スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖
2026年を転換点に!住宅業界に“デザイン”を取り入れる決断。
代表取締役 金子 保夫さん
住宅業界を取り巻く環境が年々厳しくなっている今、そこで選ばれる会社であり続けるためにはどうすればいいのか。住宅業界にも、「つくる力」だけでなく、考えて選択する力や伝える力が求められる時代になっています。千葉県を中心に展開するオカムラホームでは、2026年を一つのターニングポイントと位置づけ、経営の軸に“デザイン”を据える宣言をしました。なぜ今、デザイン経営なのか。代表取締役の金子保夫さんにお話をうかがいます。
#デザイン経営 #顧客視点 #ウェルビーイング #SDGsの実践
今、住宅業界にも必要な「デザイン経営」とは
1995年に創業し、昨年30周年を迎え「デザイン経営宣言」をしたオカムラホーム。同時に、そこに付随するものとして「ウェルビーイング宣言」「SDGs宣言」も打ち出しています。2026年を会社としてのターニングポイントにしたいと語るのは、代表取締役の金子保夫さん。
「デザイン経営というのは、見た目を飾ることではなく、人の思いや体験を中心に、経営や組織、文化を再構築することです。これまでに経験したことがないほど先の見えない今、この業界でも効率や機能だけでは人の心を動かせなくなりました。これからの企業に求められるのは、経営のOSを入れ替えて人間らしさを取り戻す経営だと考えています」
数字や効率を最優先にしていた従来のOSから、人の思いや体験、関係性を起点に考えるOSへ。人口が減少し、価値観も多様化している昨今、住宅業界で生き抜くためには自社の存在意義を磨き続けることだと考え抜いた先の答えが、この「デザイン経営」でした。そのポイントとなるのは、3つの柱です。
まずは、「社員の幸せ」をデザインすること。社員一人ひとりが誇りをもって働ける環境を、そしてそれぞれが自分で考えて動き、成長できる場をつくっていくことです。その第一歩として、全社員がオカムラホームのブランドを語れる体現者となることを目指していきます。
そして、2つめの柱は「顧客の幸せ」をデザインすること。その方針を象徴するのが、オカムラホームが掲げるキャッチコピー「HOUSEではなく、HOMEをつくる。」です。家という箱をただつくるのではなく、建築や不動産を通してご家族の暮らしや幸せをデザインしていくことこそが、自分たちの存在意義であると金子さんは語ります。
3つめの柱は、「地域の幸せ」をデザインすることです。具体的には、建築・不動産の力で地域のウェルビーイングを高める取り組みを行っていくこと。地域の方々や企業、学校、行政と協働して未来につながるプロジェクトを推進していくことも、大事なデザイン経営の柱のひとつに据えています。
■オカムラホームのデザイン経営による価値創造
- ・顧客に対して:機能だけではなく「心地」と「物語」のある体験を提供する。
- ・社員に対して:仕事の意味と誇りを感じられる環境をつくる。
- ・地域に対して:つながりと共感を生むプロジェクトを展開し、地域のウェルビーイング(幸福度)を高める。
- ・社会に対して:持続可能で美しい暮らしの文化を未来へ残す。
「デザイン経営とは、経営の美学であり、人間の哲学です」と金子さん。ものではなく人にフォーカスした経営を貫き、一つひとつのご縁をつないでいくことが、会社の成長にも自ずとつながっていくという考えです。
2026年の年頭の挨拶では、こんな言葉が社員に向けて投げかけられました。
「オカムラホームは確実に一段、ステージが上がり始めています。2026年も、この業界の環境は簡単にはなりません。むしろ、競争はさらに激しくなるでしょう。価格だけで選ばれようとすれば、ますます厳しくなります。だからこそ、これからは『どこで建てるか』ではなく『誰に頼むか』。『安いか』ではなく『信頼できるか』。そういう時代になります。つまり、私たちは“選ばれる会社”にならなければならない、ということです」
2026年は、これまで蒔いてきたたくさんの種を花開かせるため、実行して結果を生み出すときであると金子さんは位置づけています。
