スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖

社員の意識改革、業績の向上にもつながった全社を挙げてのDX化。

石川県/株式会社さくらホームグループ
経営企画課 課長 兼
ビジネスソリューション事業部
ゼネラルマネージャー
上妻 尭甫(こうづま あきほ)さん

石川県を拠点に、北陸3県でトップクラスの不動産売買取引件数、年間完工棟数を誇るさくらホームグループ。それを支えるのは、創業当初から取り組んでいる属人化を解消するための業務システムづくりです。創業から27年を経て、不動産・建築業界に最適化された独自の社内システムは、2022年7月から同業他社にも公開されています。今回はそのプロジェクトを推進する上妻尭甫(こうづまあきほ)さんにお話をうかがいました。

#DX化 #ツール開発 #可視化システム #業務効率化



膨大なデータを可視化するところからスタート

前職でもIT関連事業に携わってきた上妻さんがさくらホームに入社したのは6~7年前のこと。DX化を推進する部署をいちから構築するためのメンバーとして入られたのがきっかけでした。そこから現在まで、どのようなステップを踏んだのでしょうか。
※詳しくは前号をご確認ください。前号はこちらから。

「まずは、データの可視化から始めました。さくらホームにはもともとある程度システムの基盤があって、そこでデータも蓄積されていたので、その点では他社で最初に課題になるところはクリアしていました。ただ、そのデータをうまく使えていない、宝の持ち腐れ状態になってしまっていたのが当時の課題だったんです。データを入力してはいるものの、それを経営判断に生かしきれていない部分があった。そこで、まずはそれを可視化しようということになりました」

さっそく導入したのがBI(ビジネス・インテリジェンス)ツール。社内のさまざまなデータを集計し、それを分析して可視化することができるソフトウェアです。半年から一年ほどかけて、社内のひと通りの情報を可視化することができました。

たとえば売上情報なども、月ごとや累計の数値がすぐに可視化されるようになっています。

単月・累計で売上情報を可視化(クリックすると別タブで画像を開きます)

そこからさらに、社員一人当たりの売り上げ金額や、店舗別の売り上げ推移、成約率なども今どのくらいになっているかが一目瞭然の状態です。個人の売り上げランキングや、新規の顧客の推移など、ひと通りのデータがそろっています。

「マイデータ」という形で、それぞれの社員が自分の営業上の立ち位置などもわかるような設計。こうしてリアルタイムで見ることができると、社員一人ひとりの意識も変わってきそうです。

社員一人ひとりの実績がわかる「マイデータ」(クリックすると別タブで画像を開きます)

人事の情報としては、社員の平均年齢や勤続年数、社員構成の割合なども可視化されています。これだけ明確に、パッと見てすぐにわかるようなデータがあると、企業として戦略を立てていく上でも、スピード感が大きく変わってくるのではないでしょうか。




クレームは「トレジャー」としてその推移を可視化

「うちではクレームのことを『トレジャー』と呼んでいるんですけれど、そのトレジャーの件数も出しています」と上妻さん。特にその「トレジャー」の起因が人的なものは、推移を追ったりすることもできるようになっています。

トレジャーの発生件数推移も可視化(クリックすると別タブで画像を開きます)

さらに、このトレジャーに関しては「7時間7日ルール」というものがあるそう。クレーム対応は初動が大事。7時間以内に動いて、7日以内に解決しようというこのルールにのっとり、今月は何%それが達成できたかといったことも可視化されています。

「うちではよくサイボウズOfficeを使っていますが、サイボウズはノーコードツールで、コードを書かなくても自分たちのアプリが作れる機能があります。パッケージ製品で管理できるものはしているのですが、それ以外の細かな業務はその機能を使って全部アプリ化し、データをとれるようにしているんですよ」

先ほどのトレジャーも、アプリが作れるその機能でトレジャー管理アプリを作り、可視化して状況を把握できるようにしたのだそう。ここまで徹底的に可視化できていることが、さくらホームの強みになっているのは間違いなさそうです。



社員の主体性を高め、業務の効率化を実現

この徹底した可視化によって、どのような変化があったのでしょうか。「一番感じるのは、社員の主体性が高まったことですね」と上妻さん。

「たとえば残業時間なども可視化して、『ワーストランキング』が出るようにしています。一般的に残業を抑止するためには、『残業はするな』と上司が部下に言ったりするわけですが、うちではそういうことがあまりありません。このワーストランキングを全社員に開示しているので、自ら『まずいな』とわかるわけなんです。上司に言われなくても、社員が自分で主体的に残業抑止の動きをするんですね」

同じように、営業成績などがすべてランキングで可視化されているのも、社員の刺激になっているようです。「営業成績1位の人のデータも、みんなが見られるようになっているので、その人の細かなデータを見て、それぞれの社員が自らがんばるというのはあると思いますよ」とのこと。

また事務的なことでは、「会議資料を作らなくていい」というのもとても大きいといいます。これまでは毎回、会議のたびにしていた資料作成業務を8割がたカットすることができました。

「月に一回の運営会議で、以前はデータをすべてエクセルで集計して出すということをしていました。会議資料をつくるのって、結構大変ですよね。でも、すでに可視化されたシステムがあるので、基本的にそういう集計作業は必要ありません。もちろんこのデータを受けて、その店長がどういう考察をし、今月はどうするかというアクションプランは作る必要がありますが、それでもかなり業務は削減できていると思います」

