スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖
“住宅版テスラ”を目指して。3Dプリンター住宅という選択。
代表取締役社長 瀬口 力 さん
今、住宅業界の常識を変える挑戦が始まっています。熊本に拠点を置く株式会社Lib Work(リブワーク)では、建材として馴染みのある土を原料に、業界が抱えるさまざまな課題に応える「3Dプリンター住宅」を実現させました。すでに耐震性能では国土交通省の認定を取得し、年内には省エネ基準の認定も見込んでいます。「将来的には、アップデートし続ける家をつくりたい」と語る代表取締役社長の瀬口力さんに、その展望をうかがいました。
#3Dプリンター住宅 #業界イノベーション #テクノロジー活用 #次世代の家づくり
次世代に向けて、「アップデートする家」の実現へ!
「住宅業界は、ほかの業界と違ってイノベーションと呼ばれるものがあまり起こせていないんじゃないかという思いがありました」
そう率直な思いを語るのは、株式会社Lib Work代表取締役社長の瀬口力さん。これまでも既存の常識にとらわれないインターネットやVRを活用した戸建て・住宅・不動産販売で新しいビジネスモデルを成功させ、2019年には東証グロースへの上場も果たしています。そんな企業が今、業界に新風を巻き起こすべく取り組んでいるのが「3Dプリンター住宅」です。
「中国だったと思いますが、最初はテレビの報道で3Dプリンター住宅がつくられている様子を見たのがきっかけでした」
これまでに見たことのない、テクノロジーを駆使した次世代の家づくり。瀬口さんは、そこに未来の住宅業界を見ました。そのインパクトは、あの自動車業界に革命を起こしたテスラにも通じるものがあったと振り返ります。
「テスラに乗せてもらったとき、『ああ、これは車じゃなくてiPhoneが公道を走っているんだな!』と衝撃を受けました。なんで僕らはこういうものがつくれないんだろうって、そのときにすごく実感したんです」
テスラは、ソフトウェアのアップデートで車の性能が進化していきます。それと同じようなことが、住宅でもできるんじゃないか――。瀬口さんはそこまでの未来も見据えています。
「今の最新技術で3Dプリンター住宅をつくっても、結局は10年後20年後に古くなってくるので。そこでまたアップグレードできるようなものも、やはりつくっていく必要があるんじゃないかと考えています。将来的には、家もテスラのように常にアップデートして、進化できるようなものにしたい。まさに“住宅版テスラ”です」
ただ、「3Dプリンター住宅」というと、そのインパクトの強さに言葉だけがひとり歩きしてしまうところがあるようです。
「誤解してほしくないのは、これはたまたま使っている技術が3Dプリンターというだけで、3Dプリンターありきじゃないんですよね。よく『3Dプリンターなら安く家がつくれるんですか?』と言われたりするのですが、そういうことじゃなく。これからの住宅業界の未来を考えたときに出た答えが、たまたまこの家だったんです」

他業界や海外企業からも注目されるイノベーション
瀬口さんが重要視するのは3Dプリンターの技術そのものではなく、それをどんな意図で用いるのかということ。同じ設計の住宅を短期間で安く量産するためにプリンターを使おうという発想とは、180度違っています。
それはその使い方にも表れています。Lib Workでは、工場で家のパーツをつくるために3Dプリンターを使うプレキャスト工法ではなく、家を建てる現地でプリンターを組み立て、そこで壁を造形していくオンサイト工法を採用。この工法によって3Dプリンターの利点を最大限に活かし、その土地の特性に合わせた自由な設計をすることを可能にしているのです。

「こういったイノベーションに関心を寄せている方というのは本当にいっぱいいらっしゃって、僕らも非常に手ごたえを感じているところです。住宅業界の問題、社会のいろいろな課題解決にもつながるんじゃないかと考えています」