「デザイン経営の主なポイントは、デザイン思考の導入、ブランド価値の向上、イノベーションの促進、組織文化の変革です。デザイン思考の導入についてはもう5年前から実践しているので、社員もこの考え方はできるようになってきています。次は、組織文化の変革というところを一生懸命にやる段階です。そうしてみんなが同じベクトルを向いていれば、ブランド価値の向上やイノベーションの促進もできると考えています」
注文住宅事業では、デザインや性能が良いのは当たり前。そのうえで、そこに暮らすお施主様のライフスタイルや人生のストーリーをどんなふうに描いていくかが勝負だという考えです。
保証としては、お客様により安心を届けるために独自の60年間保証制度を導入しました。また、いろいろなケースがあることを鑑みて、お引渡し後、対象の物件については、買い取り保証制度も設けております。実際には不動産部門も備え、トータルでサポートできる体制にあるため、それ以上に高く販売できるように尽力していく構えです。
「お引き渡しがゴールじゃなく、そこからがスタートです。その家で紡がれる物語の中に、我々も絶対に入っていくような形で。そこからまた、ご紹介をいただいたり、将来の顧客にもつながっていくことになりますから」
目先の数字より大切にする「顧客視点」という判断軸
工務店の経営をしていれば、当然ながら売り上げや棟数、利益といった数字も意識しなければならないときがあります。しかしそこにも、オカムラホームはメスを入れました。
「私自身、数字だけを追っていた頃は、仕事が楽しくなかったんですよね」と、かつて大手不動産会社に勤めていた頃をふり返る金子さん。当時は、表向きでは「お客さまのため」と言いながら、実際には会社の数字を優先させる在り方に、強い疑問を抱いていたといいます。
「たとえば、3月までに数字をつくっていい決算を迎えるために、本当は5月引き渡しのものを3月にしようとしたりね。そういうことが本当に嫌だったんですよ。だから自分は、お客さまに寄り添って、お客さまにとって100%価値のあるサービスを行うことを目的とした会社をつくろうと思ったんです」
そのきっかけになったのは、一人のお客さまとの出会いだったそうです。
「そのお客さまの幸せを叶えられたことで、『ありがとう』と感謝をされて。なんというか、これをやることこそが、私の仕事の意味だなと思ったんです。その方はもう亡くなってしまったんですけれど」
目の前のお客さまを幸せにすること。そこにきちんと向き合うことが、金子さんにとっては起業時の原点に立ち返ることであり、ブレない経営を貫く原動力になっています。
「我々は顧客ファーストですと言う会社って、無数にあると思うのですが。ここまでちゃんと言って社内に浸透させている会社って、意外と少ないと思うんですよ。そこを経営者が恥じらいもなく熱く語るということが、大事なんじゃないかなと思ってやっています」
「当たり前のように住宅が売れているときは別に良いんですよ」と金子さん。当たり前のように売れなくなっている今こそ、変革の時だといいます。
「分譲住宅だって、我々はパワービルダーのようにポコポコ建てる必要はないんです。10人いたら、2人が気に入ればいい。パワービルダーだったら、10人中8人が住めるレベルのものをつくると思うのですが、我々は2人だけが、『もう絶対にこれが買いたい』というような物件をつくる。それをデザインして、物語をつくっていくことで、ご成約につながるわけです」
オカムラホームの分譲住宅を一度見に来られたお客さまは、そこで無理に引き止めなくても、近隣の物件を見に行った後にまた帰ってくることが多いそう。
むしろ、「どうぞ他も見てきてください」と言える余裕が営業社員にあること、そしてそれだけ質の高い住宅をご提案できていることで、疲弊する価格競争にも巻き込まれず、お客さまを納得させる結果を呼んでいます。
「正直なところ、開業時の思いを忘れ、いつの間にか数字をつくることに追われていたところがありました。こうしてOSを変えたことで、これからは『お客さまの幸せを追うことで、数字がついてくる会社』に変換していこうというふうに思っています。経営者は社員のほうを向いてその幸せを考え、社員は上司ではなくお客さまの幸せだけを考える、そういう構図が理想です」

顧客も社員も幸せにする「ウェルビーイング」の視点
