スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

情報紙の配布を続けて10年、その効果のほどは?

京都府/株式会社林工務店
代表取締役 林 哲さん
広報・経理 林 千鶴さん

みなさん、無償提供サービス「住まいのかわら版」はご活用されていますか? 今回お話をうかがったのは、この「住まいのかわら版」をベースにした自社のオリジナル情報紙を10年にわたって毎月配布されている京都府の株式会社林工務店。「ホームページやSNSなどでも情報発信をしていますが、近隣地域のお客さまへのアプローチは、やっぱりこの情報紙がメインになっていますね」という代表取締役社長の林哲さん。情報紙の制作を主に手掛けていらっしゃる奥さまの千鶴さんと一緒に、制作の裏側を教えていただきました。

■ご活用ツール: #住まいのかわら版



自社の強みを前面に押し出したことで問い合わせが倍増

コロナ禍も2年目となった2021年、これまでは年に2~3棟だったところから、7棟にも受注が倍増したという林工務店。建てていただいたお客さまからのご紹介もあれば、インターネットからのお問い合わせも増えているそう。従業員は同年8月に増やして、現在5名の方が在籍されています。一体、何が起こったのでしょうか。

「コロナ前はセミナーなどもだいぶいろいろやって、近隣の方もよく来てくれていたのですが、そういうのがコロナで完全に止まっちゃったんですよね。ところが、ホームページを見てくれた人が『住宅性能に特化した工務店だな』『田舎にこんなことができる工務店があるのか!』と思ってくれたようで、たくさん問い合わせをいただくようになったんです」

確かに、このコロナ禍にはネットを通じて情報収集をする人が増えた側面もあるのかも知れません。一つひとつの情報をていねいに展開しながらきれいにデザインされた林工務店のホームページには、林さんご夫婦のお人柄にも通じるような、とても誠実な雰囲気が漂います。実は、そこにもこだわりが。

「最近は施工事例の写真をメインにしたようなおしゃれなホームページが多いので、ちょっとダサい気もするんだけど(笑)。うちは家の性能や数値をしっかり書いて、マニアック層を狙おうという趣旨のもとつくっています。それが、今になって生きてきたんじゃないかなと思いますね」

その言葉通り、高気密・高断熱・高耐震の説明からQ値などの細かな数値や図説、ZEHやHEAT20といった用語の解説まで、それぞれに読み応えのある記事が並ぶホームページは、同業他社の方にも一目置かれているようです。

「まわりの仲間にも、『あまりにマニアックなお客さんが来ると、林さんのところへ回そうかと思う』と言われたりしますよ」と笑うご主人。そういった住宅性能に詳しいお客さまに応えるのは大変そうですが、それがまた好きなのだといいます。

「こういうデータに興味を持つ方には、お医者さんとか大学の教授とかも多いので、本当に専門的なとんでもない質問もありますよ。でも、そこで変に知ったかぶりをするんじゃなく、『これは研究材料じゃなく、商品なので』と言えば、ちゃんとわかっていただけます。『ちょっと調べます!』と正直に言ってね」

もし答えがわからないようなマニアックすぎる質問をされても、そこでいい加減に説明して取り繕ったりせずに、しっかり調べて対応するという真摯な姿勢。そんなところも、きっとお客さまの信頼につながっているのでしょう。



「継続は力なり」を実現させてくれたWEBツール

自社の強みの打ち出しにひと役買ってくれた媒体は、もうひとつあります。

林工務店では、以前から自社情報紙「得する通信」を制作して近隣地域に配布していました。ところが、毎回新しいネタを記事にするのはなかなか骨が折れ、毎月が隔月になり、ついには休止状態に陥ってしまっていたのです。そこで目をつけたのがWEBツール「住まいのかわら版」でした。

「住まいのかわら版」は、毎月新しい話題で埋められた表裏の紙面を雛形として自由に改変し、オリジナル情報紙に編集することができる無償提供ツール。これをたたきにして、林工務店の「得する通信」を復活させようということになったのです。

「使い始めた当初、載せるネタがなかったときには、そのままの記事で『得する通信』として配布したこともあります。それはそれで、良かったですよ。夏にLIXILのスタイルシェードの記事が載っているのを配ったときなどは、実際にシェードの注文も入りました」

「ネタがなければそのまま使えるのも、ありがたいことですよね。だからこそ、とうとう100号も突破して、もう10年近く継続することができているのだと思います」とふり返る林さんご夫婦。制作は主に奥さまの千鶴さんが担当されているそうです。

「やはり、継続は力なりとはよく言ったもので。最初の3年くらいはちゃんと読んでくれているのかどうかもわからなくて、反響が感じられなかったのですが、3年を超えたくらいから『いつも読んでいます』といった声も聞かれるようになりました」

もし情報紙配布を始めるなら、3年は継続したほうがいいという奥さま。近隣の方から「楽しみにしている」と言われるようになったのも、また大きな励みになったようです。

「4年目くらいだったかな、この通信をきっかけに新築の成約がとれたときはうれしかったですね。なかには、バックナンバーをストックしてくれているお客さまもいます。役に立つ情報がいろいろ書いてあるからと喜んでいただけるのもうれしいですね。『住まいのかわら版』の雛形がなかったら、とてもここまで続けられていられなかったと思いますよ」

