スペシャルインタビュー
住宅業界のトップランナーを徹底解剖
自社の強みは内製化!社外より先に社内広報に力を入れるわけ

代表取締役
相羽 健太郎さん

広報統括・新築住宅事業部
伊藤 夕歩さん
東京都の東村山市で、地域に根差したブランディングを成功させている相羽建設。社員・パートを含めた全スタッフは約50名ですが、広報のスタッフはその内の約10%にあたる5名。そして、それ以外の全スタッフも広報活動に何かしらの形で関わっているのだとか。外部に頼るよりも社内で内製化していくことが、スタッフの自覚や意識の活性化につながっているようです。その実際の取り組みや、新しい事業展開についてうかがいました。
#地域密着型工務店 #社内広報 #ブランディング #自治体のプロポーザル案件
全社員でつくる広報誌を毎月発行!内製化の実現まで
前回は相羽建設の相羽健太郎さんに「社員大工」の取り組みについて教えていただきましたが、そこには「自社の強みこそ内製化していくべき」という考えがあります。大工を社員として雇うというのは、仕事の効率化のためにするのならとてもやり切れるものではない体力のいる取り組み。しかし、先代が大工として始めたこの会社の強みをより強化していく上では意味があり、周囲の信頼を勝ちとることにもつながったといいます。
そんな相羽建設の強みとして、もうひとつ内製化に成功しているのが「広報」です。「広報をしなくていい会社なんて一つもないと思うんですけど、うちはそこを強みにするべきだと思ったんです」と相羽さん。
「もちろん広報も今はいろんなものがあるので、社外の力を借りる選択もありますよね。時間をお金で買って効率を図るのは、全然アリだと思います。何に投資をして何を内製化するのか、それはそれぞれの会社の強み、どのように認知されたいのかということとイコールじゃないでしょうか」
広報を内製化していくなかで大事にしたものは何だったのでしょうか。
「僕らの時代は、いいものをつくっていれば必ず誰かが見ていて、それが次の仕事につながるんだと言われ続けてきて、今もその原則は変わらないし大切だと思う。一方で、それをちゃんと伝えないといけない時代にきていますよね」
「いいものをつくっている」ということを、いかにして人に伝えるか。広報はプロモーションや販促活動とは違うという相羽さん。
「うちが広報部を独立部署としてつくったのは十数年前で、当時はかなり珍しかった。理想で言えば、最終的には営業がなくなるといいなと。僕自身もやっていたので営業という職種には誇りがあるんですけど、日本は国民性としてもセールスには押し売られるような抵抗感がありますよね。なので、広報をして、そこで相羽建設を知ったお客さんが自ら足を運んで話を聞きに来てくれる、体感して心が動き自らSNSに書き込んでくれたりするのが理想の姿なんです」
そして広報で一番大事にすべきなのは「社内広報」だといいます。
「広報スタッフって、いかに外部の人とリーチするかみたいなイメージがありますけど、今日やっている見学会のことをスタッフや職人さんが知らない会社っていっぱいあるんですよね。それは違うなと思っていて」
社外ばかりに目を向けずに、まずは社内から。それが相羽建設の広報姿勢です。
「やっぱり、社内から漏れ伝わらないと意味がない。最終的には、「社員全員が広報だ」と思っているんです。だから、一番大事なのは社内に対していかに周知するかということ。会社でやっていることについてもそうですし、僕(経営者)が持っている価値観みたいなことも」
社内に情報が浸透し、社外にも伝わっていく状態を相羽さんはよく「エコシステム」と表現するそう。職人や大工、お施主さまも含めて、まるで生態系のようにつながっている人たち、不特定多数ではなく“特定多数”の人たちに、いかにして相羽建設のことを伝えるかということです。
相羽建設の広報誌「ainoha」には家づくりにちなんだ特集から地域のお店情報までさまざま掲載されていますが、これはすべて社内制作によるもの。2012年から毎月発行し続けています。