沖縄県宮古島市の市長なども、そんなLib Workの3Dプリンター住宅に魅せられた一人です。ある夏の暑い日に、エアコンを入れていないモデルハウスに突然来られたそうで、「意外と涼しいですね!」と驚いていたとか。
その来訪を機に、今では宮古島でのプロジェクトも進行しています。現地では外部からの開発が進んで建材も人件費も高騰し、人手もそちらに取られてしまって島民が家を建てられない事態が発生しているのだそう。
「大工などの人手不足は住宅業界全体の課題でもあります。その問題解決策として、この3Dプリンターかロボットだと思っているんです。ロボットのほうも、今はすごく可能性が出てきていますからね」
昨今では海外からも注目され、イギリスやオーストラリア、ポルトガル、アメリカ、ドバイなどからもオファーがある状況だというLib Work。日本でも、スタイルエディトリアルブランド「niko and ...」とのコラボレーションでは住宅商品を開発、テイジンとの共同開発では木材にカーボンをあわせた新素材によって3mの軒を実現しています。宇宙航空研究開発機構JAXAや宇宙ベンチャー企業のispaceなどとも、土を扱う技術の応用で協議や意見交換をしているところ。可能性は、あらゆる方向に広がっています。
馴染みのある「土」を使った自由度の高い家づくり
「地球環境にやさしいサステナブルな住宅をつくりたいという思いもありました。この3Dプリンター住宅は、家の材料としても馴染みのある土を原料にしていますが、そこもこだわりです。実際に、コンクリートの住宅に比べるとCO2排出量も半分程度で済み、木造住宅と比べても少し抑えることができました」
使用しているのは、兵庫県淡路島の「淡路土」。瓦にも使用される高品質な土です。現在は許認可の関係でこの土に限定していますが、将来的には運搬費などのコストも考慮し、その建築地にゆかりのある土などを一つひとつ吟味しながら採用していきたい考えだといいます。
「土は日本古来の風土にもあった素材です。もともと土壁というものはありますから、その中で暮らすのは居心地がいいという感覚がありますよね。日本人のDNAに組み込まれているものも、やっぱりあるんじゃないかなと思います。住宅としてはそういうことも重要なので、大変ですが一生懸命に取り組んでいるところです」
土は強度を高めるために水や温度のコントロールが非常に難しい素材ですが、技術的にはそうした課題もクリア。以前は5~10%のセメントも入れて試行錯誤していたそうですが、現在ではセメントを用いずに自然由来の材料を主成分に使用し、強度も5倍ほど上がっているといいます。
耐震性の面では3Dプリンターでつくるこの壁を自立壁とみなし、震度7の地震でも倒壊しないことを耐震シミュレーション済み。国土交通省との協議を行い、確認申請も決裁しています。省エネ基準についても断熱性能試験を実施し、近々取得できる見込みとなっています。
「まだ現在は平屋のモデルのみで、2階建てはこれからです。これがなかなか難しくて。プリンター自体も現在は3.5メートルほどのものですが、2階建ての高さに対応するには10メートル級のものが必要になってきます」
現在設定されている3Dプリンター住宅の価格は6000万円台と高価格帯。ただ、太陽光発電や蓄電器など、付随するすべての工事も含めての提示です。
「僕らは、3Dプリンター住宅だからといって躯体だけの金額ではなく、住まいとしての最終価格を提示すべきだという考えでやってきました。高価格帯とはいえ、大手ハウスメーカー並みじゃないかなという感覚です。まずはテスラ戦略じゃないですけど、富裕層向けにスタートさせました」
今後は順次、コストを下げたモデルも展開していく考え。年内には、85平米ほどで2000万円台の3Dプリンター住宅も打ち出す予定です。

競合ではなく、協業を!第三勢力になる仲間探しの旅
これまでの常識を覆す挑戦を進めている瀬口さんですが、これからは大手ハウスメーカーやパワービルダーとは一線を画する「第三勢力」として、地域の工務店の結束も強めていくべきなのではないかといいます。