「今まで弊社は3年後、5年後の中長期計画を立ててきましたが、数字でしかつくっていなかったんですね。でも、実際は目の前の数字にばかり一生懸命で、ただ追われる仕事になっていた。ある程度黒字を達成したら、ああやっと終わった、また次か、という感じで。そういう楽しくない未来を考えるのではなく、まずは自分たちがどうなっていたいのかを考えよう、と。そのうえで、それを達成することによってどのぐらいの数字が生まれてくるのかを考える方向に変えたんです」
このデザイン経営の考え方は理念にとどまらず、評価制度にも反映されました。社員も売り上げや棟数ではなく、「どれだけお客さまに寄り添えているか」が問われるといいます。
「数字を追わないと、部下への指導の仕方も変わってきます。うちでは家を売れ売れ言うのではなく、『お客さまの親身に寄り添っていないから決まらないんだ』ということになる。こちらにちゃんとヒアリング能力がなければ、お客さまに幸せを届けることもできないんだということですね」
こうした大きな変革に、中には考えが合わずに去る社員もいました。一方で、その理念に共感し直した元社員が、また戻ってくるという現象も起きています。
「過去に退職した元社員とつながっている社員も多いので、そこから伝わったのではないかと思います。ここ数カ月で5名ほど戻ってきたいという話がありました。もちろん、そこは受け入れるかどうかを各々判断しますが」
お客さまの幸せを考えるためには、まず社員が幸せでなければならないというのが金子さん流のデザイン経営。社員が誇りをもって仕事にあたってもらえるように、オカムラホームでは改めて、一人ひとりにそれを自分ごと化してもらう場を設けているといいます。
たとえば、3カ月に一度、各部署で丸一日かけて行うワークショップ。そこでは、経営陣が何か数字の目標を与えるのではなく、それぞれの社員が「5年後にどういう姿でありたいか」といったビジョンを描きます。そこから逆算していって、今やるべきことを決めていく手法です。
「社員がオカムラホームというブランドの体現者となって、そこに仕事としての意義や意味を見つけ、働くことに楽しさを覚えることで、今、いろんなことにもチャレンジできる形になってきているのを感じます。そうして自分ごと化してくれた社員たちが100%の幸せを感じながら、そのお施主さまに即したデザインだとか構造、性能のご提案をすることで、100%の幸せをお届けすることができる。そういう組織になっていくことを目指しています」
そんな数字を追わない経営、お客さまのニーズにとことん応えていこうという方針は、少しずつ良い効果をもたらしているようです。
「リフォームやリノベーションも、最初は受けてなかったんです。でも、お客さまから頼まれるので、そこに責任を持たないのは自分たちの理念じゃないなということで始めました。確かに手間がかかる分、あまり収益性は良くないのですが、やったほうがお客さまのためにはなると。当初は5000万円ほどの売り上げだったのですが、今では13億円ほどまで成長しています。OBのお施主さまも、ご紹介のお客さまもいらっしゃいますよ」
最近は古民家再生のリノベーションも手がけていますが、これもご要望に応えて始めたこと。社員も含めた自社大工や提携大工がいるオカムラホームは、古民家再生にも携われる技術を持ったベテランの大工がいるのも強みです。
「古民家再生を始めたのは、私が不動産コンサルティングをするなかで、ある地主さんのところへ訪問させていただいたのがきっかけです。ご夫婦で伝統的な農家の住宅に住まわれていて、すごく寒かったんですよ。最初は注文住宅の建て替えをご提案したのですが、お父さまの建てられた大事な家を壊したくはないということで」
その広いお宅をすべてリノベーションするのはなかなか現実的ではなかったため、改めてヒアリングの上、普段使っているリビングなどを中心に、和室を洋室にして断熱施工をすることに。結果的に、それをとても喜んでいただけたそうです。オカムラホームではそうした地主の方々をご招待して旅行なども毎年企画しているそうですが、その地主さんは今でも参加されて、いいご縁が続いているといいます。
「地主さんって、何を一番恐れているかといえば、そのお金を目当てにいろんな人が寄ってきて、だまされることなんですよね。だまされないように、いつも追っ払っているわけですが、そういうことをするのってすごく重労働なんです。だから、オカムラホームはだまさないとわかっていただくと、もう絶対にこのご縁はなくならないんですよね。月の数字に追われていたら、こういうご縁はなかなかつくれないのではないかと思います」