毎月この情報量を扱うのはなかなか骨が折れそう。広報統括・新築住宅事業部の伊藤夕歩さんにもお話をうかがいました。
「現在、広報のスタッフは5人、そのうち社員は3人、パートスタッフが2人います。それぞれが広報だけでなく、ネットワーク事業の事務局の仕事や、新規事業などほかの仕事もしながら携わっている形ですね。毎月、取材や撮影も社内のスタッフに協力してもらいながらやって、冊子をつくるほかにイベント計画もしているので、なかなか大変です(笑)。お店の紹介ページもあって、現場監督が地元のお店へ行って取材したりするんですよ」
誌面の記事制作にはそれぞれ、広報部ではない社員も携わっているといいます。文章だけではなく、営業スタッフが撮ってきた写真が掲載されることも。住宅の仕事に携わる人たちだけあって、イラストを描くのが上手な方も多いのだそうです。
「美大卒の人も多いので。毎年のカレンダーを写真メインでつくる年もありますが、2025年はスタッフが描いたイラストを中心につくりました」
そうして全スタッフが広報に係わることで「自分ごと」になるのだという相羽さん。
「広報しかイラストレーター(編集ソフト)を使わないっていう会社はたくさんあると思うんですけど、うちは十数人が使えて、それぞれがページをつくることができます。広報のスタッフがそれをとりまとめてディレクションしていくイメージですね。中小企業である工務店はそうして作業を分担していかなければなかなか難しい。分担することで自分ごとになるので、社内広報としても皆に手を動かしてもらう良い機会になっています」
インスタグラムの反応も上々!ホームページの情報源は?
広報誌をつくることで集まった記事は、WEBにも展開されます。相羽建設のホームページがここまでつくり込まれて、日々情報を充実させているのも、この広報誌づくりによるところが大きいのだそう。

「家を建てられる世代は、やっぱりInstagramを見ている方が多いですね。僕たちも、ホームページをたくさん見ていただくためのSNSというのがあって、まずFacebookに力を入れたところから、Instagramに変わってきたり、新しくTikTokとかも出てきたりしていて結構移り変わっているけれど、ホームページはマストですね」
アナログの紙媒体もずっと大事にしている相羽建設ですが、一方でデジタルにも力を入れています。マーケティングの業務を自動化して効率化するMAツールを使ってのインサイドセールスも、チームをつくって強化しているそう。
「メルマガやシナリオメールも、インサイドセールス会議をして分析しています。紙媒体はどのくらいの方が見ているか分かりにくいところがありますが、動画やSNSなどは閲覧数がわかるので、どういう傾向のものがどのぐらい見てもらいやすいのかもデータ分析しています」
動画配信などは、集客だけでなく採用にもつながっているといいます。
「このあいだは山口県の子がYouTubeを見て、相羽建設の事業や社員大工の育成に共感したといって入社することになりました。これまで大変な時期もありましたが、いろいろなことが今、善循環し始めているところです」
ホームページやYouTubeには社員インタビュー・対談なども掲載されていますが、出演者は誰かに偏ることなく全スタッフに声をかけているとか。
「僕らが大手と違うのは、そこだと思っているので。みんなでやれることが大きな強み。ベクトルが同じ方向に向かないといけないと思っているので、うちは常に『みんなでやろう』ですね。同時にそれが、『誰かがやってくれる』にはならないように。みんななんでも駆り出されるというのは、うちの社風と言えるかも知れません(笑)」
イベントは年間約70回以上!リアルな場の大切さも実感
アナログもデジタルも大事にしている相羽さんは、それを「ハレとケ」のような関係だといいます。
「どちらかというとハレの日はアナログである方がいいなと思っていて。でも日常のケも大切で。それはInstagramやYouTubeで毎日触れられるようなもの。その2つが常に両方ないと駄目なんですよね」
「ハレ」の場としては、リアルなイベントもまた大きな力を発揮してくれます。相羽建設では、なんと年間で70回ほどイベントを開催。コロナ前は100回近く開催していたとか。

