スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖
プレゼンで魅せる! テクノロジーとデザインで裏づける家づくりとは。
代表取締役 羽柴 仁九郎さん
代表取締役の羽柴仁九郎さんは金融業界出身。SE構法とパッシブデザインを軸にした精度の高い家づくりで知られる株式会社タイコーアーキテクトですが、そうした根拠を大事にする姿勢は、その来歴にも関係しているようです。LIXILメンバーズコンテストなどにも積極的に参加して受賞を重ね、集客と採用はSNSやホームページ告知でまかなえているそう。プレゼン後は8割近くがご成約につながるという羽柴さんに、その秘訣をうかがいます。
#住まいづくりディレクション #自社設計自社施工 #SE構法 #パッシブデザイン
金融会社での経験から見えた建築業界の弱点とは
「住宅業界って、すごくファジーですよね」
そう語るのは、株式会社タイコーアーキテクトの代表取締役、羽柴仁九郎さん。23年ほど前に家業へ戻る前は、金融業界でキャリアを積んだ経歴を持ちます。
当時は金融ビッグバンもあり、特に厳しかった時代。新卒で入社した銀行では営業を少し経験したあと、いきなり新入社員で貸し付けの業務に携わることになったといいます。
「お金のシビアさというのは、すごく学びましたね。日経平均が7500円ぐらいまで下がっているような、本当にもう日本は終わるんじゃないかというときでしたから。当時は珍しく、住宅ローンの変動金利からの優遇金利をやり始めていた銀行だったので、『借り換えを取ってこい!』というようなこともやっていました」
そこでは新人ながら、「論理的に計算すれば確実に得だ」と自社の優遇金利を分析してExcelでまとめ、地域の分譲マンションに住む層などをターゲットにプレゼンを敢行。最終的に全国4位の成績まで収めたそう。
金融機関では、その判断の根拠が曖昧であることは許されません。どこにリスクがあるのか、なぜその判断に至るのかを、第三者にも説明できなければなりませんが、その力を養うことができた貴重な勉強期間だったと羽柴さんはふり返ります。
そして住宅業界に入って感じたのは、まさにその対極ともいえる状況でした。
「うちも含めて、『この家は強い』とか『温かい』とか、すごくその根拠が曖昧な会社が多いなと。そこには『この素材はなんか良さそう』という主観が入っていて、集客からクロージングまで主観。しかもそれは田舎の工務店とかだけの話じゃなく、大手ハウスメーカーも全部一緒なんですよね。こんなファジーな業界があるのかと思いました」
もちろん家づくりには、感性も必要です。ただ、人生で最も大きな買い物の一つであるにも関わらず、その意思決定の根拠がきちんと整理されていないことに違和感を覚えたといいます。
「素材だけを強みに売るようなところが多いですよね。たとえば伊勢海老料理が2900円だと言われて、『うちのほうが安いですよ!』とか『こっちの海老のほうが大きいよ!』とか言われても、実際はそれをどう調理しているかのほうが大事で。どこどこで修業した板前さんがこんなふうにしめて下処理して、昆布で巻いてね……ってところに、料理の価値が出るんじゃないかなと」
他業界から来て「なぜ違う表現や主張で説明をする人が現れないのか」と、とても疑問だったという羽柴さん。事業規模や売り上げがいかに高いかといったよくある主張も、金融業界の視点からすると「破綻懸念先だったら何の意味もない。財務バランスと継続的な最終利益が出ていないと」と冷静に見ていたとか。
「だからこそ、そこには何か法則があるんじゃないかと思ったんです。みんながやらない、まだ出していないところに。そこに他社との差別化、独自性があれば、別にみんなと同じことを言って早さや安さや量で競わなくても、もっと楽に戦えるんじゃないかと」
羽柴さんが目指したのは、そうしたファジーな「感覚」に頼らない家づくりでした。構造や性能、設計の考え方をできる限り可視化し、納得して選べる状態をつくること。そのスタンスは、経営方針として代表取締役就任時から一貫しています。
テクノロジーとデザイン、“ディレクション”も武器になる
設計から施工まで自社で手がけ、SE構法による構造計算やパッシブデザインを基本とする同社。16年ほど前から、「強くて快適でちょっとかっこいい家づくり」をキャッチコピーに、そうした根拠あるテクノロジーとデザインの両輪で勝負できるようになってきたといいます。

「SE構法など、テクノロジーの部分はどうしても金額が高くなるので、その高い理由も説明していかなければと、いろいろやってきました。でもそこにはやっぱり、デザインという切り口もないとなかなか難しいんですよね。そうして試行錯誤するうちに、少しずついいデザインのものができるようになってきました」