「いわゆる地場に根ざした工務店さんは、本当にそこに何十年もおられて、誰よりも気候風土や文化を知っているわけですからね」
Lib Workでは、そうした地元に根ざす工務店をテクノロジーの力で応援する仕組みづくりにも挑戦しています。たとえば、AIを活用した住宅設計支援サービス「マイホームロボ」。これは、多くの工務店が抱える設計リソースの不足を解消するために開発されました。
「この『マイホームロボ』では、すでに住宅設計を1万プランほどデータベース化しています。人材不足が問題視される昨今、圧倒的に設計の数が足りない工務店をサポートするための仕組みです。これを使えば、大手メーカーにも負けないプレゼンができるようになります」

さらに、現在はカナダのAI企業とも連携。より高度な自動設計システムを共同開発しているところです。
「『こんなものにしたい』という要望をテキストで入力すると、自動で設計や内観を変更してくれるシステムです。これが完成すれば、本当に設計士がいらない時代も来るかも知れません」
こうしたAI設計支援の技術は、3Dプリンター住宅の事業展開にも密接に関わっています。Lib Workではこの事業の全国展開、フランチャイズ化も視野に入れているのです。
「フランチャイズで一番の肝となるのは、3Dプリンターをつくるためのデータの作成です。そこはなかなか難しいところなので、フランチャイズ加盟店さんには営業と施工に専念していただき、設計データは本社で一括作成、提供する体制で考えています」
3Dプリンター本体は販売、またはリース形式で操作指導もしながらの提供。価格としては約4000万円ほどだといいます。1年後に加盟店募集を開始し、2年後には本格的にスタートさせる予定。AIを活用していくためには、設計データの取り込み方の整備も不可欠です。
「AIにも、画像認識などすごく弱い分野があります。家の設計を認識させるには、そうしたすべてのデータをデジタル化してAIが読み込みやすいように整えていくことが大切です。より確実にするには、部材ごとに番号管理するような標準化も行っていくことになるでしょう」
まだまだ技術のブラッシュアップは続いていますが、試作を重ねてようやくここまで実現させた新しい技術は、業界が抱える課題に一石を投じることになりそうです。瀬口さんが思い描くのは、こうした最先端技術を駆使しながらも、人が心で感じる暮らしのゆたかさを支えるツール。そこには、志をともにする同志の力も必要です。
「競合するより、もっと協業していくべきです」と語る瀬口さん。Lib Workでは、この第三勢力の担い手として、新たな住宅市場をともに創造していく仲間を募っています。
【編集後記】
瀬口社長への取材を通じて最も印象的だったのは、3Dプリンター住宅という革新的技術の導入が、単なる技術革新のためではなく、住宅業界全体の課題解決と地域工務店の未来を見据えた戦略の一環であったことです。
特に印象的だったのは、大手ハウスメーカーとの競合ではなく「協業」を選び、地域に根ざした工務店と共に「第三勢力」を形成しようという姿勢です。niko and ...やAfternoon Teaといった異業種ブランドとのコラボレーション、AI設計支援システム「マイホームロボ」の開発など、従来の枠組みを超えた挑戦の数々は、まさに「競合から協業へ」という理念の実践そのものでした。
地方から世界へ、熊本という地方都市から、イギリス、オーストラリア、ドバイへとその技術が注目される様子は、日本の地方工務店が持つポテンシャルの高さを改めて実感させてくれます。瀬口社長が描く、テクノロジーと伝統、グローバルとローカル、そして競争と共創が融合した住宅業界の未来図は、単なる夢物語ではなく、着実に実現へと向かっている手応えを感じるものでした。
「仲間探しの旅」と表現された第三勢力づくりへの挑戦は、これからの日本の住宅業界に新たな可能性を示す、希望に満ちた取り組みだと確信しています。
(N-LINKC 野口)