「apotta(アポッタ)」と名付けられたアプリも、大きな効果を発揮しています。これは、お客さまとのお打ち合わせのアポ取りをスムーズに行えるように、不動産建築業界に最適な予約システムをさくらホームで独自に開発したもの。さくらホームグループの設計部門を担うAXSデザインで、このapottaを使ってどこまで集客業務の効率化ができたのかを換算すると約96%、年間にして約350時間もの業務時間を削減することができているそうです。

apotta導入による集客業務効率化の成果(クリックすると別タブで画像を開きます)

apottaの具体的な機能としては、まず、お客さまがネット経由でカレンダーの空いているところに自分でお打ち合わせの予約を入れることができます。さらにそこからひもづけて、事前アンケートや事後アンケートも自動で出てくる仕組み。お客さまが直接書き込めるようになっています。さらに来場特典として電子ギフト券を送付することなども、この1つのシステムの中でできるようになっています。

従来の集客までの流れと比べてみても、その効率の良さは歴然。お打ち合わせも対面かオンラインをお客さまがそこで選べるようになっていて、オンラインを選んだ場合はZoomのURLが自動で払い出されるようになっています。さらに社内で対応する営業担当者にも、そこでZoomのURLが自動的に払い出されるので、デジタル操作に不慣れな社員も手間取ることがありません。

「今は予約に対するニーズも変化しています。我々のターゲット層が20~30代の若い方が多いのもありますが、基本は電話をしたくないという方が多い。美容院の予約でもなんでも、WEBで完結したい層が主流になってきているので、住宅業界もこれからそうなっていくのではないでしょうか」と上妻さん。

思い入れのある熱量の高いお客さまが多いことから、そこで出された事前アンケートにも、しっかり書き込んでいただけることが多いといいます。その点は他の業種とはシステムのつくり方も違ってくる部分でしょう。

お打ち合わせ後に自動で送られる事後アンケートは、接客や提案の品質向上に役立てられます。「言葉遣い」などの基本的なところから「提案内容」までチェックしやすくなっていて、すべて回答するとギフトコードが送られるしかけで回答率を上げる工夫も。

「弊社はもともと、あまりこちらからガツガツ営業をしたくないという考え方なので、入り口対策としては、お客さまが興味を持っていただいたときにハードルが低い、こういったシステムがあることで問い合わせが気軽にしやすいというのは、とても大きいと思います」

集客の要ともなっているOB顧客のお客さまへのアフターフォローも、LINEでやりとりできるようなシステムが構築されているそう。こうしたシステムは、お客さまとのコミュニケーションツールとして今やなくてはならない存在になっています。



さくらホームグループの独自システムを公開中

さくらホームでは、このapottaなどのアプリとともに他社のDX化のコンサルティングを行うプロジェクトを開始しています。

せっかく自社で構築したものを同業他社に公開してしまっていいのかとも思いますが、前回お話を伺ったAXSデザインの多江義教社長も、こんなことをおっしゃっていました。

「自分たちのノウハウを開示していくことには、あまり抵抗がありません。結局は出せば出す分だけ、コップの水は空けたほうが、また新しい水が入ってくるだろうという考えがベースにあります。溜めておいても腐っていくだけですからね」

上妻さんも、「このプロジェクトによって、さくらホームグループで培ったものを外にも出しますし、お客さま側からの情報もまたさくらホームグループに還元して生かしていくという意味合いもあります」と、そのメリットを語ります。DX化を成功させるための秘訣は、どのようなところにあるのでしょうか。

「いくつか対策はありますが、弊社で特に気をつけているのは、ITリテラシーが低い人でも使えるシステムづくりです。不動産建築業界はシステムが苦手な方も多いので、そういう方がわかるようなシステムづくりを心がけていますね」

社内だけでなく、取引先である職人さんなどにも、デジタルでの入力作業が苦手な方はいます。そんな方々にも使いやすいシステムであることがとても重要なのだとか。

「それをサイボウズのノーコードツールで適当につくってしまうと入力しづらいんですけど、それなりに気を遣ってつくれば使いやすくなります。たとえば、入れていない項目があったら色が変わってわかるようにするとか、そもそも項目の説明自体をちゃんと入れてあげるとか、本当に細かい基本的なところなんですけど、そうやって誰にでもわかるようにつくるというのはとても大切なことなんです」

他社にDX化のコンサルティングをする際には、どのようなことから始めるのでしょうか。

「弊社では何か1個のアプリを売るというよりも、まずはその会社さんの全体のシステム構成を見させていただくところから始めます。そこで、こういう構成にしたほうがいいんじゃないですかと提案をするんです。よくあるのが、部分的にあれもこれも良さそうだと入れたシステムが点在してしまっていて、そこでのデータの連携ができていなかったり、機能がかぶっていて無駄になってしまったりしている状態です」

そんなときには、「このシステムはむしろいらないんじゃないですか?」「これとこれはこのアプリに置き換えましょう」といったところからお話をされるそう。システムを整理して、入力の手間を省くことで、しっかり運用が定着するようになるといいます。

「ご依頼いただいているお客さまは、あまり可視化だけ、自動化だけ、ということはなく、基本は弊社のような生産性の高い組織づくり、仕組みづくりに興味があるという方が大半です。我々も、もともとは自分たちが困っていることから開発したシステムばかりなので、自分たちで使い倒したものを体系化して横展開していくやり方をずっとしています。それはコロナも含めた外部環境の変化にも、自分たちで対応できる力になっているのではないでしょうか」と上妻さん。

これからの時代を生き抜いていくためには、必要不可欠とも言えるDX化。お客さまのためにも、社内の業務効率化のためにも、良い効果をもたらすものであることは明白でしょう。「apotta」をはじめとしたさくらホーム独自のDX化プランについても、気になる方はぜひこちらをチェックしてみてください。

■「DXコンサルティング・導入支援」について、詳しくは こちら からご確認いただけます。
■「apotta(アポッタ)」について、詳しくは こちら からご確認いただけます。
※Good Living 友の会の取り扱いツールではございません

■Good Living 友の会主催のセミナーにて。アーカイブ動画は こちら から