伊藤さんも、「イベントはやはり会社としての強みです」と自信をにじませます。
「完成見学会は工務店さん皆さんやっていますけど、やっぱり建物を見てもらうだけでは厳しいので、そこで何かを体験してもらうプログラムをいろいろ企画しています。大きいイベントは何人かでその開催に向けてミーティングを重ねるのですが、僕らも勉強しながらやっていますね」
年間70回というとほぼ毎週になりますが、このイベントも「全員でやろう」というのが相羽建設流です。
「社員が50数人いて、職人さんも入れれば何百人という会社なので、ひとり1つくらい何か責任担当してやってくれればいいわけです」と相羽さん。その精神だからこそ実現できる取り組みでしょう。
広報誌のネタ集めとともに、こうしたイベント企画もするというのは、社員やスタッフの教育、人間力の育成にもつながりそうです。相羽建設には、社内ベンチャー制度もあるのだとか。
「常に、『新規事業の企画書を書け』と言っています。今の種まきが10年後の未来をつくってくれると思っているので。リフォーム事業や施設建築事業がまさにそうでした」
現在、年間で6億円ほどの売り上げとなっているリフォームも、以前はほとんど手をつけていない事業でした。そこからOB顧客を対象に会員制度の仕組みを一からつくり、今では有料会員も増えています。
「生きている限り、人に起こる偶然の数はたいして変わりませんが、そこに可能性を感じて再現できるかがビジネスだと思っています」と相羽さん。住宅だけでなく施設に事業を広げることになったきっかけも、偶然だったといいます。
「最初、たまたま紹介で高齢者施設をつくることになって。うちの現場監督の知り合いで、『社長、やってみたいんですけどどうですかね?』って言うから、いいんじゃないって。施設が完成した時に、こういう仕事ってすごく面白いし、楽しいし、可能性がありそうだなと思ったんです。どうやったら再現できるんだろうなと模索し続けた10年が、結果的に今、10億円のビジネスになっているんですよ」
バランスを重視!社の理念を守りながら新たな事業を展開
たくさんの種をまき、長いスパンで事業を考えていくことを恐れない相羽建設。なにごとも全員で取り組んでいく基本姿勢を軸に、少数精鋭で事業の多角化を実現しています。
「近年では、東村山の公園管理を請け負っています」と伊藤さん。東村山市は現在、市内すべての公園の管理を民間に委託していて、相羽建設は縁あって市の指定管理業者のひとつになっているそう。管理棟の建物や一部併設されたショップなどの建築に携わっているといいます。そこには新たな展開も。
「10社くらいのコンソーシアムで、事業規模は100億近く。僕らはそのなかで建築の一部を担っています。公園の中の施設を木造化したり、ベンチや遊具をつくったり。さらにそこではフィットネス関係の方、駐車場管理ではタイムズ24さんなど、外部の方とのいろんな関係も生まれてくるんです」
さらには自治会や地域の方ともつながりができ、その方たちが実は不動産オーナーだったりするケースもあるのだとか。
「地主さんや古くから地元にいるような方たちが、『お前たち、公園で一生懸命やっているから、ちょっとうちの相談も乗ってくれないか』みたいな話とかも現実にあったりするんですよ」
伊藤さんによれば、そうした住宅に限らないとり組みをSNSで見て、それをきっかけに完成見学会に来られる方も少なくないといいます。
「先日は東村山の公園で初めて焚き火のイベントを開催したのですが、公園の近隣のポスティングだけで300人くらい来ていただきました」

市の公園で行う「焚き火」のイベントなんて、普通ならなかなか許可が下りなそうですが、そこは管理指定業者だからこそ企画できたところでもあるようです。そもそも、そこに至るまでにも10年近くの歳月がかかっているそう。
「最初は、公園の中に水車があって、それが壊れたので直せないかという話があって。それを山形県で水車を直している職人さんに来てもらって一緒に直したんです。そこから、今度は『毎年出てくる伐採樹木、捨てるのにもお金がかかるから何かで利用してもらえないか』という話があって。僕らでそれをベンチにしたんですよ」
伐採樹木を木場に持ち込んで製材し、乾燥をかけて板にして。さらには、おつき合いのある家具デザイナーの小泉誠さんに入ってもらい、市民とワークショップを開催しました。
「塗装は市民の方にもやってもらって、お金を集めるクラウドファンディングをやったんです。寄付してくれた方のネームプレートを背板に貼って、こんなふうにできましたと結果を報告したりしました」
つまり、行政としては持ち出しゼロ。そんな一連の流れも高く評価されて、今に至ります。
「僕が20数年前に会社に入ったとき、まだ相羽建設では公共事業をやっていたんです。そこから、住宅に特化しようというのが僕が入社して最初の仕事だった気がします。でもここ数年はまた、こういう行政との仕事をしているわけですよね。ただ、その中身はだいぶ変わって、僕らは入札には基本出ませんというスタンスを行政には伝えています。でも、プロポはがんばりますので、と」
価格競争で入札に力を入れるより、プロポーザルで提案力を磨いていくことを選んだ相羽建設。そこはやはり、自社の強みで勝負するということなのでしょう。
「この10年は、ヒアリングをしたり、空き家対策の協議員をやったりしています。行政の仕事もすぐにはお金にならないんですけど、少しずつ関係を構築してきたなかで、今はこうしていい形になりつつある。当時、『社長は何を遊んでいるんだ』って感じだったのが、ようやく芽が出てきたところです」
立川市の複合施設グリーンスプリングスで開催されている「GREEN HOOP MARKET」でも、相羽建設の木の手仕事が活躍しています。ここで使われている木の屋台は、家具デザイナーの小泉誠さんと一緒につくりあげたもの。そこから始まった縁で、今では木のステージや商業施設なども依頼を受けてつくっています。

