Good Living 友の会の年次大会×LIXIL FUTURE COMMUNICATION
特別対談2024

データを強みに!これからの住宅産業が手がけるべき取り組みとは

株式会社新建新聞社
三浦 祐成さん(左)
慶應義塾大学医学部 教授
宮田 裕章さん(右)

今回は、2024年度年次大会の特別対談「『住宅産業の未来をデザインする』地域連携により共創するこれからの経営」をお届けします。新建新聞社の三浦祐成さんと対談するのは、ヘルスデータサイエンスなどを駆使してよりよい世界を目指す研究をされている慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章先生です。数多くのメディアに出演され、未来に向けたさまざまな提言をされている宮田先生ですが、今回は住宅産業におけるデータサイエンス活用の可能性についてもお話しいただきました。

#年次大会2024 #ウェルビーイング #共創力 #地域活性

【目次】
住環境にも求められるウェルビーイング
データを活用して生み出す住まいの付加価値
住宅ビジネスも変えるデータのとらえ方 ←今ココ

この次の記事は会員限定記事です。続きをお読みになるには、友の会ネットのログインが必要です。
ログインはこちら

Good Living 友の会について詳しく知りたい方はこちら

>可視化して実績をつくることで社会は動く
>教育現場や良い睡眠にも関わる断熱技術
>移民問題から考える良質なコミュニティづくり
>点ではなく面で考える地域活性プロジェクト



住宅ビジネスも変えるデータのとらえ方

三浦 この業界の課題のひとつに、「一回性」というところがあります。普通の人は家を建てるのが1回限りだったりしますし、ほかの事業者にはなかなか頼まないので、事業者とその生活者の方が会うのも下手すると1回限り。賃貸だと、たとえばある家に住んで、その家ですっごい悪さをして、原状復帰しないまま逃げちゃうとか。それも本当に1回限りの取り引きなので、次にその人が家を借りるとき、その人の信用情報がはたして蓄積されているのかというと、なかなか。また悪さしてしまうかもしれないということがある。

宮田 うんうん。

三浦 中国なども今は信用社会になっているとか。

宮田 まさに、激変しています。アメリカとか中国のような大陸の文化にはそういうところがあって、彼らも課題に感じていたんですね。たとえば中国では、交通マナーが悪いと。ちょっと信号を無視したとしてもバレないから、あるいは悪さをしたとしてももう違うところへ行けばいい、そうすると経歴もリセットされるから何の問題もないじゃないかみたいな価値観が横行していたんです。まあ、彼らはちょっと過剰にやった部分もあって、それを監視的なことに使ったデメリットもあるんですけど、今や圧倒的に交通マナーがいいんですよね。もう全部カメラで見られているので。信号無視もしないし、高速もみんな100㎞で走るので自然渋滞も起きにくい。日本から見たら、ある種の異様さもあるんですけれども。今までの日本は、島国の集団性の近さによる、なんとなくのモラルで管理されていたんです。でも、中国ではそれをデータ化して履歴を残すことによって、バンと違う価値になったわけですね。それで、今度は何をしているかというと、たとえば緊急車両が来たら信号が全部そこだけ青になるとか、社会にとって良いことも、データを使っていろいろできるようになってきている。


三浦 ああ。

宮田 住宅業界に関して言えば、まさにこのデータの履歴がつながることによって、売り切り型のビジネスだけじゃなく、その人が生きることを継続的に支えていくことができます。住宅そのものを単に一回性のものとして売るだけじゃなく、その人の生活の変化をデータでとりながら。たとえば水まわりの交換時期とかも、「次はこれくらいのタイミングですよ」とか、「ちょっと劣化が始まっています」とか。あるいは生活そのものが変化するわけですよね。子どもができたとか、介護が必要になったとか、そのいろいろな変化を自分で気づくんじゃなく、こういうデータで察知して提案にしていく。継続的に生きることを支えていく、そういうビジネスに変わっていけば。みんなが住むためだけの最低限の場所を売るんじゃなくて、その場所で豊かに暮らしていける「体験」を提供するんです。デジタルで何が変わるかというと、あらゆる分野が体験価値を軸にしたビジネスモデルに変わっていく。住宅という箱を売る、あるいは機能を売るってことじゃなく、そこに住むことがどういう素敵な体験になるのかを一緒に伴走してデザインしていく。ここの変化をつかんだ企業が、未来に残っていくんじゃないかなと思います。