さらに、そこで第三の強みとなっているのが家づくりにおける“ディレクション”だといいます。
「人が家を買おうとするときって、そこに選択肢と専門家が多すぎるんですよね。銀行のことや土地のこともよくわからないし、インテリアや家電にも興味がある。YouTubeでは断熱に特化した専門家の話なんかも聞いたり、インスタを見て『こういうかっこいい家にしたいんです!』とかね。方向性が無茶苦茶になっている方が、あまりにも多いんです」
何かと情報があふれているなか、いざ「どんな家にしたいか」というときに極端なバイアスがかかっていたりして、明確な方針を見極めないまま家づくりを進めてしまうことが増えている今。その情報の交通整理をして、しっかりディレクションをしてあげることも、工務店の大きな役割だというのが羽柴さんの考えです。
「そもそも、その方がどういう状況なのかを落ち着いて見極めること。本当にその方に合った家の話ができるまで整理してあげる場づくりというのが、すごく大事で。いきなり家を売ろうとするんじゃなく、まだそこに至る前の“ディレクション”が僕の大切な役割なんです」
初回の打ち合わせは羽柴さん自ら、3時間ほどかけて話をすることも少なくありません。そこで考えが整理され、「なんかわかったような気がします」「楽しくなってきました!」と、家づくりのワクワクを感じてもらえれば大成功。プランご依頼後にプレゼンをすれば、8割がたご成約につながるといいます。
「値段も最初に提示するので、そのエリア、その予算なら、ほかでローコスト住宅か中古マンションを選んだほうがいいんじゃないかという場合もあります。でも、選ぶのはその方ですからね。人生のロールプレイング、その方が楽しく、正しいと思った道に行ってくれたらいいなと思うので、そのあたりは忖度なくはっきりとお伝えしています」
ただ自社の強みを並べ立てるのではなく、その方の価値観や優先順位に合わせて家づくりを整理し、最適解をともに導き出していく。見えにくい部分ですが、こうしたディレクションこそがお客様の満足度を高め、社としての大きな武器にもなっているようです。
3DやAIも駆使!プレゼンを“エンターテイメント”に
プレゼンテーションには、3DやAIが活用されています。設計段階から完成後のイメージを具体的に共有していくのに、やはり平面図だけで見せるのとは大きな違いがあるようです。
「3Dでつくったものに、AIを動画で入れているだけですけどね。家のプレゼンはもう、エンターテイメントなんです。でも、こういう小手先のスキルは売りにしたらだめで、所詮はコミュニケーションの手段。あくまでプランが本質です。笑わせるのに使うくらいがちょうどいいと思っています」


人がものを購入するまで至るとき、そこには憧れやコンプレックスがくすぐられる部分もあるのではないかという羽柴さん。そんな琴線に触れるような部分にも、心を砕いているといいます。
「自分自身も『なんでこれを買わされたのか』という、その衝動を研究するのがすごく好きなんですよね。デザインは似たようなものでも、何かこだわっていること、染め方とか縫製が違うんだとか、やっぱりそういう理由に惹かれていると思うんです」
タイコーアーキテクトには、3つの哲学があります。それは、その土地の自然エネルギーを活かす「パッシブデザイン」と、構造躯体や施工の品質で叶える「ロングライフ」、そして「フィット」です。
「フィット」とは、そのご家族に合ったライフスタイル全体を提案する力。同社の社員には、建物だけではなく、インテリアやエクステリア、家具や照明や家電、植物まで、あらゆる視点から、そのお客様に寄り添ってご提案できるよう指導しているといいます。
「美意識の部分も、各社で差が出てくるところですよね。『うちの仕事はここまでです』というスタンスって、一番その会社が出るなと思っていて。たとえば靴箱ひとつとっても、玄関に標準のものをそのまま、高さも何も考えずにドーンと付けられたら、こだわりのインテリアを好むようなお施主さんは、きっと違和感を覚えます。設計の時点で、注文を受けるのではなくこちらから気を回さなければならない。これがうちの美意識だという基準のスタイルを、うちはちゃんと持っているんです」
こうした「フィット」を実現するための美意識や基準には、何か特別なマニュアルや教育プログラムがあるわけではありません。ただ、社員が自ら他社の事例を見て学んだり、社内の設計部で毎回「この物件はどう思う?」と互いに意見交換をしたりすることで、提案に磨きをかけ、自律的に日々レベルを高めているそうです。
「採用面接で何を語るか」から見えてきた自社の価値