「そうやって僕がやってきたものもたくさんあるんですけど、最近はスタッフがやりたいというスタッフ発案の企画も広く採用しています。たとえばグリーン事業。外構造園などもそうですが、マンションでも使えるプランターボックスを商品開発したりしています」
新しい企画をどんどんやってみようという方針の一方で、もちろんそこには経営者としてのシビアな目も。
「どんな企画も馬鹿にせず一生懸命にやろうとよく言うんですけど、基本的には5年で10億の兆しが見えるか、1億円の利益を出すか、そのどちらかだと。それがなければその場で廃止ということを言っています。大真面目に事業計画書を出して、収支計画を立てて毎年やっていますよ」
今後のさらなる展望を伺うと、「僕も50を超えたので、60歳で辞めたいなと思っているんです」と相羽さん。もう10年を切ってきたなかで考えるのは、次の世代のことだといいます。
「この業界を担う次の世代の人たちが、どういうビジョンを描くのかというのはすごく大事なことですし、大工や職人にとっても夢と希望がある業界であってほしいというのは、やっぱり考えます。斜陽産業だとか衰退だとかみたいな話は多いですが、衣食住のひとつなのでなくなることはないですし」
そのためには、変化を恐れないことが大事だという相羽さん。
「人間の本能として、みんな昨日と同じ今日がいいんですよね。今日と違う明日は嫌なんです。だけど、より良い未来でありたいという願望は持っているわけで。そういう意味では、昨日と違う今日を一歩踏み出そうということは、いつも社内で言っています。変化を恐れた先には、停滞しかないですからね」
そこで、「人よりうまくやる」のは強者の生き方で難しい、それなら「人がやらないことをやろう」というのが社としての方針です。
「だから、公園もやるし、家具もやるし、なんだかよく分からないことをするのがうちの会社で。そこが生命線としてやってきましたし、プロの経営者としてもそこを大事にしていきたいと思っています。もちろん数字はしっかり管理していかなきゃいけない立場ですが、単なる財務状況だけではなく中身、その数字のつくり方が、他社とは違うものでありたい。それが結果的に、10年後、20年後に結びつけばいいなと思っています!」
【編集後記】
「みんな昨日と同じ今日がいいんですよね。でもそうはいかない」という言葉が印象的でした。
新築住宅の市場が縮小していき、分譲住宅の比率が大きくなった中、特に注文住宅領域に特化してきた工務店さまは環境的に厳しくなっています。では、リフォームやリノベーション、非住宅に取り組むかというと、新しい一歩に踏み出せない、そういう企業さまをたくさん見てきました。
どうして公園管理の事業を請け負えるようになったんですか?と伺うと、「水車直せないか?」という相談があってと。そこから行政との連携が始まり、様々な事業につながっているかと思います。
広報活動も素晴らしいなと思います。
全24Pの広報誌「ainoha」は13年も毎月発行されていて、社内で制作されているクオリティではないなと驚きました。イベント70回なんて、ほぼ毎週です。
これを全社員でやっていくことで、お客様に伝えなくてはいけない自社のポリシーや姿勢、特徴などをより明確に出来ていると感じます。
地域の住宅会社(その括り方で良いかわかりませんが)の在り方について、大変教わったインタビューでした。これからの動向も楽しみな相羽建設さまです。
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