまだ、力をつけないと」

【編集後記】

このインタビューを通じて、山本社長さまのお人柄の魅力を強く感じました。リーマンショックや会社の倒産、月末に残高がほとんどないという厳しい状況を振り返る際も、決して悲壮感を漂わせることなく、むしろ「なんとかなるだろう」という前向きさで語る姿が印象的でした。

特に感銘を受けたのは、「デザインが良ければ高値を付けていいわけではない」という哲学です。創業当初は薄利での市場参入、「込み込み1800万円」という価格設定で実績を積み重ねた戦略は、単なるビジネスではない強い信念を感じます。

職人出身だからこそ分かる原価感覚、協力業者との人間関係を大切にしたコスト管理などこれらすべてが、デザイン性の高い住宅を適正価格で提供するという、一見矛盾する命題を解決する鍵となっているのでしょう。

そして何より心を打たれたのは、社員に対する愛情深いまなざしです。「この人と建てて良かった」と思ってもらえる家づくりのために人間力を重視し、「経営者と社員という立ち位置ではなく、設計が好きな人間同士」として接する姿勢。「みんなが意見を言えるような雰囲気をつくることで、みんなうちで続けてくれる」という言葉からは、若い世代への深い愛情と、彼らの成長を心から願う気持ちが伝わってきます。

山本社長さまが目指す「おしゃれな外観の家が建ち並ぶ街並み」は、単なるビジネス目標ではなく、より良い住環境をつくりたいという純粋な想いの表れなのでしょう。そうした理想を、確かな技術と人を大切にする心で実現していく—es ARCHITECTの今後の展開が、ますます楽しみになるインタビューでした。

(N-LINKC  野口)