印刷はネット印刷で、価格も手頃な紙を選択。近隣地域に7000枚配布するほか、100枚ほどはOB顧客などに配布しています。昨今、新聞をとっている方が少ないのを鑑みて、折込チラシはやめてポスティング業者に依頼するようになったとか。費用対効果を考えても、非常に効率のいいツールの使い方と言えるのではないでしょうか。



反響の大きい「得する通信」を支えている独自の編集方針

今では、使い慣れたWordに貼りつけて制作する形で、オリジナルの部分が増えているという「得する通信」。表面は雛形をベースに、手にした人が読みたくなるような時事ネタや役に立つ情報を散りばめて、裏面を完全オリジナルに。そこでは、見学会・引き渡し式やイベントのお知らせ、施工した実例写真などを載せるのが定番になっています。

WEBツール「住まいのかわら版」をベースに制作される林工務店の自社情報紙「得する通信」。裏面は完成&引き渡し式の案内などを載せた完全オリジナルに。

方針として決めているのは、商品の値段を一切入れないこと。「売り込みっていう感じになったらダメだと思っています。同業者に見せると『これ、広告? 何も書いてないじゃない』と言われるんだけど、それでいいんです。そのほうが問い合わせもきますしね」とご主人。そんな独自のこだわりも、この通信を楽しみに読む方を増やしているようです。

表面の下には、毎月奥様が編集後記のように綴るコラムも挿入されています。

「本当にたわいのない、家族がどうこうとか、自分たちのことなども書いているんですけれど。結構ここが面白いと言われるんですよね。『住まいのかわら版』の雛形にも、こういうものを入れたほうがいいと書いてありますが、必ず入れたほうが良いように思いますね」

親近感がわくその筆致に思わず引き込まれて、面白く読み込む方が多いのでしょう。お客さまからコラムの話題をふられることもよくあるそう。そんなお人柄が感じられる部分を上手にバランスよく取り入れているのも、お手本にしたいところです。

もともとは、近隣のお客さまが7、8割だったという林工務店。ホームページでの情報発信への反響から遠方のお客さまも増えましたが、できるだけ1時間ほどの移動圏内までと決めて対応しています。それでも、やはり遠方のお客さまが増えてきたことがあり、もっと近隣の方にも自社の魅力を伝えようと、半径15kmほどの近隣地域に情報紙を配布することを決めたのだそうです。

「ホームページを見て遠くから来る方もいるのに、意外と近所の方には知られていないんですよね。近所にそんな性能に特化した工務店があるなんて全然思っていないような感じなので、詳しくお話しするとびっくりされるところがあったんです」

遠方のお客さまにはWEBの情報発信が効果的でしたが、近隣の方に向けたポスティングの情報紙の重要性にも改めて気づいたというご主人。

「これではいけないというので、『得する通信』にもこういう性能のいい住宅を中心に手掛けているよということを大々的に記事にして入れて、アピールするようになりました。それまでは、そんなに細かな性能のことについてはあまり書いていなかったんですよ。そうしたら、それが効果的だったのか、そのあとポンポンと近所からの仕事が入りました」

今では情報紙全体の4分の1か5分の1ほどは、住宅性能についてのトピックを入れ込んで制作されているという「得する通信」。それを読んだ近隣の方々からの反響も大きく、今ではまた地元と遠方の方の比率が半々に戻ってきているそうです。



コロナ禍での変化がもたらしてくれた意外な恩恵

いろいろな相乗効果もあってか、WEBからのお問い合わせも、以前は資料請求だけで立ち消えになる確率が高かったのが、今では全体の3割ほどの高打率でお問い合わせがご成約につながっているといいます。

コロナやウッドショックで建材が高騰し、予算が厳しくなっている昨今。ちょうど値上がり直前の時期に重なってしまったお客さまも多く、工期も含めて対応にも追われています。

「でも、今ある家をどうこうしようというお客さまは少ないですね。それより、今の家が底冷えして寒いからとか、基本的には建て替えようという考えの方がほとんどです。耐震については、『耐震補強ってどうなんですかね?』と聞かれることもありますけどね」とご主人。

住宅性能にこだわる客層だからこそ、安易に新しい建材を抑えるリフォームを軸にしようとしたりすることもなく、「やっぱり高性能な家を建てたい」という感覚を持っている方が多いのかもしれません。それは、林工務店にとってもありがたい流れと言えそうです。

またコロナ禍では、見学会を完全予約制にして1組1組対応するようになりましたが、それも良い効果をもたらしているようです。

「うちでは今、建築中の構造見学会と完成した際の見学会を2回させていただくんですけど。以前はいつでもどなたでもという感じにしてしまっていたので、物見遊山で近所の奥さま方がワーッと見にいらっしゃったりして、肝心な購入を検討されている方への対応がきちんとできないところがあったんです」

「でも今は、完全予約制で1組ずつなので、ちゃんと家を建てたいと考えている方が予約をとってくださって、すごく対応しやすくなりました。たっぷり時間をとって丁寧な接客ができるので、そういうところも良かったなと思いますね」

お打ち合わせも感染対策を徹底して、できるだけ対面で行うのが林工務店流。お客さまとしっかり信頼関係を築いていることもあり、これまで対面を嫌がったお客さまはいらっしゃらないそうです。正解のないコロナ対策、独自のスタイル確立と信念、行動力がよりものをいう時代になってきているのかもしれませんね。

建築中の家を見ながらこだわりの性能を知っていただく「性能が見える見学会」など、独自の見学会もさまざま企画。コロナ禍でどう開催していくかも今後の課題のひとつ。