三浦 おっしゃっていただいたように、住まう人が生きていくのに、ずっと寄り添い続けられるのが、本当は工務店だと思います。そこにはリフォームも含めた事業のチャンスがまだまだある。

宮田 ものすごく可能性はあると思います。

三浦 あの、慶応大学に伊香賀先生という方がいらっしゃるのですが。

宮田 慶応の同僚ですね (笑)。

三浦 はい。伊香賀先生がされているのがまさに、その住んだ後のデータ取りなんです。何のデータかというと、住宅の中の室温と健康状態の相関関係で。平たく言うと、やっぱり寒い暑いってすごく体に負担がかかることですし。

宮田 そうですね。

三浦 あとは脳卒中だとか、心臓になんらかの疾病を引き起こすリスクも高くなっていく。ここのデータの相関関係を取られているんです。その住宅の室温を一定に維持するための技術としては、断熱という技術がありまして。たとえば窓を高性能なものに取り替えるだけで、室温が一定のレンジで収まりやすくなる。住宅業界はずっとそこに取り組んできました。要するに、住宅の高断熱化に取り組んできたんですけれども、やっぱりデータとエビデンスがないと、それが政策に反映されなかったり、生活者のモチベーションも喚起しにくかったりします。でもその伊香賀先生の研究によって、「家が寒いと病気になりやすいんだ」と。「だったら窓を取り替えようか」、「断熱性能を高めようか」と、なんとなく今、そんなモチベーションが生まれつつある。昨年の政策でも少しそこに補助金が投入されたりして、動き始めているんです。これってまさに、データが少し共鳴し始めているということですよね。


宮田 いや、素晴らしいですね。共鳴していますね。

三浦 医の世界と建築の世界、それから生活者、暮らし、なんかこの辺に少しチャンスがありそうかなと。

宮田 ありますね。さらに言うならば、快適な気温も個人差があるんですよ。人種差があるのはすごく言われていることなんですけれど。

三浦 ああ、なるほど。

宮田 白色人種の人たちは我々より寒さに強いとか。黒人の人たちは暑さに強い、僕らは湿気に強いとか言われていて。あとは皮下脂肪によっても、快適と感じる湿度とか温度は人によって微妙に違ってくるんですね。そこに室温を保つ技術が出てくれば、より寄り添うことができる。さらに複数の人たちがいた場合には、どこに合わせていくか。それは、もしかしたら子どもかもしれないし。

三浦 うんうん。


宮田 そういうような調整も自動的にやっていくことができるんじゃないかと。さらに、寝る時の室温ですよね。寝るときもやっぱり一定というよりは、最初は暖めながら、睡眠に入ったら少し下げて、頭寒足熱って言いますけれども、今度起きるときにはスーッと自然に暖まって布団から出たくなるようにするっていうことができれば。睡眠の質とかも恐らく、かなりいいんですよ。つまり、体への負荷っていうことだけじゃなく睡眠の質を上げる室温など、ウェルビーイングを上げる。ご指摘のように、たとえば心筋梗塞は絶対的な寒さというよりは気温変化ですよね。前の日に暖かくて、次の日くっと寒くなったときに心臓に負担がかかるので。そういう急激な変化を体にもたらさないように、いかにこの空間を包み込むのかっていう視点ができれば、もう今までの住宅とは革新的な変化になりますよね。



この次の記事は会員限定記事です。続きをお読みになるには、友の会ネットのログインが必要です。
ログインはこちら
Good Living 友の会について詳しく知りたい方はこちら


次ページ
   可視化して実績をつくることで社会は動く