実はその最初の古民家再生リノベーションでは、事前に見積もった以上にだいぶ手間がかかり、300万円ほど赤字が出てしまったとか。しかし、そこはお客さまのためを思ってしたことなので良しとした金子さん。それ以上に勉強になったことも多く、その後の事業展開につながっていったそうです。
古民家再生事業は現在、年間5~8棟規模で行っています。事業としては、決して利益率が良いわけではありません。それでも、そこでお客さまに深い信頼と感動を生み、ご紹介や次の世代の住宅受注へとつながっていくというのが金子さんの考え方。これもまた、オカムラホームにとって重要な関係づくりのための事業だと位置づけられています。

SDGsをただ掲げるのではなく、実践する会社に
オカムラホームは宣言通り、SDGsの活動にも力を入れて取り組んでいます。
「中小企業も大企業も、多くの企業がSDGsを掲げていますが、実際は何か具体的に活動をするというより、17の目標があるうちの何番目のことをやっています、程度なんですよね。私たちは、せっかく宣言するんだったら掲げるだけじゃなくて、しっかり行動を伴いたいんです」
その実践の一つが、地元の高校生たちと社会課題に取り組む場をつくっている一般社団法人「MIRAI-KOMINKA for School」の設立です。
「今、5期目に入っているんですけど、今では千葉・東京の7区市町村が関わってくれている一大イベントになっています。高校生が地域の課題を見つけて、それを解決するための活動をするのですが、それを有志の大人たちで一生懸命にバックアップするんです。当初は70名ほどの参加でしたが、今では350名を超える子どもたちが参加してくれています」

また地域に貢献する活動としては、プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツ」のスポンサードなども行っています。オリジナルの耳に残るジングルをつくり、ラジオCMなども出稿しているオカムラホームですが、いざお客さまが来店されたときに、その社名を「どこかで見たことがある」「聞いたことがある」と言ってもらえる地盤づくりをすることも大事。これらの活動は、そうしたブランディングにもつながっています。
ただ数字を追う経営から、人の幸せを思い、人と人とのつながりを信じる経営へ。SDGsの活動も、しっかり実のあるものにしていく。その転換は簡単ではありませんが、「だからこそやる意味がある」と語る金子さん。
「自分の今までの経営人生をふり返ってみても、本当にこれを20年前からやっていたら良かったなと思います。やりたい事業の整理もできたので、会社としても30周年のいい節目になりそうです」
これからの「選ばれる会社」は、価格よりも、その姿勢で選ばれる会社です。オカムラホームの挑戦は、これからの工務店経営の在り方を示す、ひとつの答えなのかもしれません。
【編集後記】
「数字を追わない経営」は、本当に成立するのか?
~デザイン経営がもたらす、本質的な変化~
今回のインタビューで金子社長が語られた「デザイン経営」。これは見た目を整えることではなく、経営の中心に何を置くのかという本質的な問いかけと感じます。「数字ありき」「効率ありき」の経営OSから、「人の思い」「関係性」を起点とする経営OSへの転換──金子社長は、それを「経営の美学であり、人間の哲学」と表現しました。
取材中、最も気になったのは「数字を追わないと決めた時、怖くなかったのか?」ということでした。しかし金子社長は、むしろ逆だったと語ります。「お客さまの幸せを追うことで、数字がついてくる会社に変換していこうと思った」。数字を追わないのではなく、数字よりも大切なものを追うことで、結果として数字がついてくる。この順番の転換が、デザイン経営の本質なのだと感じました。
大きな変革には痛みが伴います。去っていった社員もいましたが、この理念に共感して戻ってきた元社員が5名もいたといいます。今残っている社員たちは、この理念に心から共感し、自分ごと化できている人たち。「どれだけお客様に寄り添えているか」という評価制度が、お客様の幸せを本気で考える組織をつくっているのです。
「価格よりも、その姿勢で選ばれる会社」──この言葉が、これからの時代の真実を表しているように感じます。
(N-LINKC 野口)