もともと先代の頃は分譲住宅の事業がメインで、年間に60棟ほど手がけていました。一方で注文住宅の部署は、羽柴さんが入社して3~4年目の頃には担当社員が全員辞めてしまい、一時は壊滅状態になっていたといいます。
しかし、「土地の仕入れが不調の時でも安定して注文住宅がとれる会社にしていかなければ」と、羽柴さんは一念発起。現在は同社の第一線で設計士として活躍している前田良さんと、2人で注文住宅の部署を立ち上げたことが今につながっています。
「実は去年、父が仕入れた分譲住宅の物件はすべてなくなって完全にゼロになりました。このまま注文住宅だけやってもいいのですが、やっぱり注文が止まったときが怖いですからね。ある程度の分譲も仕入れておこうと。ただ、これまでのように地元の農地を安く買って造成し、数を売るというような方向ではなく、誰もが欲しがる一等地の高額物件を設計する視点で見定めて数個だけ仕入れるような形にしていこうと考えています」

現在は大阪市内でも放出や阿倍野などに絞って分譲住宅を手がけていますが、メインはやはり注文住宅。年間で25~26棟ほどを上限として、ますますその質を高めています。
価格は5000~8000万円、エリアによっては1億円を超える高価格帯。それでも集客は自社のホームページとYouTubeチャンネルの発信のみで、最近は月に10組ほどが来場しているといいます。また、昨年はLIXILメンバーズコンテスト2025で3つの実例が入賞。こうした各賞への取り組みも、PRや社内のモチベーションにつながっています。
「うちのホームページが他社と圧倒的に違うのは、文字数の多さですよね。エモーショナルな言葉でごまかすのではなく、根拠をしっかりと伝えることを意識しています。やっぱり、理系寄りの方に来て欲しいんですよね。医師や製薬会社、エンジニアリング、デザインのお仕事をされているような、家づくりにおいても講釈やウンチクが好きで、我々に挑もうとしてくるような方々に(笑)」
そうした話に関心の高い富裕層は、まさに同社のターゲット層でもあります。また、ごまかしのない言葉を尽くした発信の効果は、採用の場面でも現れているようです。志の高い、価値観の合う人材が、ホームページでの告知だけで集まっているといいます。
「面接をしていると、『他社と全然違う話をされる』と言われますね。他社では、ライバルのあの会社に勝ちたいだとか、売り上げをどうしたいといった話ばかりされるのだそうです。うちは、そんな話は一切しません。次はホテルを建てるんだとか、その部屋にレコードを置こうと思っていて、今ちょうど探している、きっと使いたくなるし、インスタにも撮るでしょう?とかね。酒を置くなら自動販売機に何を置いたらいいだろう?なんて話も」

宿泊体験ができるモデルハウスとしての役割も考えているホテル事業では、アクセスのいい都市部に最大4階建ての木造耐火ホテルを建てる計画も進行中。これから2~3年に1棟のペースで、自社取得の土地、自社設計自社施工で、ホテル運営を展開していく構想も描いています。
手がける棟数や事業規模はあえて絞りながら、他社との差別化や独自性は常に考えているという羽柴さん。事業規模や売り上げよりも、そこにどんな場をつくり、何を実現したいのかという視点を大事にすることが、採用面接での会話にも出るほど企業文化として自然と息づいているようです。
【編集後記】
取材を終えて、まず頭に浮かんだのは「なるほど、この人は“翻訳者”だな」ということでした。
金融業界という、数字と根拠がすべての世界で鍛えられた羽柴社長が、家業の住宅業界に戻ったとき感じた違和感は、相当なものだったはずです。「この家は強い」「温かい」──その根拠は?と問えば、答えは主観と感覚。大手ハウスメーカーも含めてそうだと知ったときの静かな驚きは、語り口からも伝わってきました。
しかし羽柴社長が面白いのは、そこで怒るでも嘆くでもなく、「法則があるはずだ」と前向きに読み解いたことだ。ファジーな業界の言語を、根拠と論理の言語へと翻訳すること。それがそのまま、タイコーアーキテクトの差別化戦略につながっていったと感じます。
富裕層のお客様が「講釈やウンチクで挑んでくる」という表現には、思わず笑ってしまいました。でも考えてみれば、それは最大の賛辞でもあります。素材やデザインの「なぜ」を語り切れる会社にしか、そういうお客様は来ないと思われます。5000万円を超える家を、ホームページとYouTubeだけで月10組が訪れるという事実が、すべてを物語っているのでしょう。
規模より質。数より根拠。そのスタンスを貫く経営者の言葉には、業界歴の長短を問わず、学ぶべきことがたくさん詰まっていた。
(N-LINK C 野口)

